After kiss


「いつもしてるじゃねーか」って・・・してないよっ!?
それはね、ほっぺとか、おでことか、そういうとこだもん。
びっくりした。一瞬だったからなんかよく覚えてない・・
何がショックって、それが結構大きい。覚えてないってどうなの!?
いやでも・・なんかこう・・弾力を感じたような・・気もする。
ああああああ!?顔が熱い!なんなのなんなの、これって。
どうしよう、どうしてあんなに平然とした顔してたの?!
男のひとにはどうってことないことなのかな?そんなのヒドイや。
なっつんは前に他の女のことはそういうことしないって言ってた。
ちょっと意外だったけど、嬉しかった。今度だってその・・ねぇ!?

外で、それも皆が見てるとこでだったからすごく恥ずかしかった。
周りからからかわれたり、突っ込まれたり、散々な目にあったよ。
とにかく部活を終えていつものようになっつんの家に来たけど・・
どんな顔すればいいのかなぁ?別にいつもどおりでいいと思うけど
ちょっと自信ない。ほのかちゃんとしたことが、困ったね。
すーっと深呼吸してみた。なのにだんだんドキドキが酷くなってきた。
こんなに慎重にドアを開けたのはもしかしたら初めてかもしれない。
あれ、こんなドアノブだったかな?と頭をひねってしまったほどだ。
窺うように居間を見回したけれど、主の姿が見えなくて変だなと思った。
トレーニングしてるのかもしれない。ほっとした途端に喉が渇いた。
台所へ行ってほのか専用の飲み物を冷蔵庫から取り出して飲んだ。

「はー・・美味しー・・生き返るー!」
「・・どこの親父だよ、オマエは。」
「うぎゃっ!?びっくりしたっ!」
「ここはオレんちだ。・・来たのか。」
「え、う・ウン、そりゃ・・来るよ。悪い!?」
「悪かねぇけど・・」

思った通りトレーニングしていたらしい。もうシャワーを浴びてさっぱりしている。
いつもなら肩に掛けているタオルでごしごしと拭いてあげたりするのだけれど・・
今日はなんとなくそうしなかった。なっつんも別にそのことは気にしてないようだ。

「オヤツ食うか?冷やしといたのがあっただろ?」
「えっホント!?気がつかなかった。食べる食べる!」

なんだかいつもと変わりない。そのことがなんだか変だと感じた。
あれはほのかの気のせいとか夢とかで現実じゃなかったんだろうか?
それともなっつんが言ったみたいに、いつものことでどうってことないの?
きいてみたいと思うのに、どうしてだか尋ねることができなかった。

「おいしいー!冷たくてイケルよ、このトライフル。」
「そっか。」
「なっつんパティシエになれるんじゃないかな!?」
「アホ・・」

ほのかが単純にもオヤツに夢中になっているとき、ふと視線に気付いた。
なっつんがほのかのことをじっと見ているのは別にいつもと同じ・・はず。
なのに急に胸がどきんと鳴った。さっきのことを思い出したからだ。
ものすごく近かったなっつんの顔。あのとき重ねられた手が今頃痺れてきた。
目は閉じる暇なんかなかった。ほんとにあっという間の出来事だったのだ。
オヤツを含んだ冷たい口の中と対照的に唇が熱くなったような気がした。

「なっなに見てんの?!これ、欲しいの?」
「はぁ?いや、別に・・」

咥えていたスプーンを取り出して、ひとさじすくって差し出してみた。
するとなっつんは少し眉をしかめて、妙な顔つきでほのかを見た。

「こういうことは平気なのか?あんなにさっきは怒ったくせして。」
「え?・・あ・・!」

突然顔も全身も火を噴いたみたいになった。慌ててスプーンを引っ込める。

「そ・そりゃ怒るよ!だってあれは・・」
「・・・・・・悪かったな。」

なっつんはかなり間を空けてぼそっと謝った。なんだか傷ついたような顔で。
その顔を見たら、なんだかこっちも悪かったように思えて急激に熱さから冷めた。

「・・・早く食っちまえよ、オレはいらん。」
「えっ・・?あ、ウン。そだね・・」

いつもの調子で言われてその通りした。けれどもしかして今のは誤魔化した?
それともワタシが困ったような顔したから助けてくれたのかもしれない。
どっちにしてもいたたまれない感じが全身を包む。どうしたらいいんだろう?

