声がきこえる



「りん」
どこからだろう 声がきこえる
「殺生丸さま」
いつも胸に 声がきこえる
懐かしく 淡く 透明で
きがつけば 耳の奥にひびく

「りん」
呼んでほしい 声がきこえる
「殺生丸さま」
いつまでもとどめたい 声がきこえる
忘れがたく 穏かに やさしい
切なく あまく 遠くへと
想いとともに 心の奥へ

「りん」
こたえのかえらない 声がきこえる
「殺生丸さま」
虚ろの手のなかを こだまする
愛した 面影 瞳の向こう
寄せて 返す 波のように
戻らぬものを なお ここに
声が呼ぶ お互いを探しもとめて

ここにいる ここにある
確かに そこからここへ
とけて交わり ひとつになった
なのにいつも いつまでも 声がきこえる

「りん」
「殺生丸さま」
「ここにいたの」
「ここにいろ」
「はい」
「離れるな」

声がきこえる もう誰もいないのに
胸にこみあげる 想いはるか
声がひびく かさなりあい ふたつ
遠い思い出 追憶の彼方


「りん」
「殺生丸さま」
「好きよ」
「わたしもだ」


それはほんとうではなかったかもしれない
ただそうあってほしかっただけかもしれない
それでも ここに 声がきこえる
「あいたかった」と 幸せな声が
はるか むかし 夢の果て