眠れぬ夜は



暗いのは怖くない。ただ静かなのは怖いな。
葉音も風音も聞こえない夜だってたまにあるけど。
邪見さまの鼾だって無いと寂しい。
目を瞑ると何にも無い。でも音は聞こえる。
色んな音は子守唄なの。結構賑やか。
でも眠れないときもある。
お昼みたいに歌は歌えないし、起きてもすることがない。 
殺生丸さまが居ればなあって思う。
そしたら眠れなくても全然平気。
そこに居るだけで空気まで違うの。
目を閉じたってわかるよ、居る事が。
不思議だな、殺生丸さまが居れば何も怖くない。
殺生丸さまを怖がる人や妖怪も居るけど、
りんは怖くないよ。
殺生丸さまは優しいの。多分そうだと知らないの。
いつか教えてあげたいな。
りんね、殺生丸さまさえ居れば何も怖くないんだよ。
りんのこと殺してしまおうとしたって怖くないよ。
殺されるなら殺生丸さまにだといい。
でも傍に居られたらもっといい。
居ないときは寂しい。あいたい、あいたいって思う。
こんな眠れないときもいっぱい思う。
あいたいな、銀の髪、金の瞳、頬の赤、もこもこ。
おっかあみたいに綺麗で、おっとうみたいに強くて、
にいちゃんたちみたいに助けてくれて、
でも違うのはなんだろう?どうしてだろう。
ああ、あいたいな・・・早く帰ってきて、殺生丸さま。



「それでね、昔はね、眠れない夜は殺生丸さまのこと考えてた。」
「今はどうなのだ。」
「今はちょっと違う。」
「眠れぬ夜があるのか。」
「・・・うん。」
「毎晩戻っているだろう。」
「そうじゃなくて・・・」
「・・・今は夜、眠らせてくれないでしょう?」
「・・・不満なのか。」
「ううん。でもね、あいたいって思うのは今の方が強いの。」
「・・・」
また殺生丸さまがりんを包み込むとやっぱり眠れない。
それでも、やっぱり傍に居られたら辛くないよ。
眠たくって朝が辛いけど、いいの。お寝坊なりんを起こしてくれる、
殺生丸さまの優しい声が聞けるから。
「りん」
ああ、なんて優しいの。そう教えたいのに、なかなか伝えられない。
殺生丸さま、なんて優しい声でりんを呼ぶの。


眠れなくていいの、どんなにあなたが優しいかわかるから。
眠れない夜はどんなにあなたが愛しいか感じられるから。
私を包んで、あなたに優しさが伝わるように。