(4)告白   



 「私は・・・おまえに触れることができない」
 殺生丸は何を言おうとしているのかわからぬまま呟くように言いました。
 「触れれば・・・壊してしまう・・・」
 りんは驚いたように目を見張り、じっと耳を傾けていました。
 「おまえを傷つけたくはない・・・」
 りんは感動するように目を潤ませると穏やかに微笑みを浮かべました。
 その大人びた美しい笑顔にまた釘付けになりながら見つめていると
 「殺生丸さま、りんは大丈夫。傷ついたりしないから。」
 りんは幸せそうな笑顔を惜しげもなく浮かべながら言いました。
 不可思議にりんを見つめる殺生丸を愛しさに満ちた優しい声で、
 「そんなに大切に思ってくれるのにりんを傷つけることなんて何もないよ。」
 きっぱりとなんの不安も躊躇もなくりんはそう告げました。
 「りんはとても嬉しい。」
 つうっとりんの頬に零れ落ちた涙は喜びの涙で、きらめく宝石のようでした。
 何もかも美しく、そして優しく、それは殺生丸を身も心も溶かすようです。
 温かく染み込んで来るりんの想いに殺生丸は我知らず手を伸ばしていました。
 そっと湿った頬に指が触れるのをまるで遠くで見るように殺生丸は感じます。
 指先はりんの涙を捉え、拭うと温かさにじんと灯が点るようでした。
 りんは恥かしそうに頬を染め、照れたように笑いました。
 「ほら、とっても優しいよ?!殺生丸さま。」
 「優しいのは・・おまえだろう。」
 「ううん。あのね、好きだと誰でも優しくなれるんだよ?殺生丸さま。」
 「私は・・・おまえに優しくできるのか?」
 「いつも殺生丸さまは優しいよ?だから嬉しいの。殺生丸さまが大好きだから。」
 「おまえが教えたのだ。」
 「何を?」
 「愛することを。」
 「・・・うんと好きってこと?大好きだよ、だから見て欲しかったの。」
 「私はおまえが見られなかった。」
 「見てくれて嬉しい。大好きなこと知って欲しかった。」
 「私は知るのが怖かった。」
 「どうして?」
 「おまえを手に入れる前から失うことを怖れていた。」
 「りんはどこにもいかないよ?」
 「・・・離しはしない。」
 りんが嬉しそうな顔を綻ばせたのを殺生丸はやはり見ることができませんでした。
 何故ならしっかりとその腕にりんを抱き寄せ、胸に埋めてしまったから。
 大好きな妖怪の胸のなかはとてもどきどきするのに心地良いものでした。
 りんは自分も手を伸ばし、妖怪を一生懸命抱こうとしました。
 息が詰まりそうなほど抱きしめられて、苦しいのにりんはとても幸せで、
 初めてりんを抱いた殺生丸もまた、息は詰まるほどの歓びに満ちてゆくのでした。
 ”一度触れてしまったら”
 ”離せない”
 ”知っていたから怖れていたのだ”
 胸の奥に点った火は熱く、殺生丸を芯から燃え立たせる予感がありました。
 そして確かに感じるのでした、りんが居る限りこの火は消えることはないと。