どんなときしてただろう?ふとそんなことを考えた。
オセロに勝ってなっつんにキスしたのはおでこだ。ワタシからしたんだった。
ほっぺにしたのも・・・ワタシだ。なっつんに甘えるように腕を廻して。
おでこにされたのは・・なっつんだ。ぶつけて痛いと泣いたとき、そうっと。
ほっぺにしてくれたのは、ほのかが寝てるときだった。優しかったけど目は覚めた。
でも今度のは違う。今までのと何が違ってるんだろう?唇同士だった他には。
なっつんは・・ちっとも迷ってないみたいだった。こっそりしたのでもない。
ほのかは見られていたから怒ったんじゃない。突然で驚いてしまったから。
じゃあ・・・そうだ、胸のどきどきが違う。こんなのは初めてだ。
ほんのちょっと触れただけで、だからなっつんは「いつもしてる」と言ったのかな。
だけど、だけどね?違ったよ、今もこんなにどきどきする・・・だから

「どうした?急にぼーっとして。」
「へ・・?」

我に返るとなっつんが心配そうにしていた。

「・・ちょっと・・考え事。」
「・・・そうかよ。」

なっつんはほっとしたのか身体を座っていた椅子に深く投げ出した。
ワタシは持っていたオヤツの器をテーブルに置いて、きいてみた。

「さっきのは・・今までのとやっぱり違うでしょ?なっつん。」

脱力していた身体を起こして、なっつんはまたほのかに視線を戻した。
心臓はやかましいけど、勇気を出すんだと自分に言い聞かせた。
きっとそうだと気付いた。あれは今までとは違うキスだったんだよ。
あのとき二人の間にあったフェンスを、無くしてしまったのはなっつんだ。
ほのかは「特別」だとよくわかるように示してくれたんだ。そうじゃないの?

「・・・そうだな。そうだ。」

やっぱり、そうだった。なっつんは少しも照れたりしないでそう言った。
困っても迷ってもいないなっつんに、ほのかは驚いたのかもしれない。

「ありがと、なっつん。」

そう言って笑うと、なっつんはようやく照れたようないつもの顔をした。

「なんだよ、それ・・嫌だったんじゃないのか?」
「あーいうとこでいきなりは普通怒るよ!そうじゃないの!!」
「あーそうですか。」

不貞腐れたみたいな言い方でまた腰を落としたなっつんの頬はほんのり赤かった。
ワタシが怒ったから、傷ついたのかもしれないし、心配していたのかもしれない。
これで安心してくれただろうか?勇気は随分使ったけど、きけてよかったと思った。

「ねぇ、なっつん。」
「なんだ?」
「またしてね?」
「・・・・・・・・・・あぁ・・」

ものすごく長い間の後で、小さな返事があった。さっきより顔が赤い。
その顔はワタシに安心をくれた。なんだか幸せだなぁといきなりそう感じた。

「美味しかった。ごちそうさまっ!」

手を合わせて満足感に浸っていると、なっつんはまたまたほのかを見ていた。
なんだか物足りなさそうな顔に見えたから、「どうしたの?」と尋ねた。

「またって・・いつでもいいってことか?」
「え!?・・えっ・・えっと〜?」

今度はあのときみたいな(つまりその・・したい)顔になってる・・ような?
明らかに今までと違う状況になっていて慌てた。だってほのかが負けそうだよ。
そんなのってないよ、なっつんなのに!?なっつんのくせに!ねぇ!?
そうだ、ダメだって言えばいいんだよね!?慌てないで落ち着いておちつい・・

いつの間にかほのかの目の前にいたなっつんに驚いてる隙にまた・・された。

「ちょっ!ちょっと!?していいなんて言ってないよ!?」
「なんだよ、やっぱり怒るのかよ!?」
「だって!だって・・・心の準備とかさぁ!?」
「どんな準備だよ?予告すりゃいいのか?じゃあ、するぞ。」
「えっ・また!?何回するの!?どうして何度もするの!?」
「オマエが慣れるまで・・?」
「えええっ!?!?」
「嘘だよ。今まで抑えてた分、ちょっと元を取ろうかと・・」
「そっそんなの知らないよ!待ってよ、なっつん。」


身体の力が全部抜ける頃ようやく放してもらえた。怒る気も失せたよ・・・
なっつんのバカ!もう知らない!・・・・悔しいから最後はほのかからして、

「もう今日はこれでおしまいっ!」って言ったの。

でも少しも効果なかったみたい。「じゃあまた明日な。」だって!
悔しいやら、呆れるやらでなっつんにもたれて糸の切れたお人形みたいになった。
そのワタシの髪を撫でてくれる手はいつもとおんなじであったかかった。
だから仕方ない、許してあげるよ。その嬉しそうな顔に免じてね。
それにさっきから熱いせいかくらくらしちゃって、なんだろ、これ?
なっつん病かもしれない。熱に浮かされて「好き」だなんて言っちゃったし。
最後だと言ったのにもう一度重なった唇は長いことそのままで・・・

「おっおしまい・・って・・いったでしょお!」
「気にするな、おまけだ。」
「お、おまけが・・一番・・長かったじゃないかぁ・・!」
「ごちそうさん。」


憎たらしい微笑んだ顔のほっぺたを思い切り抓ってやったけどちっとも・・
堪えてないどころか、幸せそうだから。だからもういいやって思った。







何度もしてるけど、実はまだディープじゃないんだよね。(笑)
楽しそうななっつんのレッスンは続きそうです。頑張れ!

これは萌えなキス漫画から生まれたお話です。
さぶえ様vどうもありがとうございました!^^