「甘いのはお好き?」 


「そろそろ子供扱いは卒業させてくれない?!」

なんてことを言ってる当人は大きなアイスを片手に持って、
”季節限定プレミアムバニラだからあげないよ!”と釘をさす。

「なるほど、なら宿題やテストの世話はもういらないということだな?」
「う!?・・・うーむ・・それは〜;嬉しいようなマズイような・・」
「風呂に一緒に入って遊ぶとか、泊まりがけでゲームだとかもなしと・・」
「や、ちょっと待ったぁ!!そーいうことじゃないんだよ、なっちー!」
「・・・・その呼び方ヤメロっつってんのに・・・」
「そういうんじゃなくてさ、そろそろほのかのこと公認にしない?!」
「公認・・?って・・対象がわからんが。」
「いっつも『妹』ポジションでしょ?『カノジョ』に昇格したいのだよ。」
「はぁ・・別に・・いちいち説明してまわることもないだろ?」
「だったらせめて・・人前で子供扱いとかをやめてよう〜!」
「アイスが溶けてるぞ。さっさと食ってしまえよ、それ・・」
「あやや、いっけない!ぅ・・うまーい!!」
「これで子供扱いすんなとか・・笑わせるぜ。」
「でもさ、これとんでもなくおいしいんだから!ちょっと舐めてみ!?」
「やらんと言ったくせして・・・」

しかし無言の圧力が掛かったので一口試してみた。思った以上に美味かった。
顔に少し出たらしく、オレの反応に”どうだ!?”的な表情が迫り不愉快だ。

「・・まぁ、悪くはない。」
「ホンッとに素直じゃないのう!・・しかしなっちにしては褒めた方か。」
「溶けて落ちてるぞ、手とか・・・ぁ〜あ・・キタねーなぁ。」
「ありゃ大変だ!?しょうがない、なっちー、手伝って?もったいないから。」

そんなことで半べそになりながら、オレの目の前にアイスを突きつける。
いくつになっても・・・ホントにガキのまんまだなと思うと溜息が出た。
急いで食べているほのかの腕を引っ張って、食うのを手伝ってやることにした。

「・・あ、ああー!?そんないっぱい・・!」
「手伝えと言ったのはオマエだろ!?怒るぞ。」
「うぅ・・ごめんよ。どうぞ食べて食べて?」
「・・ったく・・」
「お風呂入ろっか?」
「一人でシャワーでもなんでも入ってこい。」
「ちぇ・・ツマンナイの。」

ぼやくほのかの頬に付いたアイスを舐め取ってやると膨れ面が驚いた。

「びっくりした!!」
「ざまみろ。」
「へへ・・おいしいよね!?」
「食ってるとホント幸せそうだな。」
「幸せだもん!」
「ま、いいけど・・」

「あ、そうだ!今ほのかとチューしたらバニラ味だよ?」
「・・・そうだな。・・して欲しいのか?」
「食べ終わってから!もうちょっと待って。」

ほのかの言い草にむっとした。お預けを食らったように思えたのだ。

「どうするかなぁ?!」

今度は腕ではなく腰から身体ごと引き寄せて、甘い味のする場所へと近付いた。
オレの目的に気付いたほのかが”わぁっ!”と歓声に近い悲鳴を上げた。
軽く口元をかすめたが、本気で触れてはいない。ほのかはちょっと不服そうだった。

「ねぇ、チューは?」
「今したら甘ったるいだろうしなぁ・・?」
「え〜!?甘いならいいじゃん!」
「とっとと食えよ、それ。」
「なっつんもどうぞ。」
「・・もうさっきので既に口ん中甘いんだよ。」
「もうだいぶ溶けちゃった・・・ふえ〜ん、べとべと・・」
「しょうがねぇなぁ・・やっぱシャワーでも浴びるか?」
「ウン、でも待ってよ、あとちょ・・・!!!?」
「最後の一口、ごちそうさん。」
「な、な・・なんてことを!?そんなヒドイことするなんて・・・信じられない!」
「ぐずぐず食ってるからだ。」
「・・・ぅ・・わ〜〜ん・・最後の一口ぃ〜!!」
「こんなことで泣くな。」

抱き上げて風呂場へ連れて行った間も、本人はずっとむくれていた。

「ホラ、タオル!アイスならまた買ってやる。いつまでふて腐れてんだ。」
「・・・最後の一口は残してあげるのが優しさだと思うんだよ・・」
「悪かったな、優しい男じゃなくて。」
「そうだね、そんななっちーを赦してあげられるほのかってば大人だね!?」
「どうしてそういう結論に持って行くんだ。強引な!」
「だって・・それより着替えるよ。見たい?なっつん・・」
「見せんな。いらん!!」

