「明日晴れたら」 


例えば会いにゆくのにお天気はどうでもいい。
雨でも雪でも嵐でも。お天気だったらもっといい。
台風が来ても楽しい。風に対抗したり乗っかったり。
寒くても暑くても平気。会えるかどうかが大事。

ときどきいなくなるから。ちゃんと待ってるよ。
長いこと帰ってこないと寂しい。だけどきっと帰ってくる。
もういなくなったりしないと約束したから、それは絶対なのだ。
私よりもずっと約束を大切に守る人なの。だから大丈夫。

そうなのだ。私との約束を律儀にきっちりと果たしてくれる。
私が忘れてるようなことまで。甘やかしすぎって言われるよ。
私は甘やかされすぎ。けどね、甘えてるのは自分だって言う。
誰にも要求したこともないことを私にだけは言えるのだって。

もうね、天然の殺し文句。わかってて言ってる!?

私がいなきゃダメって顔して。私のすることを一々心配して。
素直じゃないのにストレートに伝わる。言葉ではないけどはっきりと。
そろそろ言ってもいいかな?そうだ、もし明日晴れたら。そうしよう。

私だけにしてって。決めちゃってって。離さないから。
そんなに困ったりしなくていいんだよって。何も怖くない。
その遠慮がちに引き気味の手を引いて。こうすればいいと。
簡単だよ、繋いで。結んで。きっとあったかくてくすぐったい。
ここだよ、私はここ。あなたの傍が居場所だよ。
笑って。あなただけの笑顔で。私ね、それだけでもう・・・



空は鉛色をしていた。そろそろ降り出しそうな色合いだ。
あいつが雨に遭わなければいいがと願いながら見上げる。
少しも気に留めないとわかってはいてもこっちが気になる。
濡れて体が冷えたらとか、着替えを寄越せと裸になりやしないかと、
あらゆる予想がオレを落ち着かなくさせる。いつものことだが。

誰にでもそうなんだろうと思ってた。いやそれも間違ってない。
ただ一つ違うとするのなら、それは何だ? そう確かめたくて。
けどその答えが怖くて。隠してしまいたくなる。誰にも見えないように。
雨も風も気にせずにここへくるのは、オレだけのためだと言って欲しい。
なんでもかんでもくれるから。オマエが甘やかすからオレは図に乗ってる。
もっと甘えさせろだなんて、こんな莫迦なことオマエにしか望まない。

もし雨が降るならば、あいつがここにたどり着いた後がいい。
烈しく降って構わない。帰れなくなるほど吹き荒れたって。
”やらずの雨”だ。知らないだろうな、そんな言葉もオレの心も。
わかってる。どんな嵐でもいつか止む。オマエはよく知っている。
晴れわたる空みたいに笑って欲しい。それだけでもう満足だから。
一時でも傍にいてほしい。そう雨が降ったら、そう伝えてみるか。

また今日も言えないかもしれない。顔を見ただけで満足しちまって。
雨は長く降るといい。やんだら帰さない理由にならないじゃないか。
だからあいつを引きとめて、足留めしてくれ。青空なら間に合ってる。

あの笑顔をこの胸で咲かせてくれるなら、ほかに何もいらない。


空からとうとう水滴が落ちてきた頃、あいつは門をくぐり終えてた。

「らっきー!ほのか濡れなかったよ!?」
「・・・のようだな。運がいいな。」
「そうでしょ!?いつでも分けてあげるよ。ラッキーガールだから。」
「気前いいな。」
「遠慮はいらないよ。」

「あ、そうそう。傘忘れたからやむまで居させてね?!」
「・・・持ってくる気があったのか?」
「だって行くとき降ってなかったもん。」
「普通降りそうだなと思ったら持ってくるもんだ。」
「いらないかもしれないじゃないか。そしたら邪魔だし。」
「降られてたらどうするつもりだった?」
「ここでお風呂入る。でもって服を乾かす。」

ごく当たり前なことを口にしてた。様子もいつもと変わりなかったよ。
だからね、突然に部屋を明るくした稲光のせいかもしれないと思った。
季節には少し早い地から響くような雷の音。しがみついたのは私じゃなくて。

「・・・なっち・・怖かったっけ?雷。」
「怖いのはオマエだろ?怖いわけあるかよ。」
「しがみついておいて説得力ないなぁ・・!」
「・・・誰がしがみついてんだよ。」
「誰がどう見てもそうじゃない!?」

