兄も喰わない!?



僕、白浜兼一は困惑している。
自分にとって友人で同じ武術家の谷本夏くん。
学校も同じで、表向き優等生として皆に慕われている。
実際はかなりのひねくれ者で、言うならば裏が本来の姿。
その彼の印象は確かに知り合ってかなり変ったと思う。
とても良い意味でだ。しかし・・!
これはどうしたものかと僕は今困惑しているのだ。

僕にはほのかという三つほど下の妹がいる。
物怖じしない元気な、少し子供っぽいが素直な可愛い妹だ。
そして世間一般と少々違うのはとても仲の良い兄妹であること。
妹は手がかかるけれど可愛いと思うし、妹のほのかも
多少ブラコンかと思えるほど兄の自分を慕っていた・・・はずだ。
そんな妹は以前、全く偶然に先ほどの谷本くんと知り合いになった。
怪我をしたのを手当てしてもらったとか、家まで行ったとか、
その報告を受けたとき知らない男について行くなと怒った覚えがある。
しかし、不幸な過去に亡くされた妹さんの面影を見たのか
彼はその後巻き込まれた闘いの中、ほのかを救ってくれた。
そしてそんな二人は今や微笑ましくも一緒にゲームなぞをする仲らしい。
以前はそのゲームにほのかが勝ったとかで二人して出かけたりしていた。
兄としては、面倒を見てもらって感謝しなければならないだろう。
そして良い意味で変ってきた彼に影響を与えているのは妹かもしれない。
そう、それでお互いに兄と妹のような関係・・・じゃなかったのか!?

「もーう!やだ、なっつんてば嘘吐きっ!」
「嘘なんて言ってねぇ!おまえが勝手に決めたんだろ!?」
「なっつんはイイって言ったよ、ねぇ、お兄ちゃんも怒ってよ!」
「ちょ、おまえ卑怯だぞ。兼一、妹がわがまま言ってんだよ!お・オレは別に嘘とか・・」
「なっつんこそ何お兄ちゃんに助けてもらおうとしてんの!?ヒキョウモノー!!」
「なっ!?おまえ、殴るなよ・・・ヤメロ、コラ!・・ご、誤解すんなよ?オレは」
「なっつんなんかこうしてやるんだから!えいえい!ほのかのこと好きなくせにいじめるなー!」
「ぶっ!!な、何言って・・・おい、兼一、ご、誤解だ!オレは何もこいつに・・;;」
「何焦って誤魔化そうとしてんの!?なっつんの馬鹿、スケベ、嘘吐きー!!」
「おっまえ、人聞きの悪いこと言うなよ!?誰が・・・なんだよ、兼一その目は・・!」

「谷本くん・・・ちょっと確認しときたいんだけど・・」
「な、何だよ!・・・おいもう止せっつってんだろ?」
それはもう顔を真っ赤にしてほのかは谷本くんを殴り続けている。
その様子は兄の自分にも覚えがあるにはある・・・しかし!
ほのかはとうとう涙まで浮かべて谷本くんの腕にしがみ付いてしまった。
ぎょっとして気遣う谷本くん。そして甘えるようなほのかの視線・・・おいっ!
どうやら僕の目線が気になるようで、谷本くんはあからさまに戸惑っている。
ほのかはというと、僕のことなどすっかり忘れたように彼の腕に縋って泣いている。
「なっつんのばかぁ・・キライになっちゃうぞ・・」
「泣くことないだろ?わかったから、もう泣くなよ。」
その弱りきった様子と演技とは思えない優しい口調はなんだい?
・・・もしもし谷本くん!?もしかして、いや確実に君たち・・!!

「け、兼一!落ち着け。オレはおまえの妹に何も・・!」
「ケケケケ・・・その言い訳、どう考えてもおっかしいよなぁ!!」
「はっ!?今どこからか新島の声がしなかったか?!」
思わず周囲を見回したが、奴の姿は見えない。
今はそれよりも目の前の彼に問い質したくて向き直った。
「・・でも僕も今回はあいつと同意見なんだけど?谷本くん。」
「う・・・誤解だ。オレは・・・」
「お兄ちゃん!」
突然ほのかに怒鳴られて僕も谷本くんも驚いた。
「もう二人だけにしてよ!お願いきいてくれるってなっつん言ったし。」
「ほのか、兄はどうでもいいのか!?こいつの方が好きなのか?!」
「お兄ちゃん?・・・だってなっつんはほのかの・・」
なんだと言おうとしたのかわからなかった。
谷本くんがすばやくほのかの口を手で塞いだからだ。
「そ、その、こいつがいるとややこしいから、またおまえと二人のときにな!」
谷本くんの眼は必死だった。僕に説明するのが恥ずかしいのか・・
「わかったよ・・・」
「そうか?!ふーっ・・・」
彼は安堵したように長い溜息を吐いた。
その肩に手を置いて、僕は付け加えた。
「妹を泣かせるまねは僕も兄として許せないから、覚えていてね、谷本くん。」
「へっ!?・・・・おまえ誤解・・」
「誤解なんてしてないよ。ほのか!」
「ん、何?」
「今度ちゃんと父さん母さんにも紹介するんだよ?」
「うんv いいよー!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「僕も君ならまあ・・文句は言い難いけど、ほんとに頼んだよ?谷本くん。」
「いや、だから・・その」
「じゃあ、ほのかをよろしく!」
「!!??」
「それと痴話げんかは兄の前では勘弁してくれる?僕も辛いからさ。」
「兼一、あのな・・・」
「じゃあね〜!お兄ちゃん。」
「ああ、仲良くな・・・兄は見守ってるからな、ほのか。」
「ありがとv よかったね?なっつん。あれ、・・どしたの?!」
「おまえら・・兄妹揃ってオレに恨みでもあんのか!」
「何言ってんの?照れやさんだねぇ!」
「くす・・大丈夫だよ、谷本くん。僕誰にも言わないから。」
「ああ、でも新島が盗み聞きしてたんだっけ・・?」
谷本くんが青ざめた。彼もあいつには苦労してんだな、きっと。
「まあ、あいつあれでも事実しか言いふらさないから。」
「もう知るかっ!ほのか、おまえな・・・ちょっと来い。」
「やんvなっつん、強引〜!」
「だから誤解を招く言い方すんなってんだろ!?」
「なっつんが気にしすぎなんだよ、可愛いなぁ・・」
「可愛い言うな!!」

谷本くんとほのかはひっついたまま行ってしまった。
兄としては複雑なんだが・・・谷本くんだから大丈夫かな。
それにしたってあの二人の雰囲気・・・うーん・・やるな、ほのか。
彼を見つめるほのかは僕の知ってる妹じゃなかった。
谷本くんと僕とは縁があるんだなぁ!
そうだ、もしかしたら僕、将来彼の兄になるかも?!
もしそうなら夫婦喧嘩は他所でやってもらおうっと。



〜おしまい☆〜






リンク記念に「蛇★苺」の空宮純さんへ捧げます。
リクにお応えできてますかー??ありがとうございました。
「海の月」管理人:まりん