慌てて風呂場のドアを閉めたとき、ほのかの口がへの字になっているのが見えた。
”見て欲しいってのか!?”と一人突っ込みを入れた。その辺がよくわからない。

「なっつん・・」
「あ、なんだよ、その不満そうな顔・・!」
「チューは?」
「まだ言ってんのか?!どうしたんだよ、オマエ。」
「してくれないんだ・・ほのかとしたくないの?」
「がっかりしてんなよ。そういうことしろといわれていきなりできるか!」
「じゃあ、いつならしてくれるの!?」
「いつって・・とりあえずそんな膨れ面にはしたくねぇぞ。」
「なっつんの意地悪。ケチ。裸も見たくないの〜!?」
「ぶ・・さっきのか。見られたいのかよ!?」
「・・やっとこさ想いが通じたと思ったのにさ・・なっつんはそういうのキライなの?」
「キライって訳じゃ・・」
「チューだってまだ2回しかしてくれたことない。」
「あ、あのなぁ・・数えるな、そういうことを・・;」
「数えるのイヤになるくらいしてよ。ほのかって・・ヤラシイ?欲張り!?」
「とにかく落ち着けよ、何をそんなに焦ってんだ?」
「泊まるのもダメって言うし・・」
「・・・・・」
「・・どうせほのかは色気なくて胸もイマイチ成長不全で、お子さまだよおお〜!」
「泣き落としも普通子供がすることだろっ!?」
「ぐす・・でもどうすればいいのかわかんないし・・」
「無理するな・・・そっそれなりに成長してるし。たったまには・・えー・・・;;」
「たまに?何!?」
「いやその・・だから・・そんなことは急がなくとも・・・な?」
「ふ・・えーん・・・」
「泣くなよ、コラ!オマエのせいじゃないから!!」
「・・・じゃあ、抱っこして。」
「あ、あぁ・・」
「遠慮なしでね?ぎゅって!わかった!?」
「なんで威張るんだ?」

偉そうに胸を反らしているほのかをそうっと抱き寄せた。相変わらず頼りない柔らかさ。
からかってるときは割りと平気なんだが、こういうときはやたらと恥ずかしい。

「・・なっつん、ごめんね?ほのかわがままで・・・」
「今更なこと言うな。」
「ウン・・へへ、なっつんが優しくないなんて嘘だよ、安心して?」
「誰もそんなこと心配してねーし。・・阿呆。」

ほのかが安心しきった顔でオレに擦り寄ると、実は逆に手が出せなくなる。
それを言うとまた泣くかもしれないから、黙っておこう。身のためだ・・
ほのかはすっかり甘えてオレにしがみついている。さっきまでご機嫌に食ってたくせに。
本気でオレにもっと色々・・(汗)して欲しいんだろうか・・?(焦)

「・・・なんでなっつんに抱っこしてもらうと眠たくなるのかなぁ・・?」
「眠いんなら寝ろよ、別にいいから。」
「やだよ、せっかく一緒にいるのに。ね、ほのか誰が見ても彼女っぽくなりたい。」
「・・・見えるんじゃねぇの?兄キたちにはもう知られてるじゃねーか。」
「遊びに行ったらいっつも『妹』って言われるんだもん!」
「わかんない奴もいるだろ、構うなよ、そうじゃないってオレが言ってんだから。」
「そっか、そうだよね?なっつん、今のすごく嬉しかった!」
「・・・・」

ほのかの額に口付けるとくすぐったそうに肩を竦めた。無防備な身体を預けたまま。
この信頼を損ないたくないから、手が出せないんだろうか?まぁそれもある。
安心し過ぎてるのはオレの方なのかもしれない。ずっとこうして甘えてくれる気がして。
けど最近ちょっと不安も出てきた。身体つきもなにもかも大人びてきたように思えるし。
悪い虫が近寄ることを今まではなんの心配もしてなかったが、・・・考えると眠れなくなる。

「なぁ・・ほのか・・・・?」

眠ってしまったお嬢さんは安らかな寝顔。バニラ味のキスはどうなったんだ?
ちょっとその気になると、これだ。どうにも・・しょうがないよな。
甘い香りがする。アイスよりもっとうまそうな香りの身体を抱きしめる。
そのうち我慢できなくなるんだろうなぁなどと思いつつ、眼を閉じる。
だからこそ、この瞬間を忘れないでいよう。友達でも家族でもない今そのものを。
ほのかの小さな手がオレの服をきゅっと握っていた。これしきで眩暈がするほど嬉しい。
どれだけ愛しいかとか、どんだけ欲張りだとか、本当のことはとても伝えきれない。
なるほど、今が季節限定プレミアムな関係だな、なんて馬鹿なことを思い浮かべた。
最後の一口まで味わうのはいつとは言えないが、それがオレだということだけは約束だ。









糖度が足りない、と思って書いてみたですが、出来上がったら何もしとらん!?
(でもいちゃついてはいる)でも既にメロメロですから。まぁそのうち・・?(笑)