COOL!?


仏頂面の恋人って、皆はどう思う?
クールって誉め言葉だと私は思えない。
感情の浪費?とか言うのも気に入らない。
私?私はね、どんどん喜怒哀楽を示すよ。
・・隠そうったってできないんだけどね。

私のダイスキな人はね、私とは正反対。
だけどね、シャイなんであってクールとは違うと思う。
恥ずかしがりのテレやさんなの。そうだったんだよ?
それなのに・・この頃隠してるのか無表情なのだ。
私が引っ付いても、チュウしてもなんだよ!?
飽きられたとか慣れ過ぎたとかヒドイこと言う人もいる。
そんなことないと思いたい。だってだって・・・
私はちっとも飽きたり慣れたりしていない。
どうして顔に出して見せてくれなくなったの?


「よう、ほのか。元気・・じゃなさそうだな?」
「あぁ会長さんか・・ちみは元気そうだね〜!」
「ははーん・・谷本と喧嘩でもしたんだろ!?」
「まさか。なっちは相変わらずなのだからね。」
「ほう・・じゃあその不景気面の説明をしてみろよ?」
「むぅ・・だってこの頃・・なっち仏頂面でさぁ・・」
「アイツはオレたちの前ならいつでもそうだぞ?」
「・・ほのかにはもっと可愛い顔見せてくれてたんだよ・・?」
「なんでそんな貴重な顔を証拠として撮影保存しとかんのだ!」
「はぁ・・なんだかほのかもそんな気がしてきたよ。」
「思ったより深刻そうだな。・・もしや浮気か!?」
「ええっ!?う・うわき・・なっなっちが・・そんな!?」
「よしよし、この俺様がちょいと真相究明に協力してやろう。」
「おおっ!宇宙人なのにちみってイイ奴だったんだね!?」
「・・・お前ね、マジで言ってるだろう、それ・・」


宇宙人で新白連合会長さんの命を受けて私はなっちを調べることに。
名探偵ホノカは言われた通りこっそりと後をつけたりなんかした。
でもね、段々なんだかイヤな感じがしてきて・・やめようかなって思った。
だけど・・なっちが見知らぬ女の人と・・会うのを見てしまったんだ!
ウソだと思いたかった。すごく優しそうな顔をしていたのだ、なっちが・・
あんまりショックだったんで、その場から逃げるように帰ってしまった。
もうどうしたらいいかわかんない。女の子に興味ないって言ってたくせに!
確かめるのが怖くて私はいつもなら問い質すなっちの元へ・・行かなかった。

数日私は元気が出なくて溜息ばっかり。直接訊けばいいのにと何度も思う。
だけど足を向けようとしても竦んでしまう。こんなに臆病な自分が信じられない。
誰かしらに聞いてもらいたいのに、それもいざとなったら言えなくて・・
黙ったままでいると嫌な気持ちまで留まってしまうのか元気は目に見えて減った。

このまま会わなければなっちは私のことなんか忘れてしまうんだろうか。
想像だけでぞっとしてしまう。やっぱり会いに行く!?どうする!?
一週間も経った頃、とうとう決心して会いに行こうと決めたその日の放課後、
校門の傍に人垣が出来ていた。頭一つ大きいからすぐにわかった。なっちだ!
きゃあきゃあと賑やかな女子生徒に囲まれて、困っているような様子だった。
会いに来てくれたんだ!?単純だけど嬉しかった。ちっとも変わりないことも。
懐かしくて思わず見惚れてしまった。近づくとなっちはすぐ気付いてくれた。

「やあ、久しぶり。今から少しいいかな?」
「う・・ん・・いいよ。」
「じゃ行こうか?」

皆がじろじろと私のことを見た。だけどなっちが手を差し出してくれたので
ちょびっと得意な気もした。そうっと私も手を出すと、なっちがその手を掴んだ。

”わあ!なんか・・どうしよ!?”

現金な私の胸がときめいた。手には強く握る掌の温度が熱い。
周囲の羨ましそうな視線に見送られながら門を出た。誰も追いかけては来ない。
手を引かれて後をついていく。しばらくすると振り向かずに歩きながら

「人が多いな・・・近道するぞ。」

なっちはそう小声で囁くといきなり振り向いて私を抱き上げた。
慌てたけれど「目、瞑っとけ。ちょっと飛ばす。」と言われて素直に目を閉じた。
すると体がふわっと浮いたと思ったら高いビルの上にいた!思わず目を開けたの。

