優しいキスをして 


打ち止めは彼、一方通行に勢いよく抱きついた。
最早慣れもあって彼はされるがまま受け入れる。
数回の呼びかけに応じ顔を打ち止めに向けたまま
彼は固まる。思いがけず唇を奪われることで。

「・・・なァにやってンですかァ・・?!」
 
「キスしたんだよ!ってミサカはミサカはにこやかに答えてみる」
「あァそうらしいなァ・・で、なンのつもりだと訊いてンだが。」
「もしや初めてだった!?だとしたらラッキー!と歓んでみたり」
 
「答えになってねェだろォが!」

噛み付くような彼の声に怯むことなく打ち止めは天使のように微笑む。
一方通行は瞬間笑顔に見惚れて呆けたが、直ぐにその天使を睨みつける。

「したかったから。他に理由がいる?ってミサカは尋ね返してみたり」
「そォかよ。ならこれっきりにしとけ、事故ってことにしといてやる」
「嫌だよ!そんなこというならもっとしちゃうってミサカは宣言する」 

彼に凭れかかっていた打ち止めは更に体重を掛けて首に両手を巻きつけた。
あっさり唇を奪われたことも情けないが大事にしていた一線であったのを
軽々と越えてしまった打ち止めに対して一方通行にやるせなさが込み上げる。
触れてきた唇の感触は思った以上に甘く柔らかく彼を揺さぶったという事実も
打ち消したい衝動に駆られた。しかし無かったことには出来ないとも思う。

「あなたにミサカを女だって認識して欲しいってミサカは思う。だから」
「知ってっか?そういうことは双方の合意でなけりゃ犯罪になンだぞ!?」
「これくらいは罪に問われないってことも知ってるってミサカは得意になってみたり」
「・・こンのクソガキが・・!知識だけで適当なこと言いやがって・・!」
「そんなに嫌だったの?!ってミサカはミサカは複雑な想いで伺ってみる」
「ガキが大人の真似してンな。まだおまえには早ェ。」
「体は未成熟だとしてもあなたへの気持ちは本物なんだから!ってミサカは」
「短絡だな。あンなのはおまえが未だお子様だって証明したよォなもンだ」
「うう・・予想以上の不機嫌さにじわじわとダメージがきたみたいって・・」

打ち止めの声が尻すぼみになり縋る腕が震え出す。一方通行は舌打ちした。
彼女なりに考えての行動だったのだろう。必死なほどの気持ちが彼に伝わってくる。

「何が不安だ?本当は俺にどうして欲しいンだよ。キスは手段だったンじゃねェのか」

一方通行は打ち止めの涙が一面に張り詰めている大きな瞳を見ながら囁くように言った。
大切な少女を不安にさせ、行動を起こさせた原因が彼にあるなら不本意なことなのだ。
単純に子供が好奇心でしたのなら事故としてもよかったがそうではないと彼は判じた。
そのことに気付いたのは打ち止めの様子からだ。冷静になれば簡単にわかることだった。

「この際だ。聞いてやっから思ってること全部言ってみろ。」
「・・あなたのことしっかり掴まえてないとミサカ以外のヒトを好きになるかも、とか・・」
「とか?」
「ライバルが増えたらって思うとミサカ心配で・・あなたはミサカのことどう思ってるの?」
「・・勢い付いてきたな;」
「ミサカの気持ちをちゃんと受けて止めてくれてるかとか。どーしてこんなに好きなんだろ」
「・・・あ、まだあるのな」
「キスくらいならしてくれるかもって期待もあったの。体は・・未発達で申し訳ないし・・」
「キスくらいね・・知りもしねェで・・」
「なら教えて。あなたが今すぐじゃなくてもそうするって約束してくれたらミサカは待てるから」
「そンなに心配か?俺がおまえのことどうでもよくなるくらい他の誰かに現抜かすかもってか?」
「だって・・自信ないんだもの!ミサカはミサカは・・あなたのこと好きなこと以外は全然・・」

