「Blind love」 


予感がした。だから驚きはしなかった。ただ・・
しばらくの間、ただただ途方に暮れた。
このまま触れたら踏みとどまれないと思った。
しかし外はもう夜中としか言えない時刻だ。
無防備に眠っているそいつを起こすのも途惑われた。
最良な対処は毛布でも持って来てこのままそっとしておく。
闘いで疲れたオレには言い争う気力もあまりない。
そいつの寝顔の睫が揺れるのにさえ胸が躍ったとしても、
微かな吐息がどれほど甘く響いていたとしても。
触れてはいけない。そう思えるだけの理性はあるにはあった。

オレが帰るのを待っているうちに眠ってしまったのだろう。
出掛けに引きとめようと涙すら浮かべていたのだから。
見ているのが辛くてコートに隠した涙。
引き止める言葉を飲み込もうとした口付け。
オレの卑怯さを責めもせず、待っていると言った。
その言葉が嬉しくて待っていろと告げたのはオレなのだ。
オレがこうなるよう仕組んだことと言える。こいつは悪くない。
疲れた身体を休めたいのにオレは身動き出来ずに居る。
ほのかの吐息一つを取っても目を離すことができない。
今すぐこいつを抱きかかえてベッドへ引き摺って行きたい。
このまま夜明けまで眠らせてやりたい。・・どちらも本音だ。
どれぐらいこうしてぼんやり見ているんだろう。
自ら招いた結果に身動きが取れなくなるという愚かさに笑いすら込み上げた。
風邪を引くほど部屋は寒くないとは言え、このまま朝を迎えるのはまずい。
頭を大げさに振って正気を取り戻し、気力を振り絞った。
毛布か何か取って来るんだ、夏。オレは自分に言い聞かせ踵を返した。

「なっつん・・?」
部屋を出ようとした途端に背後から掛かった声に固まった。
寝ぼけているのかもしれない、寝言であって欲しいと瞬間に願う。
「なっつん、お帰りなさい!」
オレの背にはっきりとした声が届いた。振り向けなかった。
「ごめんなさい、寝ちゃってた。なっつん、どうしたの?こっち向いて!」
「・・毛布を取って来てやる。もう遅いからこのまま寝てろ。」
ほのかがオレに手を伸ばす前にと焦るように声荒く言う。
「なっつん!顔見せて。ほのか待ってたの、なっつ・・」
オレの腕に手が触れた。柔らかい指先を感じたらどうしようもなかった。
きつくオレに抱かれたほのかが何か言っているのか聞えない。
押し付けた胸に顔が埋もれているからだ。
理不尽にもオレは「なんで帰らなかった!?」と責めた。
やっとの思いで顔を上げたほのかがオレを見つめていた。
「待ちたかったんだもん・・・なっつんに好きって言いたくて・・」
待っていろと言ったのはオレだ。何故気付かない?
あまりに己が愚か過ぎてもう嘘を吐けないと半ば開き直る。
「オレはおまえが待っている予感がしてた・・・」
「うん?」
「だからおまえは悪くない。」
「うん・・」
「待っていて欲しかったんだよ、卑怯にもな。」
「ううん、違うよ!」
「違わない、待っていろと言ったろう?おまえはそうするだろうと思った・・」
「なっつんてば、違うの、ほのかのこと嫌いにならないでね?あのね・・」
「帰して欲しくないから言ったんだよ、待ってるって!だから・・おんなじ・・」
ほのかの瞳から湧き上がる光りの粒が綺麗で目が眩みそうになった。
「もう帰れない・・・だから帰さないで。お願い、なっつん・・」
そっと光る粒に唇を寄せるとほのかの目蓋がゆっくりと閉じていった。
「・・・帰さない・・・もう帰せない・・・ほのか・・」
触れ合った互いの唇は光りの粒の味がした。


夜明けまでずっと離れずに居た。
一緒に居たかったのだから、互いに。
光りの粒が互いの頬を濡らしても構わなかった。
きっとこの光る雫の味をふたりはずっと忘れない。









「Blindfold〜目隠し〜」の続きでした。大人向けですか?これ・・
裏一歩手前にしてみたんですけど、だめかしら??(ドキドキ)
えーと、この続きは〜;多分裏でね?!(苦笑)