「目は怖くないなら開けててもいいが、口は閉じてろ。舌噛むといけねぇから。」

慌てて頷いた。ひょいひょいとなっちは遊んでるみたいな軽い足取りで屋根を行く。
不思議だった。スゴイスゴイ!と心の中で歓声をあげてた。鳥になったみたい。
楽しくてあっという間になっちの家に着いた。こんなに早いなんて信じられない。
ほんの数分しか経っていないはずだ。なのになっちは息も切らしていなかった。

「到着!早いねっ!スゴイよなっち!」
「・・久々に笑った顔見たな。」
「あ・・ウン・・」

つい出してしまった声になっちが少し笑った気がして、顔を俯けてしまった。
なんだか久しぶりに眼の前でなっちの笑顔を見たら・・胸がどきんと鳴ったのだ。
七日ぶりのなっちの家のソファには私専用のクッションやカップが待っていた。
嬉しくて「ただいま」と言って抱きしめてしまった。なっちがふぅと息を吐いた。
そしていつもの椅子に座ろうとしたなっちに向かって私は頭を下げて謝った。

「ごめんなさいっ!なっちの後つけたりして!」

頭を下げたままでいると、なっちの声がした。怒ってないみたいだ。

「新島に大体の話は聞いた。で、なんでオレんとこに確かめに来なかったんだ?」

あの時のことを思い出してじわっと込み上げた。まだはっきりと胸が痛い。
だけど勇気を出せと自分を励まして、顔を上げてなっちを見た。表情には感情がない。
この顔がそもそも気になってのことだった。だけど今はそれじゃなく質問に答えた。

「あ、あの人・・誰なの?・・って訊くのが怖かったの・・」
「あのヤロウも浮気相手かと尋ねやがるからアホかと・・仕事先の社長だし。子持ちだぞ。」
「えええっ!?あ・あんなに若いのに!?」
「あれでもオレより20くらい年上だったはずだ。」
「なんと!?ウチのお母さんより年上なのおっ!?」
「そうかもな。しかし年齢はこの際どうでもいい。」
「あ・・ウン・・綺麗な人だったからさぁ・・ほのかと正反対というか・・・」
「オマエは浮気現場だと思って逃げた、と新島が言ってたが・・」
「う・・そ、そう・・なるね;」
「にしたって一週間も音沙汰ないってのは気になった。」
「ウン、ほのかもなんだかどんどん怖くなって・・会いたいのにどうしようって・・」
「オレが無表情だとかどうだとかってのがそんなにひっかかってたのか?」
「ウン・・ちっとも・・ほのかといて楽しくないのかなぁ・・とか思って・・」
「どうしたら元気出るんだ?オレに直接今不満ぶちまけるか?」
「なっち・・もうほのかに飽きちゃったの?!それともっ・・」


・・・人が思い切って話し始めようとしたのに・・・
なっちが急にほのかにキス・・してきたんだ。びっくりした。
それも・・なんか・・こんなのは・・初めてだ・・よ・・・!?

怖くなってなっちにしがみついた。頭がぼうっとしてなにがなんだか・・

「・・・に・・すんのっ!?ばかぁっ・・・!」

もがいて離れてもすぐには口が利けなかった。肺が痛くて苦しい。
それに体中から力が抜けちゃってて、かなり迫力不足な文句だった。

「口で説明するより早いかと思ってだな・・」
「わ・・ぅ・・なんですかそれは!横着者!」
「わかんねぇならわかるまでするぞ。」
「えっ!もももうっ・・いいっ!くらくらするんだけどっ・・!」
「浮気を疑われたんだからオレだって文句言いたいくらいだぜ。」
「違うの?!ほのかのことキライになったりしてないんだね!?」
「どこ見てんだよ、いつも・・」
「なっちしか見てないよ。ダイスキだよ!ずっと変わんない・・」
「じゃあ何も心配することねぇ!わかったか?!」
「ぅ・ウン・・何かクヤシイ気もするけど。」
「オレだってそうだ。ったくわかんないヤツだな!」
「わかんないのはそっちじゃないか!?」
「ニヤニヤしてたら前に怒ってたじゃねぇかよ!?」
「えっ!?・・・そうだっけ・?」
「街中じゃあこんな風にキスもできねぇってのに無闇に誘うなよ!」
「えっ?えっ・・?!」
「誘うだけ誘って知らん顔ってのもむかつくしな。」
「はい!?ほのか・・いやがったり・・はしてないと思うんだけど・・」
「ちょっと迫ろうとすると逃げるし・・怖がらせてんのかと・・」
「ええっと・・そんなこと・・・あった・・??」
「オレばっか悪者にすんな。オマエだって相当悪女だ。」
「あっ悪!?悪女はないよ!言いすぎだと思うっ!」
「なんで新島なんかに相談するんだ!オレに言え!」
「ちょっと待って。それ微妙にズレてる。会長関係ないじゃん?」
「うっせぇ!普段はうっとうしいくらいオレに何でも言うくせしやがって・・」
「だってだって・・心配だったんだもん!色んなこと言われてっ・・」
「そんなのを信じてオレのことを信じられないってのが気に食わねえっ!」
「あれ・・?ん〜と・・待って待って!なっちぃ・・なっちもしかして・・?」
「なんだよ?」
「・・拗ねてるの?ヤキモチも妬いてるみたいな・・気のせいかな・・?」
「ああっそうだよっ!」