溜息が聞え、俯いていた打ち止めはびくりとした。呆れたのだろうかと思うと気持ちは沈む。
気持ちに合わせて体まで鉛を背負ったように重くなる。不思議なくらい感情と結びついている。
こんな風に困らせたりなんでもかんでも欲しがること、それも幼さかもしれないと思う。
うっかりすると簡単にネガティブループにはまってしまう。打ち止めはわかっていても止めない。

「ミサカはあなたに必要とされたい・・女として」
「約束したからってそれで安心か?無理矢理ンでも俺が抱いたら満足できると思うか?」
「うう・・怒らないで。ミサカが子供なのは認めるけどっ・・」

一方通行がいつもより乱暴に打ち止めを抱き寄せると耳元で「怒ってンじゃねェ」と呟いた。
打ち止めは反射的に彼に腕を回し抱き留める格好になる。一方通行はほんの少し口元を弛める。

「おまえはそンなくだらねェことでモヤモヤしてンなよ」
「くだらなくないもん!ミサカにとっては重要なんだよ」
「くだらねェさ。抱き締めたくなっちまったじゃねェか」
「そういえば・・珍しいね。ミサカはあなたとこうするのダイスキ!って暴露してみたり」
「まァ・・たまにはぐだぐだ心配ンなっても・・そンくれェはフツウだろォが」
「フツウって、あなたのその言い方はちょっと憧れを含んでる?ってミサカは感じてみたり」
「慣れねェなァ中々・・けどおまえのそのくだらねェ不安も俺にはありがてェばっかだ・・」
「え?え?!まさか感謝の言葉がくると思ってなかったってミサカは目を丸くしてみるけど」
「約束はしねェし待つ必要もねェぞ。おまえはなァ好きなときに俺に何したっていいンだよ」
「なんだか・・それっていつもミサカが言ってることと被ってるね!ってミサカは気付いた」
「そォいゥこと。俺からは・・もうちょい待ってろ。黄泉川に殴り殺されちまうかもだろ?」
「・・・そういう言い方をするとね?あなたもしたいけど出来ない状況って言訳に聞えるよ」
「言訳じゃなく事実だ。」
「ちょっと待って!今ものすごく重大なこと耳にした!ってミサカはミサカは大興奮!!」
「・・耳元で急にデッカイ声立ててンじゃねェよ!鼓膜ヤバかったぞ!?」
「あぁゴメンなさい!だいじょうぶ?!ってミサカは気遣いつつ慌てて口を押さてみたり」

「キスなァ・・・ま、いィか・・そンくらいなら」
「ねぇあなたスルっと言ったけどさっきのってあなたもミサカとおんなじ気持ちってことじゃ」

一方通行の鼓膜を案じて小声で囁いた打ち止めの口が開いているにも関わらず呼吸を止める。
口も目もぽかんと開いていて一方通行からすればかなり間抜けな表情だろうが打ち止めには
それを気にしている余裕はなかった。

”・・・・・・・・・・・・・・・んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????!!!!!”

状況を把握したはいいが、慌ててしまい言葉どころか思考もおかしくなっていた。
打ち止めがネットワークから仕入れた情報ではカバーしきれず、つまり認識が追いつかない。
けれどそれが予想外ではあってもキスの範疇に含まれるのだろうとまでは理解できた。

「・・・っ・・ん・・ぅ・・んん・・」
「エロい声で啼くな。ガキのクセして」
「・・そ・・んな・・こと言われても」

ようやく解放されたときには完全に息は上がっていて肩が激しく上下していた。
何時の間に仰向けにされたか打ち止めの記憶にない。覆いかぶさる一方通行を見上げ
不思議な気持ちがした。知らない人のような、いや知っているが知り得なかった人がいる。
ぼんやりと見上げていると舌打ちが聞え、我に返る。すると同時に引き起こされた。

