「抱いていい?」 


「なっつん、ちょっと立ってみて?」
「は?」

出し抜けにそう言うと、ほのかがオレの腕を引っ張った。
何を思いついたやらと立ち上がるといきなり抱きつかれた。

「ちょっ!おいっ!?」
「ん〜〜〜〜〜っお・も・いっ!」
「!?」

どうやら抱きついたのではなく、オレを持ち上げようと・・?
訳がわからずされるがままでいたが、はっと我に返る。

「なっつん、ちょっと力抜いてくれる?」
「・・力入れたりしてないが・・」
「ホント!?踏ん張ってたりしない!?」
「してない。」
「そうか・・なっつんって体重何キロ位?」
「・・・何考えてんだ・・?」
「ちょっと持ち上げてみたくて。」
「なんで・・?」
「馬鹿にするでないよ、ちょいとじっとしてて!」
「馬鹿にしてない。理由を言え、なんなんだよ!?」
「なっつんを抱っこしてみたいの。」
「ぶっ・・だから、どういう訳でだ!?」
「理由?そんなのどうでもいいじゃん。してみたくなったの!」
「むちゃくちゃな・・」

アホらしくなってオレは逆にほのかを持ち上げ、身体を離して下ろした。

「わあっ!?ちょっと、なっつん。やめてよ!」
「アホなこと言ってんなよ。無茶すると腰痛めるぞ。」
「なっつんてそんなに重いの?もしやへビー級?!」
「あのな・・オマエよりは重くて当然だろ。」
「でもさ、一瞬浮かせるくらいならできるかもしれないでしょ?」
「オレはバーベルじゃねんだ。それなら貸してやるから軽いのから・・」
「違うの!力を試したいんじゃなくて、『抱っこ』をしたいんだってば。」
「訳のわかんねぇこと言うなよ!?」
「うーん・・・無理かなぁ?できるかと思ったんだけど・・」
「あー・・オレをそうしたい理由は!?」
「ちみは理屈っぽくていかんよ。特に理由はないってば。」
「あ・・そ・・・」
「もしかして抱っこされるのってイヤ?恥ずかしいの?!」
「オマエに抱き上げられたいってなら、オレは変態だぜ!」
「じゃあ譲歩するよ。抱っこしたいからそこに座りたまえ!」
「なんだその命令!!」
「抱かせてよ。」
「だっ・・オマエ言っててオカシイと思わないか・・?」
「そお?変かな?」
「オレが言ったら完全にセクハラだ。」
「『抱かせろ』あ・ホントだ、それっぽい!」
「口に出してそんなこと言うなっ!!」
「うるさいなぁ・・なっつんよくほのかのこと抱いてくれるじゃないか。」
「ひっ人聞きの悪いこと言うなよ!いつオレが・・」
「さっきだって抱き上げたじゃん。」
「持ち上げたんだ!だっ・・だい・・た訳じゃねえ!」
「あはは、顔赤いよ、ちみ。なんで照れてんの!?」
「うるせえ!何てこと言わせるんだ、ったく・・」
「なっつんが何怒ってんのかわかんない。」
「もーそれはいいから!抱・・いやいや、持ち上げるのはあきらめろ、な。」
「持ち上げるのはあきらめたから、抱かせて。」
「だーーーーっ!振り出しかっ!?」
「そんなに嫌がるなんて・・ほのか傷つくじょ・・」
「なんかおかしい・・おかしいだろ、それ!?」
「ほのかに抱かれるのがイヤだなんて!」
「わーーーっ!オカシイって。オマエ、落ち着けよ!」
「・・・慌ててるのはなっつんじゃんか。変なの。」

”そ、そうだ。落ち着け、オレ。慌てるな、ほのかに他意はない!”

