恋しいひと 



 
普段は無邪気に微笑を見せるくらいだが
たまに大きな眼を無遠慮に向けてくる
どうしたのかと眼で問い返すと反らす
初めのうちはそれが癇に障った
そのうち私の眼差しに険を見つけたらしく
眼が合った後にしゅんと項垂れるようになった
更に不愉快になり、りんを呼んで問うてみた
何故眼で何かを求めていながら、反らすのかと訊く

「ごめんなさい・・」
「訳を訊いている」
「・・確かめていたの」
「何を」
「殺生丸さまのこと」
「私を知った風に言う」
「・・ごめんなさい」
私の不快は増すばかりだった
萎れた花のようで鬱陶しい
りんの顎を掴み顔を上げさせた
「見たいのなら見ればいい」
驚いた顔は後に益々哀しげに歪んだ
「何故私を見てそんな顔をする」
許さぬとばかりに手に小さな顔を包む
「私の何がおまえにそんな顔をさせる」
苦痛まで浮かべる様に胸が粟立つ
「・・せ・殺生・丸さまを・・」
「見ると・・嬉し・・く・て・・」
「でも・・なんだかく・苦しく・て」
「りんにも・・よく・わから・・ない」
途切れ途切れに伝える言はか細く震えていた
私はようやく手を緩め、りんを抑えた痕を見た
たいした力を入れたわけでもないのに痕は鮮やかだった
途端に愚かな行為にまた我を忘れたと知る
りんのことで私はよくそうなる
余り気持ちの良いものではない
頭を冷やそうとりんから離れた
しばらく離れているとりんが寄って来た
「殺生丸さま」
顔をりんの方へは向けずにいたが構わずりんは話し掛けた
「心配かけてごめんなさい」
「・・・」
「りん、殺生丸さまを見てもいいんだね」
「なんだかじっと見てると胸がどきどきするんだけど」
「嬉しいからきっとまた見てしまうと思うの」
「だから、見ていいっておっしゃってくれてよかった」
「ありがとう、殺生丸さま」
りんが幸せそうな声を聞きながら私は不可思議な想いに囚われる
言うだけ言って離れんとするりんの手を掴んで懐に収めた
「殺生丸さま、なんで・・抱っこしてくれてるの?」
「おまえが私を不愉快にさせた」
「え・・」りんの顔が不安そうにまた曇る
「私を見て笑うのなら許す」
少し眼を見開くとりんは笑った
「そうだ、それでいい」
「どきどきしてる」
「そうだな」
「わかった、それを殺生丸さまに知られるのが恥かしかったの」
「私の前で恥じることなどない」
「はい・・・難しいけど・・」
りんのか細き身体を引き寄せて胸に埋めると苛々は治まった
「殺生丸さま、苦しい・・怒ってるの?」
不愉快とまではいかないが煩い口を黙らせた
だがまたしばらくするとりんは口を開いた
「どきどきは止まらないよ?これはいいの?」
「良い」
「よかった・・」
りんが安堵の息を吐き、身を全て委ねると私もまた安堵する
「りんね、こんなに幸せなこと・・知らなかった」
「・・・そうだな」
この安堵が幸せなのか、りんの吐息と柔らかさがそうなのか
何ゆえ私がりんをこうしたのかはわからない
りんが私を幼子のように恋しがったのだ
誰に咎められる謂れなどない
所詮まだ子供、たまにこうしてやるのも良い
くだらない思考を止め、りんに倣って眼を閉じた
酔うような感覚にりんの言わんとすることが少しわかる気がした








ものすごーく久し振りの殺りん短編ですねv
気持ちよーく言い訳兄が書けました。(笑)
いつもこうしていちゃいちゃしてて欲しいです。