Always


いつも見ている顔なのにどこか昨日と違う気がする。
どこが違うのか説明は難しい。表情なのか、動作なのか。
それとも気付いていなかったことに気付いているのか。
数日逢えないときは特にそう感じて途惑うこともある。
かと思えば少しも変っちゃいないと安心する部分もある。

「なんか久しぶりな気がするね?」
「・・・そうでもねぇだろ。」
「なっつんちょっと痩せた?・・いや違うか。」
「痩せてねぇ。オマエは・・別に変りない・・よな。」
「太ってないよ?なに、その目は。」
「太ったなんて言ってねぇだろ。なんか・・背も変わりないし・・」
「あ〜!なっつんもほのかがどっか変って見えるんだ!?」
「・・・オマエもそう思ったのか。」
「ウン、おんなじー!不思議だねっ!?」

ほのかはいつものように屈託無く笑い、オレも気のせいかと思う。

「あんまり逢いたいなって思ってたからかな?」
「オマエが?」
「だって・・毎日逢いたいなぁって思ってたんだよ。」
「へ、へぇ・・?」
「なっつんは?」
「オマエのことなんか思い出してる暇無かった。」
「むー・・どうせそうだろーねっ!」

口では不満そうだが、ほのかは笑って文句を言うわけでもない。
オレの吐いた嘘に気付きもしない。オレは思い出す暇ならあったんだ。
ほんの少しだが、それでも嘘は嘘だった。気まずい思いが過ぎる。

「お帰りなのだ。さーてまずは何しようかぁ!?」
「何に付き合わせる気だ?」
「一杯考えてたんだけどねー・・・うーん今日はいいや。」
「いいって・・何もないのか?」
「ウン、顔見れて安心しちゃったのかな。」
「大げさなヤツだな。そんなに長いこと離れてねぇのに・・」
「えへへ・・ちょびっとだけ寂しかったの。」
「なんだよ・・調子狂うな・・やっぱ変ったか・・?」
「えー?そうかな。ほのかは特に変ったことなかったよ。」

けろっと言うその言葉にはオレと違って嘘はなさそうだった。
コイツは嘘って吐いたことないのだろうか。そんなヤツ居るのか・・?
人は誰でも嘘を吐くものだ。当たり前に小さなことから大きなことまで。
幼い子供でさえ吐く。自分を良く見せたいとか、叱られたくないとかで。

「オマエって正直だよな。」
「なっつんは素直じゃないよね〜!?」
「うっせぇ。オマエがバカ正直なだけだ。」
「普通だよ?」
「ホントに・・寂しかったのか?」
「ウン・・すっごくつまんなかった。」
「ふぅん・・他にいくらでも友達居るくせして。」
「なっつんは一人だけだよ。代わりなんてないさ。」
「・・・フン・・・」

よくそういうことをさらっと言えるなとオレは内心で突っ込む。
特別に感情を込めるでもなく、本当に当たり前みたいに言う。
うっかりその言葉を全部信じたくなる。たとえ嘘だとしても。

「寂しかったんなら・・なんかわがまま言えば?いつもみてぇに・・」
「あり?わがまま言って欲しいの!?なっつんてば。」
「そっそんな遠慮みたいなのおかしいだろ、オマエがさ。」
「遠慮してるんじゃないんだけど。そうだねぇ、じゃあ何かしてもらおうかな?」
「なんか一つくらいなら許してやる。」
「一つだけぇ!?困ったなー・・」

どんな要求がくるかと身構えていたが、ほのかは意外なことを言った。

「なっつんにご飯作ってあげる。久しぶりに!」
「何!?・・オマエが・・作れって言うんじゃなくてか?」
「あのね、お母さんに習って最近レパートリーが増えたのだv」
「・・・材料買いに行くんだな、まずは・・」
「おう!なんと乗り気な。よーし、ほのかちゃんの腕に参ったと言わせるじょ。」

初めてほのかに逢った日にいきなり飯を作ると言われたことを思い出す。
久しく手料理なんてものを食ってなかったオレはついうっかりそれを許した。
出来上がったものはかなり得体の知れないものだったが・・・それでも食った。
まぁ、見た目よりは食える代物だった。おかわりは遠慮してしまったのだが。
懐かしいな、と感じた自分に驚いた。そんなにオレはコイツと一緒に居るのかと。
気付くと買い物をしたり、ほのかが傍に居るのはごく普通の光景になっている。
いつもいつもうるさいとか、邪魔だとか言っていたはずなのに、いつの間に・・

