この腕は



剣を振るうことができれば
それが全てであった
何も感じる必要も無い
ただ己の延長であれば
隻腕でもなんら不自由もない
剣を振るえさえすれば


「あったかい・・・」
押し付けた吾が胸のなかでりんが呟く
落ち着いた鼓動が刻を刻む
「こうしてもらうと嬉しい」
満ち足りた声音が身に響く
「りん、幸せだなぁ・・」
動けないほど捉われているというのに
髪の一筋も離したくないとする私の腕に
零れる笑みの端から捕らえたいと
絞り出せそうなほどの視線を浴びながら
「殺生丸さま・・大好き」
りんの吐息に息が詰まり腕は痺れる
歓喜に堪え難いとばかりに
「ずっとこうしてたいな」
りんの頬を引き寄せると淡い熱
触れて蕩けて胸を刺す
例えようの無い心地に貫かれて
この腕の在る悦びを
この身を焦がす想いを
知っているか りん
「なあに?」
「・・・」
もの言えぬ私を見つめ
小さき手指で腕を摩る
「りんはここに居るよ」
堪えきれない吾が腕に力が篭る
応えと知ったのかりんが微笑む
「殺生丸さま」
「りん・・・」
眼を閉じて吾が腕を掴んだまま
寄せる頬の柔らかさに酔い
ひとつにならんとするかのように
私もまた眼を閉じて


おまえを抱くことさえできれば
それが全て
塵ほどの変化も逃さず感じ捕り
ただ己の身に手繰り寄せ
隻腕であることに足掻きつつ
おまえを包めさえすればと
只管にこの腕の何たるかを知る
この腕にその手を添わせ
私の全てを絡みとれと希う