●犬のおまわりさん5●



りんは安心して泣き出してしまい、おまわりさんに抱かれたまま
しばらくして落ちつくまで顔をその広い胸におしつけていました。
落ちつきを取り戻してきてふと我に帰り、そっと顔をあげると
いつのまにか大好きになっていたりんの目の前のひとが
じっと自分を見つめていたことに恥ずかしくなってしまいました。
「わ、わたし変な顔になってるよね」俯いて尋ねると
くいと顎を掴まれ顔をあげさせられ、慌てました。
「眼が赤いくらいだ」「落ちついたか」と言われました。
「はい・・・」やっとのことでそう答えるりんでしたが
顔と顔があまりに近くてどきどきしてきました。
「殺生丸さま、手、離して・・・」か細い声でお願いしてみました。
あっさりと手を離してもらえて、ほっとするりんでしたが
「落ちついたら、今までのことを全て話せ」と言われました。
少し緊張しつつ、こくんと頷くりんでした。
そして心の中で”引きとめてくれて、嬉しくて思わず泣いちゃった”
”殺生丸さまはおまわりさんだもの、お仕事上りんをここにとどめようとしたんだよね。”
”あんなに泣いてしまって恥かしいな””でもやっぱり殺生丸さまは優しい”
”ちゃんと説明できるかな””お礼の意味でもお役に立たなきゃ”
いろいろな想いがりんのなかを交錯するのでした。
居間のソファに移動してりんの話しを聞くことになりました。
りんによると”奈落”の使いと名乗る神楽という女によって連れ去られたこと、
奈落は何か特別な能力を持つという娘を探しているということ、
当てが外れると攫ってきた娘たちを次々と殺したこと、
その能力を持つかもしれないと推測されたりんを牢に閉じ込めたこと、
毒のようなものを飲まされ口が利けなくなったこと、
同時に自分が何者かもわからなくなったこと、
見張りをしていた手下の琥珀という少年に逃がしてもらったこと、
必死で逃げてこの村の森で気を失ったこと、などを話しました。
「その能力とは?」おまわりさんは尋ねました。
「よくわからないんです。」
「奈落がなにかしようとしたとき私の周りで何かが弾けて、私に触れることが出来なかったんです。」
「そのことに何か関係があるかもしれないんですけど・・・」
おまわりさんは驚いたように少し眼を見開くと
考えながら「試してもよいか」と言いました。
「え?なにを・・・」
おまわりさんはいきなりりんの腕をつかむとあっというまに押し倒してしまいまいた。
びっくりしているりんの上に覆い被さるおまわりさんは、りんの首に手を伸ばしました。
りんの細い首に大きな手を絡め、締めつけようとしました。
思わず眼を閉じ、拒むようにりんが両手をおまわりさんの胸に押し当てたとき、
バシッと大きな音がしてりんのからだから圧力が発しおまわりさんの手を弾いてしまいました。
今度はりんが驚いておまわりさんの方を見ました。
しかしおまわりさんは落ちついていて、「・・・なるほど」とつぶやきました。
「殺生丸さま、大丈夫?」慌てて傍へ身を寄せ、心配そうに覗きこみました。
「ああ。おそらくこれがその能力だろう」と言うと、りんを起こして座り直させました。
「すまなかった。だがこれだけではまだ利用価値がわからんな」
「とにかくおまえは狙われている。私の傍を離れるな」と真剣に言うおまわりさんに
「!・・・はい。」とりんは答えました。
その夜、おまわりさんがりんの眠る横で見張ると言い出しました。
「部屋は私のでもおまえのでもかまわん。どちらだ?」
「で、でも殺生丸さまはいつ寝るの?」りんは心配そうに尋ねます。
「心配するな、浅く眠る」「だが侵入者があったときのために同じ部屋に居る」
おまわりさんは真面目にそう言うのでりんはあきらめて従うことにしました。
”りんもぐっすり眠れそうもないよ”心の中でつぶやきました。
窓の小さいおまわりさんの部屋に眠ることになり、枕は持参したものの
殺生丸の匂いのするベッドでりんは”ほんとに眠れないかも・・・”と溜息をつきました。
「寝ろ」といって少し離れた椅子に腰掛けるおまわりさん。
促されて横にはなったもののやはり落ちつかなく、むりやり眼を閉じてみるりんでした。
”・・・どうしよう、眠れないよう”ちらっとおまわりさんの方を窺うと
こちらを見ているので目が合い、慌ててくるりと寝返りをしました。
”えーん、なんであんなにじっと見てるんだろう?”そんなに心配なのかな”
あれこれと眠れぬままに想いを浮かべ、明け方ちかくやっと眠りの海へと
りんは落ちていきました。



続く