恋うる想い   



 「琥珀が好きか。」
 突然の問いに大きな目が更に見開かれる。
 「うん、好きだよ。」
 予期していた答に顔色は変えずにいる。
 「あれを救いたいか。」
 りんは眉を寄せ、問いの意味を知ろうとする。
 「死なないといいなと思うけど。」
 首を傾げ心意を掴めぬままじっと見つめてくる。
 「私に何を求めている。」
 「傍に居たいよ。それだけ。」
 りんは笑みさえ浮かべてけろりと告げる。
 「琥珀を救えと私に請うか。」
 「どうして?」
 「あれが好きなのだろう。」
 「・・・そうか、殺生丸さまならできるのかもしれないね。」
 しらじらしくも感じるがりんに他意もなにもない。
 「琥珀に抱かれたいか。」
 「?ううん。」
 意味がよくわからなかったがなんとなく違うと感じて答えた。
 「好きだとそうしたいものなの?」
 「・・・」
 目の前の金色の瞳が僅かに揺れた気がする。
 「好きなひとには幸せで居て欲しいな。」
 「・・・」
 「・・でも殺生丸さまだけはチョット違うの。」
 りんの真っ直ぐな眼差しがふっと伏せられる。
 「私に何を求める。」
 先ほどと同じ問いが返された。
 「幸せで居てくれるだけじゃなくて・・・傍で見て居たいの。」
 「・・・」
 呟いたりんは歳よりも大人びて女を感じさせた。
 「りん、贅沢だね。」
 ぱっと顔を微笑みで飾っていつもの無邪気なりんに戻る。
 「何故私にもっと求めない。」
 「?殺生丸さまはりんにいっぱいしてくれてるのに。」
 不思議そうに目を見張り、「変な殺生丸さま!」と笑う。
 贅沢だろうか、求めるのは愚かだろうかと思う。
 甘えて、わがままを言い、求めて欲しいと思うことは
 おかしなことだろうか、まだ幼い少女には無理というものだろうか。
 だが心のなかに隠しているのではないのか。
 傍に居たい・・・それだけを繰り返す少女のなかに。
 恋うる想いは隠れていないというのか、その無邪気な笑顔の下に。
 「私が好きか。」
 りんが急に真顔になり、口をつぐむ。
 まるでそれが禁じられたことかのように途惑いながら恐る恐る頷く。
 「私がおまえを愛してなどいないと言ってもか。」
 りんはこっくりと先ほどよりはっきり頷いた。
 「おまえなど愛せないと言っても傍に居たいか。」
 「お願い、傍に居させて。でなければ殺してください。」 
 今度こそ必死の形相でりんは懇願した。
 殺生丸はやっとその瞳に安堵の光りを宿して目を細めた。
 愛しいことを隠しているのは辛い。
 少女のそんな様子を見るのも辛い。
 「傍に居ろ。他の誰にも抱かれることは許さぬ。」
 「おまえを抱くのは私だけだ。」
 りんは半ば呆然と突然の告白を聞いていた。
 「愛してよいのは私だけだ。」
 とても難しい表情をしてりんは尋ねた。
 「りんのこと、好きじゃないって・・・?」
 「そんなことは言ってない。」
 ひどく驚いたりんを面白そうに眺めてからいきなり腕を掴み引き寄せる。
 収められた広い胸に顔を埋めてもまだりんはおかしな顔をしていた。
 「殺生丸さま・・・?」
 「私が好きならもっと求めよ。」
 「どんなことでもいいの?・・・好きって言ってくれる・・・?!」
 りんの耳元に告げられた言葉はこれから何度も其処や口元へと押し込まれる。
 ”もっともっと求めずにおられぬほど私を愛せ、りん”
 ”たぶらかされ、おぼれさせ、夢中にさせた罪ほろぼしをせよ”
 声にならない想いが愛しさと恋しさとなって二人の間に溢れた。