暑い夏の日  


その日も前日同様うだるような暑さだった。
夏という季節が大好物だと言うほのかでさえ
このところの連日の猛暑に多少辟易していた。

ところがプールに連れて行かされ、帰宅したとき
丁度良くしていた空調のリモコンを手に取ったほのかは
いきなり電源をオフにした。外気温はエアコン無しでは
体にも障るほどの暑さだったため、ほのかを咎めてみた。

「何すんだよ、さすがに今日は切ったら暑過ぎるだろ!?」
「なっちの家の設定温度低すぎだよ、体に良くないじょ!」
「なら設定温度上げろ。おまえ暑くても引っ付いてくるくせに」
「感じ悪いなぁ・・ほのかに引っ付かれて余計暑いってこと?」
「その通りだ。貸せ、リモコンどこだ。」
「お年寄りじゃないんだから、暑さくらい乗り切ってみようよ!」
「だったら引っ付くな。それを約束できるなら今日は譲ってやる」
「よっし!のった。ほのかちゃん今日はなっちに引っ付かない!」

というやりとりをしたため、室内温度はおそらく30度くらいだ。
窓を開けても生暖かい風しか入ってこず、苛立ちそうになる。
ほのかはと見ればアイスバーなぞを咥えて雑誌を眺めていた。
ヒトの家で好き放題なのは昔からだ。くだらない雑誌は即処分する。
しかしいつの間にか新しいものを買ってくるのでいたちごっこだ。

「なに一人でそんなもの食ってんだよ。」
「なっちは普段食べないじゃないか。取ってこようか?」
「俺はアイスじゃなくて何か飲むもの・・おまえも要るのか。」
「うんvお願いしまーす!なっちってありがたいヒトだよねぇ」
「ちっ・・汗かいてるくせして・・やせ我慢もほどほどにしろ」
「ふふ〜んだ!なっちってばこれしきで音を上げるのかい!?」
「うるせぇ。おまえの分持ってきてやらんぞ」
「それはカンベンしてよ、お代官さま!」

調子良く拝むような格好をしながらほのかは片目を瞑ってみせた。
いつの間にか食ってしまったらしいアイスの棒を咥えたままだった。

「その棒寄越せ。ゴミもついでだから捨ててやる。」
「なんとお優しいことで。だんな様v」
「誰が旦那様だ。殴るぞ。」

実際に殴られないとわかっていてほのかはヘラヘラ笑っていた。
憎らしい奴だ。服の隙間から水着の日焼け跡がちらついていて
実にけしからん。そうでなくても薄着のほのかは目のやり場に困る。
暑さには強い方なのだろうが、エアコン嫌いのため薄着が定番で
下着なんだか水着なんだか、パジャマなんだかといつだって簡易な服装。
夏場は辛い。そんな格好でちらちらと育った部位を見せつけられるのは。
暑さで頭が煮立ちそうだ。汗の滴り落ちる肌に噛み付きたくなる。

台所で飲み物を態とゆっくり準備した。ほのかから離れていたかった。
暑さのせいだなどと言いたくない。拍車は掛かっているのは確かだが。
ほのかの無防備さが破滅的で追い詰められていると感じるだけのことだ。

「なっちってば!遅いから倒れてるのかと思ったよ。」
「・・・・ちょっと頭冷やしてたんだ。倒れたりするかよ。」
「なるほど台所は涼しいんだ。もったいないじゃないか。」
「今付けたんだ。おまえってホントエアコンが嫌いだな?」
「キライじゃないよ?体に悪いって教えられたものだから」
「律儀だな。教えを護ってるってわけか。」
「それに・・」

ほのかは珍しく口ごもった。何か企んでいるというのだろうか。

「隠したって無駄だ。おまえは嘘が付けない。今言いかけたことを話せ。」
「むぅ・・確かに嘘は苦手だけど・・言わないんだもん!」
「無理に言わされるのは嫌だろ?!今のうちだぞ。」
「無理矢理ってどうするの?」
「暑さで頭が弱ってるからなぁ・・乱暴するかもしれん。」
「ははっ!なっちの場合、暑さでも体は平気なんだ。カッコイイね。」
「で、言わないつもりなのか?」
「凄んだってほのか怖くないもんね。」
「そうか・・じゃあ・・どうするかな」

普通なら怖がって当然な微笑みを湛えてほのかに近寄った。
予想はしていたがほのかは逆に期待に満ちた眼差しを向けてくる。
悪戯を仕掛けて欲しい子供みたいだ。悪戯で済むと限らないのに。

