B-BOX 


ちょっと内緒の寄り道をしてしたのが予想以上に遅れた。
だけど部活だから遅いと言ってあるし、と自分に言訳する。
遅れたくらいでなっちは怒ったりしないと安心してもいる。
ちょっぴり申し訳ない気持ちでもってその人のところへ。
やっぱり待ってなんかいないとごく有り触れた対応だった。

「いやぁ・・急いだから喉渇いちゃった。何か飲みたい!」
「・・冷蔵庫から勝手に好きなのを飲め。」
「わあーい!さんきゅう、なっちー!?」

ほらいつも通りとほっとしつつ冷えた飲み物で喉を湿らせる。
内緒はあまり得意じゃないし、なっちはわりと鋭いので警戒する。
首尾よく目的は達したし、あとは寄り道がばれなければいいのだ。
ところが、居間に戻るとなっちが珍しく怖い顔をしていた。

「これはオレの物じゃないが・・・どうした?」
「えっ?!あぁ・・それかぁ・・借りて着たんだよ。」

なっちがほのかの鞄の上に脱ぎ捨てた上着を指して言った。
それは借り物だと正直に話した。それは嘘でもなんでもない。
それなのになっちの顔は曇ったまま。というか悪化してる!?
そのときはまさかそれほど怒らせただなんて夢にも思わない。

だってなっちは・・

いつだって偉そうにしてても、(クールなつもりなんだよ)
優しいお兄ちゃんみたいで、(ほんとのお兄ちゃんより過保護)
ほのかのことこっそり目を細めて見てたり、(なんか落ち着かない)
だけど心配したり気遣ってくれたりして、一緒にいるといつだって
安心で。物足りないくらいだって思っていた。優しすぎるだなんて。
なっちはほのかに甘いんだよ、すごく好きなんだと自慢したいくらい。


「・・この前言ってた奴に借りたのか?」
「ううん、違う。俄か雨降ってきて寒かったんで借りちゃった。」
「・・今度はソイツが付き合いたいとオマエに迫ったのか!?」
「まさか!違うよ、ほのかに貸してくれた人はそんな人じゃ・・」
「こないだからオレに妙な嘘吐いてるだろう・・・なんでだ?」
「嘘なんか吐いてないし。なっちってば感じ悪いじょ!」

内緒のことがあったのでぎくりとしてしまった。そしたら突然、
パタンと軽い音がしたのはほのかの体がソファに落ちたからだ。
どうやったかよくわからなかったけど、とにかく気付いたら仰向けで。
「え?」と思うより早かったかもしれない。そして驚いて目を閉じた。


キス・・してる?!と気付いたのは相当経ってからだった。
とにかく頭は痺れておかしいし、息は苦しいしでわけが解らない。
心臓もすごい勢いだったし、何より体が勝手に怯えて震えていた。
ぼろぼろっと水滴が耳に滴り落ちてきたのでヒヤッとした。涙だ。
声も出ないくらい怖かった。なっちなのになっちじゃないから。
口が解放されたと思ったらセーラーを捲り挙げられ刺すような痛みがきた。
痛さで喉がくっと鳴ったけど、やっぱり悲鳴どころか声はさっぱり出ない。
スカートを捲くられたときはさすがに焦って、力の抜けた手だったけれど
乱暴な手を阻止したくて抵抗を試みた・・・けど、なんの役にも立たない。

じわじわと恐怖が増していくのがわかった。何をされそうなのかが
真っ白な頭でもわかり始めたから。そんなになっても声は出てこなくて。
出そうとすると口を塞がれたせいもあるかもしれない。何度も何度も。
もう抵抗すらできなくなってきた。力が入らず、熱くて体が蕩けそうだ。
そのあたりで声の代わりに荒い息遣いが耳に入ってきた。自分のものと思えない。
体のあちこちが痛かった。なっちの唇が通った後、痺れたようになる。
ふと腕に吸い付かれているのを目にしたら、跡が赤く花が咲いたように見えた。
ああ、それで・・体のあちこちが痛むんだとわかった。痛くてじんじんする。

無抵抗に体を任せてしまったとき、再び戻ってきた唇の熱。
ちょっと長すぎて気が遠くなるほど・・・キスだなんて思えない熱さ。
べとべとだ・・・そう思った。舌も痛い。同じように吸われたから。
全身が濡らされたみたいだなとぼんやり思った。・・・のは間違いで。

濡れていない箇所があった。覆われていた布はどうなったんだろう?
よくわからない。とにかく湿っていないことだけはわかった。何故って・・
いじられて湿りだすのを感じたから。なんで?なんでこんなになるの!?
湿った音がしてくるとなんだかものすごく恥ずかしい。どうしてこんなこと
されてるんだかわからない。これは・・なっちのしたかったことなの?
問いたくても余裕がない。ますます息が苦しい。酸素不足で喘ぐしかなくて。
一体何が原因で、何故優しい彼はこんなになってしまったんだ。
なっちはほのかがこんなに泣いているのを放置したことなんか
一度も無かったのに、そう思うと悲しくなって余計に涙があふれ出た。

ねえもうそこを触るのやめて。そう言いたいのに話せない。
やっとやめてくれたと思ったら・・・やめてやめて脚をそんなに広げないで!