誰がクールって言ったんだっけ?無表情なのはもしかしてガマンしてたの?
飽きたとか慣れたとかって・・そういえば誰に言われたかも定かじゃないし。
ほのかが何をしたって・・なっちは今までと変わりなく・・してくれてた!?

「なっちごめん!ほのかもダイスキだよ!!」

なっちは怒ってた。それが嬉しかったの。ぷんぷん怒って八つ当たりみたいに。
だから微笑んだ。でもってなっちに抱きついた。これも久しぶりで気持ちイイ!
素直じゃないね、ほのか。私がいけなかったんだ。疑うにもほどがあるよね!?

「ほのかも拗ねてたの。ホントにゴメンね?ねぇ・・なっちぃ・・ゆるしてよ・・」

精一杯甘えた声でお願いした。ゆるしてくれるって信じて一生懸命にね。
なっちは黙ってぶすっとしていたけれど、突然にやっと笑った。・・・おやあ?

「ゆるしてやるから、キス。オマエからくれよ。」
「えぇ〜・・・!?」
「なんだよ、嫌ならいい。もうちょい許さないでおくぜ。」
「わかったよ。もう!なっちエラそうでヤな感じ!」

だけどお詫びの意味も込めて目蓋を閉じた。なっちの唇に自分のを重ねる。
我ながら上手にできたと思ったんだ。なのに・・・目を開けるとなっちは無表情。

”あれ?ダメだったのかな?!” 不安になってもう一回やり直してみた。
”どうしよう・・舌入れないとダメなのかなあ・・?!ほのかそれは・・ヘタなんだよ〜!”

困ってしまって泣きべそになった。そしたらなっちがふっと眼の前で笑ったの。
それを見てほっとした。だから私もにっこり笑った。許してもらえたんだと思った。
だからとっても幸せな気分だったんだ。なっちは何も言わなかったけれど。
だからその後、ぎゅっと抱きしめられて・・嬉し・・かったの、そこまでは・・

あのさ、イヤじゃないよ?だけどさ・・いきなり押し倒されたら普通慌てるよね?
それも仏頂面でだよ!?なに考えてんのっ!?って誰だって思うでしょう?!
びっくりしてヤダって叫んで顔を叩いちゃった。・・・私が悪いかなぁ・・?
くすん・・そしたらまたなっちったら拗ねちゃって・・・困ったよ・・

「なっちが悪いんだもん・・いきなりあんなとこ触るから・・」
「オマエだってなぁ・・しがみついてきたじゃねぇかよ・・!」
「それは・・だけど・・心の準備もなかったし・・!?」
「いつになったら準備が整うんだよ、オマエの場合・・」
「もっとわかりやすく伝える努力をするとかは・・!?」
「・・・・どうすりゃいいんだ?触るぞって予告しろってのかよ?」
「うわ〜ん・・・そんなの・・ヤダぁ〜!」
「あんまりオレに期待すんな。オマエにだけは芝居もできねぇし。」
「どうしてほのかだけ?」
「さぁな。オマエにはなんでかな・・困ったもんだ・・」
「そうかぁ・・今のはかなり効いたよ!ウン。」
「効いた?効いたって何がっ・・・!?」

女心のわからない恋人にね、小さな声で囁いてあげた。
世話の焼ける人だな、知ってたけど。ふふ・・そこも好き。
仏頂面でも口が悪くてヘタな台詞でもノープロブレムだね。
隠すのが私は苦手。だからありのまま。彼は隠すの、シャイだから。
だから・・・わかってあげなきゃね?私だけの特権なんだもの。


”あのね・・・ゆっくり・・なら・・怖くないと思うよ・・?”









要するに・・欲求不満だったんでしょうね、夏さんは。^^;
それは彼女にばれないように気を遣うよねぇ・・男も辛いよ。
仏頂面は危険信号ということを今回ほのかは学びました!(笑)