嵐 


オレのなかには時折嵐が吹き荒れる
この世のことなどどうでもよくなる
人に感づかれたことなどはなかった
嗅ぎつけたヤツはそれに気付きながらも
少しも怯まずオレに挑むような目を向けた

どうしてそんなことをしたのか
一瞬でもねじ伏せたかったのかもしれない
それほどオレは怖れていたというのか
知られたくない吹き荒ぶ冷たい風を
鎮められてしまいそうで怖かったのだ

まだ男なぞ知らない無防備なソイツに
乱暴な真似をしたのはついこの間のこと
そんなことで満足しようと思ったわけでなく
いっそ怯えて遠ざかってはくれないかという
哀れな希いだったかもしれない
その希いは結局叶えられはしなかった
嵐の後のような顔でソイツはまたやって来た
怖れない目はそのまま失われることはなく
そのことにどこかで安堵する自分を感じた

嘘のようにいつもの笑顔を向ける
何も無かったような日常の風景
幻ではなかったと確かめたかったのか
聞かなくてもいいものを止められない
オレはコイツの前では哀れなほど余裕がない

「・・・おまえ、変らねぇな・・」
「へ?何が?・・あぁ、この間のこと?」
「またあんな目に合ったらどうする気だ?」
「や、そこまで馬鹿じゃないでしょ?なっつんも。」
「・・・別にあんなこといつでもできるぜ。」
「あー・・そうなの?・・でもまぁ無理しなくていいよ。」
「誰が相手だろうとあんなこと簡単だって言ってんだよ。」
「するのは簡単でもなっつんしたくないでしょ?」
「なんでそんなことわかるんだよ。」
「ほのか相手にしなくったっていいっていいたいの?まさかもてるって自慢かい?」
「じゃなくて・・オマエ好きなんだろ?オレのこと。」
「うん。そうだけど?」
「つまり何されても文句ねぇってのか?」
「いや、文句くらいは言うよ。ほのかよく知らないけど。」
「わかんねーヤツだな。」
「そお?別に難しくないよ。」
「・・・なんであんなことしたのか気にならないのかって聞いてんだよ。」
「うん?・・・確かめたかったんじゃないの?楓ちゃんじゃないって。」

一瞬言葉に詰まったが肯定したつもりはない
だがそれは強ち間違いとも言い切れなかった

「・・・違う、オレはオマエがキライで・・傷つけたかったんだ。」
「ふぅん・・そうか。そうかもね。」
「オマエのことをこれから先だって・・」
「ウン、好きでなくっていいよ。それでもほのかは傍に居るよ。」
「それでいいってのがわかんねぇ・・」
「なっつんはほっといたらどんどん自分を傷つけるからほっとけない。」
「・・・・オマ・」
「前も言ったけど、ほのかは傷つけてもいいよ。めげないからね。」
「オマエ・・・変過ぎ・・」
「そうかな?そんなことないよ。はは・・」
「何でそこで照れるんだ?」
「ほのかはね、一緒だと落ち着くっていうの?そんな感じかな。」
「オレは落ち着かねぇよ!」
「落ち着きたくない、でしょ?」
「!?・・オマエほんとにむかつくな。」
「素直じゃないよね、まったく。」
「・・・・」
「いいから、いいから。おお、コワイ顔。」
「怖がってなんかねーくせに。」
「バレたか。」
「オマエホントはオレのこと好きでもなんでもねぇだろ?」
「そんなことないよ。好きだよ?・・でも・・」
「なんだよ?」
「どきどきしたりしないから、どうなんだろね?」
「・・・そうだろうな・・」
「でもキライじゃないよ。それは本当。」
「・・・・」
「なっつんだってほのかのこと好きじゃないからそんなのないでしょ?」
「当たり前だ。」
「そうだよね。ここでがっかりしない当りやっぱ違うのかなぁ・・?」
「まだガキだもんな。」
「なっつんだって大差ないよぅ!好きな人とかって妹さん以外に居なかったでしょ?!」
「・・・・」
「あ、やっぱり〜!」
「オレは楓とずっと居るって約束したんだ。他に誰も好きになったりしない。」
「!!・・・そうか。そうなんだね・・じゃあ望みないねぇ、誰も。」
「ああ、だからオレに何も期待すんなよ・・」
「ウン、わかった。約束だもんね。」
「そうさ、オレは約束は守る。」
「なっつん、だから・・」
「何だよ?」
「だから辛いとき、ほのかを呼んで。傍に居るから。」
「オレは寂しくなんかない。」
「ほのかが寂しいの。なっつんがそんなときは一人だと寂しいんだもん。」
「・・・・」

ほのかは時々とても真剣にオレに訴える
どうしてもオレをほっておけないと言う
オレは危ぶまれているのだ こんな子供に
見えなくとも支えようとするほのかの手が見える
それは情けではなく まるで当然のことのように
そうすることが使命とさえ感じるほどオレに伝えようとする
その手を取ってしまうのが怖い
まるでずっと欲しかったのだろうと言い当てられているような
離せなくなることを暗にオレに示していた


「・・・そんなのしんどくない?」

オレの誓いをそんなふうに言ったのはコイツの兄だ
どこか似ている 兄とその妹
どうしてオレをほうっておいてはくれないのだろう
しんどかろうが、辛かろうが、それはオレのことだ
何故我がことのように言うのかが理解できない
このオレのなかの嵐を鎮めてなんの得がある


「なっつん?大丈夫!?」
「!・・・別に・・なんでもねぇ。」
「ほのかはやっぱりなっつんが好きだよ。」
「・・・」
「どきどきはしなくても、いつだって痛い。」
「・・痛い?」
「傍に居たら和らぐけど。・・一人のときはいつも。」
「・・・痛みなら・・・そんなものいつも感じてる。」
「・・いつも?」
「そうだな、オレもオマエと居ると・・忘れることがある。」
「ホント!?嬉しい!」
「オレは・・むかついてしょうがねぇ・・」
「・・なっつん・・」

まるで禅問答のような堂々巡り
どうしてもオレとほのかの間は縮まらない
縮めたいのか?埋めたいとでもいうのか
オレにはわからない ただ
吹き抜ける強風に打ち付けられても
ほのかを この目をもう忘れることはない
見つけてしまった 見つかってしまった
この嵐がいつか治まるであろう未来もあるということを








「片想い」シリーズ、続いてしまいます。
いつか二人が手を取れる日が来るのかどうか、実は結論はまだ出してません。
私のなかではすれ違い、なかなか想い想われる仲へはいかないこともあるだろう、
寧ろどうしても結ばれることはない。そんな二人を想像して書いてるものですから。
でももしかしたら、結ばれるかもしれない、そんな予感もしてきました。
二人が好きだから、どうかうまく嵐を乗り切って欲しいところではあります。