「っ・・・ゃ・・・ぃゃぁあああああっ!」

喉の奥から搾り出してやっと出てきた。なのに大きな手がほのかの口を挟んで
その救いの音を締め出した。こんなに意地悪なひとだなんて知らなかった。

「オマエは・・オレが好きだと言ってたじゃねぇか。嘘だったのか!?」
「・・・う・・そ・・?な・・・ん・・でっ・・?!」
「やましいってオマエの顔には書いてある。気付いてないと思ったか。」
「・・・だっ・・て・・おっ・・おどろかせ・・たく・・って・内緒・」
「驚くかよ!なんなんだそのおかしな理由は?」
「・・ぷれぜんと・・だから・・びっくりさせ・・たくて・・」
「何の話だ?オマエの借りてきた上着の男となんか関係あるのか?」

「・・・・だからあれ・・は雨が降ってきたから・・部長が余分を・・」
「・・・オマエに付き合えってしつこく迫ってた男は!?」
「部長に・・怒られて・・・休部・・してる。」
「なんだと・・・」
「おねがい、なっち・・・恥ずかしいよ、この格好・・!!」

会話がちゃんと噛み合ったかどうかわからない。ただ只管脚を閉じて欲しくて
押さえられて広げられて・・きっとほのかの全部が丸見えだと思うこの格好。
涙が有効でなくても何とかしたくて考えようとするけどうまくいかなくって・・

ふっと体が軽くなったのはその羞恥がピークだったころだと思う。
なっちの体が離れた後もしばらくは「?」が頭に浮かんでぼうっとしてた。
ぼんやりしているとどこかへ行ってすぐに戻ったなっちが手にタオルを持っていた。
ごしごしと顔から拭いてくれた。・・・温かくてほっとしたんだ。

「すまん・・残りは自分で拭け。・・悪かった。」
「うん・・うわ・・べとべと・・あっあっち向いてて。見ないでっ!」

ぐるんと勢い良く体ごと反らしてくれた。なんかいつものなっちに戻ってる。
さっきまでの人と違う・・そう思いながらみっともなく乱れた服を整えた。
なっちはまたどこかへ行ってたけど戻ってくると着替えていた。

「ずるい!ほのかも着替えたいよ。でも着替えが・・・」
「オマエどんな理由でも男物の服なんか借りるのやめろよ、今度から。絶対。」
「う・・うん。もしかしてそんなことでほのかこんな目にあったの・・?」
「オマエが学校でもててる話なんかするからだ。要らん心配したってんだよ。」
「!?・・そうなのか。ふぅ〜ん・・なっち・・ヤキモチ妬いたの?!」
「・・フン。」
「・・なんだぁ・・・ほのかせっかくのサプライズプレゼントばらしちゃったし。」
「誕生日でもないのになんだよ、プレゼントって。」
「・・・ほのか中学卒業記念。それを渡して記念に初ちゅーをしてもらう計画が・・」
「そういうのはオレから渡すもんだろ!・・ってか初・・なんたらは・・悪い。」
「内緒してたのはそれだけ。ほのかモテる話なんか一度しかしてないよ!」
「・・けどオマエ妙に部活が増えたと言うし、最近男の話もよくするじゃねぇか。」
「男って・・・テニスの試合のことしかしてないよ。なんか違ってるでしょ!?」
「だれだれがかっこいいだの、強いだの、教わりたいだの・・・むかつく。」
「・・・じゃあアイドルは?好きな人教えようか・・?」
「いらん。どうせ知らんし。とにかく男の話禁止だ。内緒はもっとダメだが・・」
「・・・ものすごく我侭言ってるって思うんだけど・・・なっちぃ・・?」
「オマエも高校生なんだから、もうちょっと警戒しろと言いたかったんだよ!」
「ウソツキ!違うでしょっ!?ヤキモチ妬いたんだ。ほのか取られるとでも思ったんでしょ!?」
「う・っさい!オマエは・・オレんだ・・今更知らんとか言うな・・よ。」
「そりゃほのかなっちのこと好きってずっと言い続けてたけどさ。なっちは言ってないじゃん。」
「・・・・・好きだ。・・言ったぞ?もう言わないからな!」
「棒読み!それが演劇部長の台詞!?やり直しだよ、はい、もう一回!」
「うるせぇうるせぇ!芝居じゃねぇから一度だけだ。ちゃんと聞いてろよ、今度こそ。」

ちょっと身構えてしまった。さっきのことを思い出して。だけど今度は大丈夫。
なっちの腕はほのかをまた乱暴に捉まえはしたけど、耳元に囁かれた言葉は小さくて甘い。
くすぐったくて肩を竦めた。「ほのかも好き。だからゆるしてあげる。」

”怖がらせてすまん・・・ほのかのことが・・好きだ。”

大切にしまっておくね。なっちは照れて何度も言ってくれないだろうから。
さっきまでの怖さは黒い箱に閉じ込めてしまった。もう宇宙の彼方に消えたのだ。
ブラックボックスって言うんだよ。怖い想いや失敗なんかの悪いイメージもポイ!
どっかへ消えちゃうの。だけど、なっちにもらったのはそんな黒い箱じゃなくて
心の奥の、一番大切な場所においておくんだよ。

「あっ!なっち!!ほのか、初ちゅーもやり直しを要求するよ。」

どうして顔を顰めるのかな?なっちの意地悪や怖いところは箱に閉じ込めるべき?

「・・オマエわかってねぇな・・ソレはなぁ、そっから先もOKって意味だぞ、バカ。」
「・・そんなの知らないもん。OKはOKだけど・・あんなに怖いのはもうイヤ。ダメ。」

そう言って拗ねるとなっちはごめんなさいと頭を下げて、ちょんとちゅうしてくれました。
やればできるじゃないかと余計なことを言ったらしくて、拳骨ももらってしまったけれど。







お待たせしました。キリリク333333(その他も)踏んでくださったモチモチさんへv
気に入ってくださるといいのですが・・;とにかく遅くなりましたが謹んで進呈します☆
あ、申し訳ないけど、いたしてませんv夏さん直前までいって踏み止まりました。(笑)