全部のみこんで 


きっかけはなんだったか思い出せない程些細なこと
そんなことより息をするのも困難なこの時に溺れる
といっても困難に陥っているのは片方だけのことで
この世で一番苦しめたくない相手でありながら一方で
途切れ途切れの息も苦しみも飲み干したくて滾る


追い詰められていよいよ打ち止めの息は辛そうになり、
涙と汗と吐息でぐちゃぐちゃになっている様子に酔う。
一方通行、と微かに繰り返される彼を示す名も掠れ気味。
抱いている小さな体は熱く、自らも共に熱くなっていく。

唐突に思い出す。そうだ、打ち止めの言葉にむかついて
無理矢理奪ったのが最初だった。それまでしたことがなくて
無理矢理というのは自身に対してもだ。考えずに行動した。
驚いて息を詰まらせた打ち止めに満足するという結果に
息を止めたのは一方通行だ。青ざめて固まった。

「・・だいじょうぶだよ・・息止まったけど・・生きてる。」

怖気ていることは直ちに悟られ、宥めるように手を伸ばされた。

「わかってる。あなたはミサカを壊そうなんて思ってないって」

打ち止めは心配で表情を曇らせた。一方通行を抱き締める。

「今のは・・違うんでしょ?ミサカのこと・・えっと・・」

なんとか彼の怯えを拭い去ろうと必死になる打ち止め。それを見て
一方通行は彼女の肩に顔を埋めるようにして縋りついた。
ほっとして打ち止めは彼の背を撫でた。優しく何度も何度も。

「ね、一方通行。ミサカあなたに今度は優しいキスを求めてもいい?」

ゆっくりと顔を上げた彼は泣いてはいなかったが泣き出しそうに見えた。
穏やかに微笑む打ち止めは自ら目を閉じた。愛しい少女の求めに彼が
抗える術などない。一生に一度、これが最初で最後、そんな想いだった。
元からそんなもの持ちあわせていないと思っている優しさを全身に掻き集めた。
しかし想いは伝わった。打ち止めは彼が唇を離したときちゃんと答えた。

「ミサカは今のキスを一生忘れないってあなたに伝えるよ。幸せな気持ちも。」

二人で抱きあった。言葉も忘れ、ただ互いの存在を確かめるように。
始まりはそんなだった。それから二度目まではかなり間が空いた。
ありがちだが彼が打ち止めから離れねばならない状況になったから。
そうして再び会えた日の夜、一方通行の寝床に忍び込んだ打ち止めに
二度目の口付けをせがまれ、それからというもの・・
数え切れないほど重ねた唇と唇。絡めた舌と舌。二人の関係はまた変化したのだ。

元々は殺しあう者同士、それが護り護られる者同士へ、そして
今は愛し合う者同士となった。何れの関係も離れられないという点は同じだが。


「相変わらずへったくそだなァ・・」
「ふ・・ふぅ・・そ・んなことないもん」
「俺を煽るためってンじャねェのか」
「!?・・そおなの?ってミサカは」 

意図などなく上手く息の継げない恋人の姿にも彼は欲情する。
涙目で見上げる顔があまりにぽかんとしていたのでまた煽られた。
苦しがらせたいなんて酷い男だ、とは打ち止めは欠片にも思わない。
それがわかるので尚更愛しいだけだ。何度キスをしても飽きることはなかった。

「・・っ・・はっ・・はふ・・ぁう・・はぁっ・・」

キスだけでこの有様では、どうなることかと一方通行は懸念する。
呆れることにキスは性交の代償行為にもなっていて体はまだ重ねていない。
しない方がどうかしている、それくらいお互いに身を焦がしていながら、だ。

「・・・あくせら・れー・・た・・」
「・・ンだァ?・・打ち止めァ・・」
「どして・・ほかのとこ・・に・してくれない・・の?」
「・・・・どこにして欲しいンだよ」
「あなたがしちゃいけないとこなんて・・無いのに・・」
「ン〜・・そォかもしンねェけど・・おまえからねだってくれよ」
「一箇所ずつ!?ってミサカはちょっと・・言えない場所とかは?って疑問が・・」
「クク・・エロガキ・・ドコ想像してンですかァ!?」
「うぐ・・名称がわからない箇所とかあるじゃないってミサカはミサカはあ・・!」
「俺が教えてやる。指でも指せばいいだろ?」
「なるほど。じゃあ・・どこからしてもらおうかなぁ・・」
「一箇所ずつな」
「どうして?」
「究極の焦らしだ」
「あなたって・・・エス、というかもしやエム、かもとか」
「曖昧な知識で言ってンな。どっちの要素も実は人間持ってるンですゥ。」
「つまりあなたは誰を焦らしたいの?ってミサカはずばっと尋ねてみたり」
「どっちでもあり、どっちでもねェな。俺はおまえが求めてくれりゃアそンで満足だ。」
「・・ミサカの希望はね?ってあなたを見詰めながらおねだりするみたいに言ってみる」
「あァ、なンだ?言ってみろ」
「二人共気持ち良いのが最高じゃない?!って思うんだけど・・つまりあなたと同意見」
「よォくわかってンじゃねェか。」
「ミサカはミサカは・・愛する人に愛されてるって実感できていればいつでも幸せなの!」
「あったりまえ過ぎてつまらねェなァ・・もっとエロいこと要求すンのは・・まだ早いか」
「む、あなただって何もかも初めてなくせにどうしてそう見栄を張るのかなってミサカは」
「見栄なンか張ってねェよ。おまえなァ・・痛い目合わせンの遠慮してるってのがわか・」

「ってるよっ!ってミサカはミサカはあなたの口を塞いで黙らせてみたり」
「こ、怖がってるとか思ってンだろォが!そンなンじゃねェンだからな!」
「初めてキスしたときミサカが息詰まらせて真っ青になってたこと忘れたの?ってミサ・」

「っせェよっ!黙れクソガキ。無理矢理犯されたいンかよォ!?」
「どうぞ、そのかわりその後でたっぷり優しくやり直してもらうってミサカは微笑んでみる」
「あァもォ・・クソ・・アホガキ・・・」
「そんなミサカに惚れてるくせに〜!?」
「てめェだって・・こンなガキくせェ男がいいンだろ!?」
「ふふふぅ・・・お似合いだよね、ミサカたちって!」
「一生言ってろ。」
「一生愛してくれるなら」
「あったりまえなンだよ、それも」


繰り返される口付けは終わることのない誘惑で
苦しい息遣いも切ない声も全部飲み込んで欲しいという
打ち止めの願いは必ず叶う 叶えて欲しい人は唯ひとり
叶えたいのは一方通行の願い 希む女はずっと一人きり
口付けが体全部を廻っても 尽きることなくまた廻る

舌と指を絡め なにもかもから解けて二人で一つになる
どうかどうか邪魔が入らないようにとどちらもこっそりと祈った











・・やはり思ったより甘くならなかったです。(これでも)
キスしかしてないからちょっと欲求不満です、私が。(笑)