It is not waited.



もうどれほど以前か思い出せない。
最後はいつだったか定かでない。
可笑しなほど清く正しい生活が定着している。
もうそれほど若くはない。
かといってまだ衰えを感じるほどではない。
少女に出会い、手元に置き、成長を見守った。
何もかも面倒を見てきたわけではない。
だがいつも気に掛けてきた。
そんなつもりはさらさらなかった。
それなのに手放すことだけは念頭になかった。
待っていたわけでは断じてない。
ないはずがこの焦りはどうだ。
「もう、待てない」
そう言ったときのあの表情。
思わず出た、とうことは真実なのか。
知らずに待っていたのか。
否、待たされていたのだ。
少女は幼く雛のようであったから。
今もどうしてよいかわからずまごついている。
私もまた、このまま押し流されそうになっている。
いつから女を抱いていないかなど思い出せない。
りんはそんなつもりで育てたのではないのだ。
なのにどうして他の女を抱かなくなったのか。
お前に他の男の影さえ許せなく思えるのか。
こんなに思うようにならないのはお前だけだ。
腹が立つほどお前を
お前だけが欲しい。


突然の事で現実と思えない。
何を話していたのか覚えていない。
いつものように取りとめも無く
おしゃべりな私を優しく見つめてくれてた。
嬉しくて少しだけ身体を近づけてたみたい。
気づかないままあなたに触れていた。
そしたらいきなり抱き寄せられたの。
スローモーションのようだった。
口付けはコマ送り。
まばたきしてたかどうかもわからない。
呆然としている私に声が降ってきて、
名を呼ばれたことにやっと気がついて。
恥かしくて離れようとしたら腕をきつく握られた。
「逃げるな。」って言われた。
首を振って「・・・でもなんだか・・・怖い」
そう言ってしまったらあなたの瞳が揺らいだの。
「もう、待てない」低くてよく通る声だった。
身体の芯に響いて思わず姿勢を正してしまった。
でもどう答えていいのかわからない。
なんだろう、どきどき心臓が煩いし、熱い。
瞳を反らすことができない。
殺生丸さまは待っていたの?
りんの何を待っていたの。
大人になること?違うよね。りん、大人じゃない。
殺生丸さまに恋すること?ううん、それならずっと前から。
子供の頃から好きだった。
じゃあ、何だろう。殺生丸さまにりんがして上げられること?
りん、出きるかな?恋人じゃないのに。
あれ?殺生丸さま、りんを恋人にしてくれるの?
そうなのかな、口付けてくれたけど。
握られたままの腕が熱い。
「・・・あの、離して?痛い・・・」
でも瞳はりんを映したまま。
腕は緩めてくれたけど、瞳は近づく。
目を閉じたい、けど閉じれない。
逃げ出したい、でも捕まえられたい。
顔があんまり真直で心臓が飛び出るかと思った。
何時の間にか目は閉じてたみたい。
熱くて溶けてしまいそう。
息できないよ。舌が痺れるよ。
唇が・・・とろとろになってしまった。
殺生丸さまの息も熱い。
びっくりするようなことが次から次へと起こる。
何がなんだかわからなくなって・・・
気がついたら・・・
朝だったの。




待てないってりんのこと?
待たないってこのこと?
何を待てないの?りんはいつだって
殺生丸さまを待っていたのに。
いつだって待っていた、あなたを想って。
わかった、待てないのは伝えることね。
伝えたかったの、りんも。
殺生丸さまもそうだったの、嬉しい。
そうね、想いは待ってはくれない。
好きで好きで好きで止まらない。


おまえは幼いはずなのに、
まだ充分に大人とは言えぬのに、
待てないのは何故だ?
待たされていたのは何故だ?
欲望の捌け口なら他にあったろうに。
待つと約束したわけでもなかろうに。
そうだ、だがそれはやはり約束だったのだ。
抑えきれなかったのは気付かずにいた想いか。
恋焦がれることを知らずにいた私に
気付かせてくれるお前との
われわれでさえ知らぬ約束だったのだ。
知ってしまえば後戻りはできない。
想いは溢れ出して止める術はない。