「イカンイカン・・やっぱキスだけっつゥのはキツイ。俺からは当分自粛しとくわ」
「なっ・・んだかよく・・わからないうちに・・どうしてミサカひっくり返ってるの・・?!」
「ン?あァ〜・・わり・・予想を超えてた。良すぎてアクセルかかりそォになっちまってだな」
「あああああああなた!待ってろとかなんとか言ってたはずで・・っていうかミサカもう・・」
「ア?オイ、ダイジョウブか!?」
「・・もしかしてあなた・・・ミサカに欲情したの?!」
「・・ネットになンぞ繋ぐなよ?配信されたら敵わねェ」
「否定しないし!配信なんてできないよっこんなコト!」
「・・・ホントだろォなァ・・?」
「うううううう!でもなんだかこれってだまし討ちみたいだよってミサカはぶーたれてみたり」
「こっから先は行けねェ!まだ早いンだってのがこれでよーくわかっただろォが、クソガキ!」
「言い聞かせてるみたいだね、あなたがあなたに。」
「おっまえは・・知った風に言うなァオイ・・・」
「あのね、無理に大人ぶってるのってあなたもじゃないの!?ってミサカはピンときちゃった」
「生意気言うな」

打ち止めは一方通行の赤く染まった頬を背ける様を見て思う。かわらないのだと。
子供である自分がつまらなくて八つ当たりしたけれど彼だってまだ大人ではない。
そう感じられて嬉しかった。隔たりは自分がこしらえたものだったのかもしれない。
置いていかれそうで不安で切なくて。だけど愛しさは変わらずにあって日々更新されて。
引き止めたいとそればかり考えていたのだと打ち止めは理解した。ならば
彼が自分のことをもっともっと必要だと思ってくれるように頑張ってみようと勇気を出す。
気まずいのか顔を背けていた一方通行に打ち止めはいつもと同じように抱きついてみる。
少し驚いたようだが嫌がりもせず、一方通行は打ち止めの体を受け止めてくれた。

「一方通行、ミサカわかったよ!キスしたいってキモチ」
「はァ?懲りないヤツだな、襲われ願望でもあンのか?」
「違うの。キスにも色んなキモチがこもるんだよきっと」
「・・・フン・・じゃあおまえのはどんなンなンだ・・」

打ち止めはにっこりと微笑み、一方通行の唇に唇をそっと添えて軽く押し付けてみる。
すると唇は当然だが弾力を感じて二人の唇が同時にそれを味わう。背筋がぞくりとした。

「・・・どんなのだかわかった?」
「・・・わからン」
「嬉しいキモチ。」
「おまえの方が俺を置いてきそォだ」
「怖い?あなたもそうだったんだね」

今度はお互いがゆっくり距離を詰め、同じように目蓋を下ろした。
唇がまた重なったとき、打ち止めの手に一方通行の手が重なった。
ふふっと思わず笑った打ち止めに「余裕じゃねェか」と囁く一方通行。

「だってあんまりあなたのキモチが優しいから幸せになったの」
「・・安上がりだな」

一方通行が口惜しさで重なった手に指を絡ませてみると打ち止めは顔を赤くした。

「俺が他の誰かに、なンて心配馬鹿馬鹿しいって思い知ればいいぜ?おまえのがよっぽど」
「ミサカは浮気なんかしませんよー!ってあかんべしつつ断言してみせてあげたり」

”俺からは自粛・・・できるかどォか・・わっかンねェなァ・・・?!”

一方通行は不安を拭い去った穏やかな表情の打ち止めに満足すると心の中で呟いた。










・・・とにかく甘いのが書きたくて。結果・・あまいデスカ?
ワタシは貪欲なのか思ったよりあまくなかったと感じました。
なのでもっともーっといちゃいちゃさせていいかな!?って
通行止めに無限のごとき楽園を見た管理人でありました。