俺が台所中央の大きな作業テーブルにほのかを追い詰めると
嬉しそうに小さな悲鳴を上げる。まだまだ怖いとは感じていない。
困ったヤツだ。こんな簡単に間合いを詰められて怯えないなんて。
それが他の男に対してもそうではないかという不安に駆られる。
心配しだすとキリがないので途中放棄するが、マジで危険だと思う。
行き帰りも絶対に一人では帰らせない。特に夏場は俺でさえこれだ。
男は大凡ヤバイことになってるに違いない。そいつらを弁護はしない。
けれど心底馬鹿にもできない。俺だってその禄でもない男の一人なので。

俺が本性を垣間見せても、やはりほのかは嬉しそうにしか見えない。
追い詰めた小動物のようなほのかの体は汗でしっとりしていた。
熱くはない。寧ろ汗のおかげでヒンヤリしていて心地良かった。
見下ろす俺を見上げるほのか。瞳には期待しか映ってはいなかった。

キスくらいは予想してるんだろう。だが俺は態と唇は避けた。
首筋に歯を立てて噛み付いてやる。動物ならこれでお陀仏って場所だ。
ほのかは小さな悲鳴と同時に体だけは捉えられた瞬間慄いて震わせた。

「なっちがドラキュラになってしまった!」
「ならねぇよ。吸ってはいねぇし。」
「ちょこっと痛かったけどまだまだだね。」
「まだ言う気になれんってか・・なら・・」

ほのかの額からこめかみにうっすらと汗の粒が光っていた。
それを舐めてみた。塩の味がするはずなのだが実際は甘い。
片手を耳の裏辺りから差し込んで頭を広げた指で緩く鷲掴む。
首の角度を変えて、期待通り唇を重ねるとゆっくり丁寧に口付けた。
奥から隅々まで舌で蹂躙してやっても聞えてくるのは甘い吐息だけ。
いつの間にか俺に縋っている。指先は僅かに震えていた。
それも怯えているからじゃない。少し離すと更に力強く握ってくる。

「そっちから要求か。言う気ゼロなら止めるかな、失敗だ。」
「え、終わり?!やだもっと・・して?」
「おねだりが上達したな。そんな顔して・・・・イイのか?」
「ぅ・・ん・・キモチいい。」

キスだけは何度も重ねたせいで、ほのかはすっかり嵌ってる。
そこから先はあちこち打診程度はしたが、最後まではいってない。
いつも試されてると感じる。越えたくて手に入れたくて。全て欲しいから。

「あのね・・言っちゃうけど・・いい?」
「あぁ。やっとギブか」
「暑い方が・・なっちが襲う気になってくれるかなぁ〜?って思うから」
「ほー・・・襲って欲しいから暑くても我慢してたのか!?」
「だってなっちいっつも途中で止めちゃうから・・ほのか不満なんだよ」
「卒業してからって約束だからな。」
「なっちの方が律儀だよ。お嫁さんになるって約束しててもダメなの?」
「ダメなんじゃない。せっかくだから耐えて耐えて耐え抜いてだなぁ・・」
「??」
「そんときから思いっきり好きにしてやろうという計画なんでね。」
「うわ・・ヤラシイ顔!たまに見るけどホントなっちってスケベだよね。」
「そうだ。だから連日のおまえの猛攻にだって乗せられてねぇだろ?」
「努力ダイスキだもんねぇ・・ほのかのことも好きだよね?ダイジョブ?」
「キライだったらおまえなんかやりまくってからポイだな。」
「ひどっ!鬼かいちみは!イイ奴だけどそっち方面は実にけしからんね!?」
「・・・暑さのせいじゃねぇ?」
「違うね。元からヤラシイんだよ!」
「おまえに引かれるのが怖い小心者なんだ。」
「ウソだね。意地悪なSなんだよ、ゼッタイ」
「・・・まぁそうかもな。おまえがよく嫌にならないなと感心してるぜ。」
「言っとくけどほのかMじゃないからね。あんまりなことされたら言うよ!」
「あんまりってどんなの想像してんだ?興味あるな、お兄さんは。」
「想像なんかできないよ、知らないもん!んっとにもう」
「すまん。だから好きにしていい。それ以外はおまえの自由だ。」
「ん〜・・じゃあね、もう一回キスして。それで我慢しとくよ。」
「こっちの台詞だぜ。」

暑さのせいでほのかだっておかしくなってるのかもしれない。
それはそれでいい。俺のことをわかってても抱き締めてくれるんなら。
決して熱に浮かされてそう思うんじゃない。ほのかは特別なんだ。
溶けるような夏も凍えるような冬も、実は一年中似たようなものなんで。







暑さで参った管理人のとばっちりを受けた夏ほの。
きっとこんな暑い日でもじゃれあってるに違いないと!
いちゃいちゃが足りないから原作で顔を出して欲しい。
今度こそは夏くんの回想でなく二人一緒の出番を願いつつ☆