Memorial day



「懐かしいね、殺生丸さま」
「そうだな」
「この観覧車こんなに小さかったかな」
「こんなものだったが」
「子供が大きくなったら来ないよね、普通」
「さあな」
二人は感慨深げに辺りを見回して懐かしんだ。
二人だけでここへ来るのは三回目だ。
一度目はりんが9歳の誕生日の翌日。
二度目はりんが19歳、結婚して三年めのことだ。
そして今回は三回目、りんは29歳、殺生丸は40歳だ。
子供を連れて来たことはあったがこの日は二人だけの記念日だった。
二回目のときは子供を預けて、今回は子供達の了解済みである。
「二回目に来た時のこと覚えてる?」りんは嬉しそうに尋ねた。
「どのことだ」
「ほら、コーヒーカップに乗ったらまた目が回って」
「あれか」
「もう乗らない?」
「乗りたいのか」
「ううん、もういい」りんはくすくす笑っている。
「殺生丸さま、すごく回すんだもの」
「はしゃいでいただろう」
「楽しかったもの」りんの笑顔は変わらない。
その笑顔を見守る瞳も変わらず温かかった。
「初めて来たときは殺生丸さま、結婚なんてしないって言ってたのよ」
「そうだな」
「でもりんも十年後に結婚してるとは思わなかったなあ」
「まだ子供だったからな」
「殺生丸さまはその当時彼女いたんじゃないの?」
「いない」
「えー?ほんとう〜?!」
「特定のは」
「ほら、いたんじゃない!もお」
「もう時効だ」
「どうしようかなー?」
りんは口を尖らせ拗ねたように夫にもたれ掛かった。
肩を抱き寄せ「どうして欲しいんだ」と夫は囁いた。
「うーん、そうだなあ、まずね・・・」りんは考えながら顔を近づける。
夫の頬に軽く唇を当てて「りんを死ぬまで離さないって言って」
「それから、今晩は殺生丸さまの作ったご飯が食べたい」
「それからあ・・・」
「まだあるのか」夫はそう言いながらも嬉しそうだ。
「今日もうんと優しくしてね、今夜はあのワインも開けて!」
「わかった」と言った後、妻の耳元にさっきリクエストの科白を囁いた。
「今夜は酔わせていいんだな」ゆっくりと顔を離して言った。
うっとりとした妻は顔を赤らめながら「うん、酔わせてね」と答えた。
「楽しみだな」楽しそうな夫の顔にりんも満足気だった。
結婚してこれ以上の幸せはないと思っていた。
だが年を重ねるごとに幸せは重みを増してゆく。
そして子供にも恵まれ幸せはどんどんと広がっていく。
わがままになっていく自分と優しさを隠さなくなってゆく夫。
ただ変わらないのはお互いの羽根。きらきらといまも煌く。
子供達の背中にも輝き、仲睦まじい夫婦の目に眩しい。
「また十年後に連れてきてね」
「ああ」
二人を乗せた観覧車は一巡りして降りてきた。
「今度はりん、39歳かあ、おばさんだなあ」
「変わらないだろう、おまえは」
「だったらいいけど、おばさんになったらりんのこと嫌いにならない?」
「50のオヤジを嫌わないでもらえればな」
「絶対、大丈夫よ、殺生丸さまは変わらない」りんは輝く笑顔で肯定した。
「おまえも変わったりしない」その愛しい妻に向ける眼差しにりんは胸が熱くなる。
「殺生丸さま、大好き」
「知っている」
腕を組んで夫婦は帰路へ着こうとしていた。
外で食べてきたらと薦められたが二人にとって家が一番だった。
食事もお互いの作るものがどんな高級料理より美味しい。
「今晩何作ってくれるの?」
「なんでも」
幸せを身体いっぱいに感じながら二人はずっと寄り添って帰っていく。
その影はこの記念日にいつも長くひとつに交わったまま伸びているのだった。





「いつか銀の羽で」番外編(20年後)です。
殺は年をとるごとにりんに甘くなってます。