Coaching







自身の制服姿には見飽きてしまった。

いや、正確に言うと制服に飽きたのではない。
むしろ、こうして制服を着れたことは奇跡とすら感じていて、
いつまでも着ていたいとすら感じている。
飽きたのは自身の体型。もっと詳しく言うなら、成長しない
子供体型に心底がっかりしているというわけだ。
早く大人っぽくならないだろうか。
打ち止めは鏡の前で深い不快ため息をつくのだった。





「起きて、ねえねえ起きてよ一方通行!」
ベットの上、一方通行の上に乗る打ち止め。
肩を揺さぶり、早く起きてと急かしている。
やがて、ギロリと開いた赤い目が苛立ちを露わにした。
「おはようございまーす! 目覚めて早々さっそくなんだけど、
頼みたいことがあるの、ってミサカはミサカは機嫌の悪いあなたに
可愛らしく小首を傾げて見せたり!」
「俺はなァ、明け方に寝たンだよ。ここまで言やァ何が言いたいか、
お利口な打ち止めちゃンなら分かるよなァ?」
「でもミサカ、もうすぐ学校に行く時間だから急いでるんだけど」
「ヨミカワどもに言えよ」
「今この家にはミサカとあなたしかいない、って言ったら?」
「あン?」怪訝な顔で打ち止めを上からどかし、一方通行は部屋を出る。
机の上には朝食と、今日は遅くなるから夕飯は勝手に食べるようにと
書かれたメモがあった。
また飲みに行く気か。
一方通行はだいたいの状況を理解し、後ろで騒がしくする打ち止めの
頭上をパシパシとチョップしてから「なンだよ」やっと話しを聞く。
「もう、待ちくたびれたぞ、ってミサカはミサカはもう一度おはようと
挨拶してから本題に入ってみたり。あのね、髪を結んでほしいの」
「髪だ?」よくよく見ると、打ち止めの手元には水玉のボンボンが付いた
髪ゴムとクシが握られている。
「てめェで結べ」
「やってはみたけど、ツインテールって難しいんだもん。
だからあなたにお願いしてるんだけど、」
ずい、っと手を一方通行に伸ばす。
面倒なことになった。また“らしくない”ことをさせられる。
反吐が出るとまでは言わないが、打ち止めがこうしたい、ああしてほしいと
言ったらしつこいことを一方通行はよく知っている。





「ツインテールだよ? ってミサカはミサカは嬉しさを体で表現してみる!」
「分かったから暴れンな!」
ソファに並び、打ち止めの髪に触れる一方通行は苦戦していた。
バランスの良い髪型にするのは問題ではない。苦戦しているのは、
髪を引っ張り打ち止めが痛がらないかどうかだ。
「なンだってンだ。いつもは結ンでねェだろ」
「気分の問題というか、いつもと違うね、って言ってもらいたいんだ。
あのね、大人っぽくとまでは言わないけど、ミサカは早く成長したいの、
ってミサカはミサカは学校に行くのが楽しみだったり」
「…………、」
結びかけていた髪がぐしゃりと握りしめられ、ソファへ髪ゴムとクシが捨てられる。
「え、あれ? どうして止めちゃうの?」
「気乗りしねェ」
「早く成長して、そンでどォなンだよ」
くっだらねェ、一方通行がソファから立ち上がろうとしたとき、
打ち止めが慌てて振り返り一方通行の腕にしがみつく。
一方通行の顔を覗き込む瞳は、どこか必死で、握る手は力強くなっている。
「オマエ、なに焦ってやがンだよ」
「ミサカはただ、ミサカの体型があまりにも子供っぽくて、
あなたと釣り合わないと思うと悲しくなっちゃったから、
せめて髪型を変えて気分転換しようかな、って
ミサカはミサカは彼女らしくなりたいから、あなたが自慢できるような女に
なってみせるから、待っててほしいの」
「……勘違いすンな」
腕にはりつく手を振り解く。
不安になっていく打ち止めの頭上に再びチョップする一方通行。
「今日はもう休め」
「学校? どうして?」
「ンな心配いらねェってこと、実習で教えてやる」





学校を休むことになった打ち止めは、大人向けな口付けを実習中である。
ソファから一方通行の部屋へ連れ込まれると、触れるだけの口付けから
濃厚へと変わる。
「オイ、少しは慣れろ」
大袈裟に深呼吸する打ち止め。
頬は桃のような色合いになっている。
「ったく、こンなンじゃ愉しめもしねェ」
「途中からどうすれば良いのか分からないことするあなたが悪いと思うの、って
ミサカはミサカは逃げ腰になってみたり。それに、どうして急にキスするの?」
「面倒くせェ、けどまァそォだな……何されたか分からねェンだったら、
動作をゆっくりにして教えてやるよ」
制服のスカーフを解き、打ち止めの耳へと触れる指先。
「目は開けてろ」
ベットへ押し倒し、朝の仕返しを含め上に跨る。
まずは唇に触れ、長く長く触れ合い、自然と目が閉じかける打ち止めを
追い込むかのように唇をくすぐる舌先。赤い瞳が目を細めて笑う。
 先程と打って変わり、舌の動きがゆっくりしていてわざとらしい。
「……まだ慣れねェか。こりゃ宿題だな」
「一方通行、もしかしてミサカを落ち着かせようとしてくれてる? って
ミサカはミサカは、んん! あ、いきなり積極的にキスされると驚いちゃうんだけど!
 ってミサカはミサカはそれに制服がしわになっちゃうよ」
「素直なこと言ってやろォか」見下ろす目は怖いが、口角は上げている。
「オマエは今のままでいりゃ良い」
「でも、ミサカみたいな子供体型、」
「そォ何度も言わねェぞ。まァ、オマエが俺を喜ばせてェってンなら、
黙って学習してろクソガキ」
「ええっと、確かにミサカはあなたを喜ばせたいけれども、あなたはミサカに
何を求めてるのか見当がつかなかったり」
「……そォかよ、」
一方通行は内心、満足していた。
打ち止めが体型など気にする歳になったのは、成長しているのだ、
いつかはくると思っていた。そうではなく、一方通行の彼女だからとか、
成長するまで待っていてほしいだとか、一方通行はそんなことこれっぽっちも
考えたことはなかったが……嬉しかったのだ。
今まで愛を向けられることのなかった一方通行は、いつの間にか愛を知った一方通行は、
愛しい者から愛されている、ただそれが嬉しいのだ。
しかし残念なことに、一方通行はそれを感覚でしか分からず、
その気持ちを言葉にすることが出来ないため、伝え方がこういった行動に込めることしか
できないでいる。
それが男です、と言って終われれば、どんなに簡単だろうか。
「良いから、黙って受け取っとけ」
「分かった、ってミサカはミサカはあなたに身を委ねてみたり」
「……制服、しわになンなら脱ぐか」
「きゃわわわわ!」
愛するだけ愛したらこのまま寝てしまおう。
今日は夜まで二人っきりのようだし、時間はまだまだある。
大人向けな行為が下手な打ち止めへ、宿題をたんまりと出すことにして。
 とりあえず、いただきます。










私の「Jealousy」を参考に妄想してくださったとのことですv(感激)
ケーキさま!本当に我侭なお願いを叶えてくださってありがとうございます!