「さぁっ召し上がれ!」
「あ、あぁ。いただきます。」
「どうぞご遠慮なく。」

ぼけっと昔を思い出していた。エプロンをつけたほのかの後ろで。
前なら怖くて見ていられないから、ほとんどオレが作ってたのに。
多少のことはありとして、手伝いが要らないほどほのかも手馴れている。
練習してるという言葉に嘘はないらしい。母親も苦労なことだな。
だが、出番が減ってありがたいはずのオレは・・手持ち無沙汰だった。
もう少し、あぶなっかしい手つきを見ていたかったような気もする。

黙々と食ってるオレを心配そうにほのかが見ている。かなり真剣だ。
味は概ね及第点だと思う。今までの台所の有様から見ればかなり高得点だ。
オレは父親でもなんでもないのに、どこか寂しい気がするのが妙だと思う。

「・・・・なっつん、なんか言ってよ・・!」
「ぁ?あぁ、うまかった。ごちそうさま。」
「ほっホント!?ホントに美味しかった!?」
「なんでそんなに驚くんだよ。自信作じゃなかったのか?」
「ホントは大分心配だったんだ・・・失敗作片付けるのにちょっとほのか太ったし・・」
「何!?太ったのか!?」
「あ、でもそのあとすぐに戻ったよ。」
「腹壊したんじゃないのか?・・・だが今日のはイケてたぜ?」
「嬉しい〜!!なっつん、ありがとうー!・・お腹壊したりしてないよっ!?」

ほのかが嬉しそうに踊ってやがる。どこが”自信作”なんだと可笑しくなる。
そして”まだまだか・・”と思うとさっきまでの寂しさが嘘のように消えた。

「なっつんがおいしいって言ってくれるのを夢みてたんだよ・・やったー!!」
「へっ・・そんな嬉しいことかぁ!?」
「女心のわかんない子だね。」
「オマエにそんなものがあったのか?
「そりゃあるに決まってるでしょおっ!?」

真剣に怒る顔も久しぶりに見れた。そう、いつものほのかだ。
怒って泣いて、喚いて、おどけて・・・いつだってオレの傍で。

「お返しにデザート作ってやろうか?」
「えっ!?マジで!やった・・どうしたの、なっつん。大サービスじゃん!」
「別に・・気が向いただけだ。」
「ふっふー・・素直じゃないねぇ?」
「あぁ!?なんだと、コラ。」
「なんでもないよー。なっつん、ダイスキv」
「それもう聞き飽きた。もっと他にないのか?」
「うあ、ひど・・!んじゃあ・・ねぇ・・どうやって攻めようかな・・?」
「ぷっ・・・お手柔らかに頼むぜ。」
「あのねぇ、バカにしちゃってるけどさ、ほのかだってすごく頑張ってるんだからぁ・・」
「だから、なんだよ?」
「なっつんがメロメロになったって知らないよ?!」
「へー・・・そりゃあ楽しみだな。で、いつ頃の話だ、50年後くらいか?」
「ふんだ、言ってなよ。・・っていうか”50年後”ってのも覚えておくからね!?」

ほのかがオレの言葉に腹を立て、『50年後のリベンジ』だとか言ってる。
そんな先までオレの傍に居るつもりなのか?・・・怖い話だぜ・・・
毎日毎日、こんな調子なら、いつの間にか経ってたりしてな。
その頃はどんなゴチソウ食わせてもらえてるかなんてちょっと想像してしまった。
オレも大概・・・バカだよな。

「オマエさぁ、オレのこと好きだろ?」
「えっ!?なっなんだい、いきなり・・・」
「嘘吐かないんだろ、教えろよ。」
「嘘吐かない。・・なっつんが・・好き・・だよ?」
「じゃあ、50年後、オレも覚えといてやるよ。」
「えっ!?・・・ぅ、ウンっ!覚えておいてね!?」

ほのかが一瞬顔を赤らめた。だがすぐに笑って万歳なんかしてやがる。
正直なオマエがそんなに喜ぶんなら、オレもこっそり喜んでおこう。
いつかオレが素直になれる日が来るならきっとそれは・・・他のヤツの前じゃない・・
バカだよな、逢えなくて寂しかった。オマエの成長を見逃したような気がしたことも。
逢ったとき感じた違いなんて・・ただオレがオマエが足りないと思ってただけなんだ。
見逃さないようにしよう。オマエが少しずつ成長していくところを。
飛び上がって喜んでたほのかがオレのところに戻ってきて小さく囁いた。

「ねぇ、なっつんは?なっつんもほのかのこと好きでしょう!?」
「さぁ?知らねぇな。」とオレはほのかの額を指で突付く。
「たまには素直になりなよぅ〜!」
「フン・・100年後だな、それは。」
「ええ〜!?そんなに長生きしないとダメなのかい!?」

噴出したオレにつられてほのかも笑った。長生きしそうだな、お互いに。







彼は「素直じゃない」ということを認めてしまってるのですが?(笑)
ほのかはわかってると思います。しっかりと。v(^^)v