ドンドン、バリバリ、ざあざあって、派手な音立てて嵐が始まった。

「すごい雨。ほのかってホントにラッキーだ!」
「酷いな。この季節にしちゃ・・」
「わっまた光った!きゃーっこわいこわい〜!」
「はしゃいでるじゃねぇかよ・・」
「うへへ・・抱っこが嬉しい。あったかいの。」
「降りだしてたら大ごとだった。オレもラッキーだ。」
「大ごと?お迎えにきてくれようとしてたの?」
「最悪二人してずぶぬれだ。・・困ったことになってたな。」
「なんだぁ・・ちょっとがっかりしてきたよ。」
「風呂入れたとかだろ。冗談じゃねぇ。」
「それもあるけどさ、二人でずぶぬれって楽しそうじゃない!?」
「楽しいわけあるか。」
「やってみたら楽しいかもだよ。ね、ちょっと外出てみようか!?」
「嫌なこった。」
「つまらないなぁ・・好奇心が足りなくない?」
「こんなどしゃぶりで、それも雷雨だぞ!阿呆。」
「ちぇ〜・・じゃあまた今度。次の雨が降るのを楽しみにしてよっと。」
「オマエってどんなときも困るってことを知らないよな。」
「なっちが困りすぎなんだよー!」
「今だってちっとも困ってねぇしな・・」
「どうして困ることある?お家に無事着いたし、なっちがいるし。」
「それ以外。」
「なっちは今何に困ってるの?ほのかが困ってないことに困ってる?」
「あぁ・・正解。」
「ほほう!そうか、ほのかを困らせたいのだな・・そんならねぇ・・」
「困らせていいのか?」
「なっちは遠慮しいだから困ることって言わないよね?!」
「・・・そうでもないと・・思いたいんだが・・」
「よっし、うんとほのかが困ること言ってごらん。テストだよ。」
「・・なんで試されるんだ・・?」
「ほれほれ、何か困るようなこと言ってみ。それっ!」
「ちっとも困りそうに無いから困るぜ。」
「ダメじゃん。なら考えてたことに上乗せしてみるとかさ。」
「そうか・・・そうだな・・・う〜ん・・・」
「ふふ・・どきどきわくわく。楽しみ!」
「そろそろオレのもんになれ。ってのは・・?」
「なっちの?専属?なんだそんなこと?いいよー!」
「軽っ・・オマエヒドイ・・」
「そんなのちっとも驚かないじゃないか。もっとすごいの無いの!?」
「・・師匠。例えばどんなのですか?」
「えっほのか師匠なの!?驚かす師範!?へへ嬉しい。えっとねぇ・・」
「いっそ腰抜けそうなの頼む。」
「そこまで期待されるとぷれっしゃーだね!?んんん・どうしようかな!?」
「とにかくそういうの考えといてくれ。」
「えっ!!今答えるんじゃないの!!?」

一生懸命考えていたのに中断させられてちょっと不満。だけど仕方ない。
なっちの唇も舌も実はものすごく気持ちよくってそれはそれで・・満足だったから。
長いことしてた。キス・・こんなのは初めてだね。いつものと随分違ってる。
雨の音も何もしなくなった。どうでもよくなったから?私って簡単な女かな?

「・・・したかったの?」
「うん・・まだ足りてない。」
「もしかして・・なっちさ、ほのかが困ると思ってた?」
「いや、困ってもいいか、なんて思ってた。」
「おお・・驚いたし。成功だよ、なっち!」
「ちょっとは困ったのか?」
「すごく困った。なっちが可愛くってたまんない!」
「そっちかよ!・・困ってねぇじゃねーか。」
「ごめんね、困らせていい?ほのか帰りたくない。」
「・・残念だったな。困らねぇよ・・そうしたかったからな。」
「わぁ・・・困った・・・ねぇ嬉しい?ほのか困ってるよ?!」
「どう困ったんだよ。」
「内緒。明日、明日晴れたら教えてあげる。」
「明日か・・すぐだぞ。そんなの。」
「すぐかなぁ?そんなのもったいないよ。一緒にいてくれるんでしょ?」
「そうか、そう・・明日晴れたら、オレもオマエに言うよ。」
「明日まで内緒?!・・うん、わかった。」
「雨、やみそうにないしな。」
「まだ降ってた?忘れてた。」
「ちょっとだけ予告だ。オマエが困ってもな、絶対諦めないって言っておく。」
「よーし。ならほのかもね、言っとく。ぜったい・・明日は晴れだからね?!」
「そうだな。ソレは確実だ。」
「あれっわかっちゃった!?」

ほのかなら重い雲なぞものともせずに吹き飛ばす。保証してやるよ。
明日澄み渡った空の下で、オマエは少しも負けない笑顔を見せるだろう。
そのためにオレは生きるのだから。これからもずっと。そう、明日は晴れる。







こ〜の○かっぷる〜!!(懐かしいかもしれない)ですね。お久しぶりですv
別にこの後いちゃいちゃできなくなったって(邪魔が入ったりして)全然平気。
ソレも仕方無いかと結構運命を受け入れちゃってる夏さんだと思う。なんせね、
ほのかがいれば、彼はそれで満足なんだから!やーねぇもう!!(笑)