「もっとほのかがおっきければなぁ・・なっつんちょっと縮んだらいいよ。」
「縮むかっ!(怒)」
「むー・・とにかく抱っこさせてえ〜!」
「も、好きに・・すれば・・?」
「抱かせてくれるの!?」
「はは・・いいからもう黙ってくれ!(涙)」

脱力してソファに腰を鎮めると、ほのかは嬉しそうにオレに両手を広げた。
抱き寄せてオレの頭をよしよしと子供みたいに撫でた。くすぐったい・・

「はー・・いい感じ。安らぐー!」
「・・・オレは安らがねー・・!」
「じっとして。黙ってれば可愛いのに、やだね、この子は。」
「・・・・その台詞を殴り返してやりてぇよ・・」
「え!?ほのか黙ってると可愛い!?やー・・照れるなあ!」
「アホか・・オマエどんだけ・・もうなんか空しくなったぞ・・・」
「おっ大人しくなった。よしよし、なっつんはいい子だね〜!」
「・・・・」

ほのかは満足そうに頬擦りまでしてきた。これって・・セクハラじゃねぇ?
オレがやったら、相当ヤバイだろ?・・・だよな、間違ってない・・はず。

「おい・・まだか?いい加減離してくれ。」
「んー・・もうちょっと。」
「はーーっ・・一人で安らぎやがって。オレもするぞ、こら。」
「そっか、いいよ?どうぞしてして。」
「・・・え・・?いい?」
「ウン、いいよ。」

ほのかが手をゆるめ、オレの眼前でにこやかに笑っている。
至近距離で眼が合って、思考が一旦停止状態に陥ったようだった。
ゆるく頭を抱かれて、オレの膝の上でほのかが”抱いていいよ”と・・
ちょっと待て、なんだこの状況!?オカシクないかっ!?

「なっつん、固まってどうしたの?」
「はっ・・はは・・ちょっと、な。」
「遠慮はいらないよ。」
「あー・・気持ちだけもらっとく。」
「なんで?抱いてくれないの!?」
「ぶっ・・その台詞もヤメロ。」
「ほのかだけなんて申し訳ないよ、抱いてよ。」
「うー・・そういう台詞はあと3年くらい後にしろよ。」
「なんでそんなに後なの?いいって言ってるのに。」
「オレはまだちょっと・・準備できてないんだよ・・」
「準備?なんの!?」
「”いい感じ”で止める方法とか・・」
「???」
「取りあえず退け。もう気は済んだんだろ?」
「・・・ウン・・けどなんか・・」
「オヤツでも食うか!なっ!?」
「なんか・・誤魔化されたみたいで納得できないなあ・・」
「できなくてもしろ。」
「じゃあ・・代わりにキスして?」
「・・・・・ほのかさん・・・?」
「きもちわるっ!なに”さん”って。」
「さっきから・・オマエ・・オレをどうしたいんだ?」
「どうって?好きだから抱っこしたかったんだよ?」
「へえー・・」
「なっつんもしてくれたらもっといいのに。拒否されたの?ほのか。」
「えーと、オレはどうも初めから間違ってた、ってことなのか?」
「なんのこと?」

首を捻るほのかの顔には何の躊躇いも後ろめたさもない。
このおじょうさんは、つまり・・

「・・オマエ意味わかってて言ってたの?」
「なんの話してるの?」
「『抱かせろ』の意味だよ。」
「わっ・・なんかヤラシイねっ!なっつんが言うと。」
「どっちなんだよ!?」
「よしよし、なんだかよくわかんないけど慌てないでね?」
「オマエがややこしいことしてんじゃねーかよっ!!」
「えっえっなんで怒ってるの!?」
「知るか、もうっ!」

ほのかの身体を抱きしめるときゅっと小さな悲鳴が聞こえた。
ちょっと躊躇い顔を覗きこむと、またにっこりと微笑んでオレに手を廻す。
抱きしめられて、心地よい。もう考えるのがばからしいから・・・
頭を空にして、抱きしめて瞳を閉じた。ほのかはくすくす笑っている。
オマエがちょっとは反省するくらい、お返ししてやる気になってきた。
まずはその口黙らせてやろうか・・と考えていたら、ほのかの様子がおかしい。
力の抜けた身体から伝わる規則正しい呼吸。寝たフリとは違うように見える。
耳元に小さな声で「いいのか・・?襲うぞ?」と囁いてみたが反応は無し。
溜まっていた息を長く吐き出して、再び眼を閉じた。
わかったよ・・これで満足しとく・・これはこれで”いい感じ”だしな。







夏くんにセクハラするほのかでしたv
結局この後二人でうとうとして昼寝に突入です。
どっちもどっちだよ、って話。(^^)