My Dears <4>


帰宅した打ち止めを出迎えたのは芳川一人だった。
黄泉川は買出し、番外は行く先を告げずに外出していた。

「一方通行はどうしたの?」
「お仕事なの。病院帰りに電話が掛かってきて。」

食事をして帰るとメールを送った後だったので芳川はそうと知らず、

「二人で買物とかしてるのかと思ってたわ。」と意外そうだった。
「う〜ん・・残念ながら、って、番外は例のヒトとデートなのかな?!」
「そうかもね。あまり話したがらないけど、感じの良い子みたいよ。」
「この前もね、仕事場でのこと聞いたら可愛いこと言ってたんだよ〜!」

『ソイツへたれでさァ・・けどヘタレなくせしてミサワを怖がらないんだよね。』

「あの子って照れ屋さんで可愛いわね、確かに。」
「ふふ〜v!!あっ・・メールだ!?」

打ち止めの携帯を鳴らしたのは一方通行だった。内容を見ると顔が曇った。

「今晩戻れないって・・ミサカはがっかりしてみたり・・」
「そう・・忙しいのね。それはそうと住むところはどうするの?」

まだ結婚すると決めたばかりでその後のことも式を挙げるかどうかも未定だ。
派手なことは一方通行が嫌がりそうなので打ち止めは顔を顰めつつ打ち明ける。

「ヨシカワ・・式挙げたいって言ったら、あのヒト嫌な顔するかなぁ!?」
「あら、何遠慮してるの?ちゃんとしなさい、一生に一度なんですもの。」
「・・・でも・・忙しいって言われそうな気がしていたり。」
「そこは押していいのよ。愛穂だって黙っちゃいないわ。大丈夫よ、打ち止め。」
「えへへ・・ありがとう。ミサカね、憧れてたんだ『バージンロード』!」
「・・・ちょっと待ってちょうだい。それって父親の役が必要よね・・?」
「・・・そうだね。」

はたと気付いた打ち止めは複雑な面持ちの芳川と顔を見合わせる。その役は一体・・
打ち止めには両親は存在しない。クローン体であるからだ。オリジナルの御坂美琴は
女性であるし、親代わりの黄泉川も芳川も女性。いけないということもなかろうが、
やはり花嫁をエスコートするのは男性が相応しいだろう。通常ならば父か兄である。
強いて言うならそれは一方通行が一番それに近い立場であるが、新郎では不可能だ。

「お医者さんは忙しくて無理だよね・・?」
「・・そうねぇ・・誰が良いかしら。愛穂とも相談してみましょうね。」

他人では役目に相応しいとは更に言えない。こういったことは意外に大変なのだ。
自分を含め、結婚に縁の薄い者が集まっていたことに気付いて芳川は目を伏せた。
相談するのならばやはり経験者であるからだ。その点保護者の二人は役立たず過ぎた。
買い出しから戻った黄泉川は二人のどんよりと曇った様子に驚いたが、そういう事実を
突きつけられると、がっくりと肩を落としたのは言うまでもなかった。


二日後、打ち止めは一方通行不在の彼の寝起きしているマンションの一室にいた。
彼は必要最低限しか物を周囲に置かないため、いつも殺風景で片付いた部屋で生活している。
寝起きしかしてない、というのは彼の談だ。生活臭のしない部屋は掃除のし甲斐がなかった。
今回は掃除が目的で来たわけではないので簡略に済ませ、打ち止めは言われたことをする。
あれから2日経っているが、彼はこの家に帰って来ていない。なので散らかるはずもない。
言われるまま彼の自宅のPCを起動させ、指定のデータを転送する。簡単なお使いだ。
初めて開けたその道具も、何もかも初期設定のままで本当に使っているのか疑うほどだった。

”知ってたけどほんとに面倒くさがりやさんだなぁ・・結婚式・・やっぱり不安かも・・”

二人は一緒に暮らしていた時期がある。しかし生活はほとんど被保護者としてのそれだ。
中学は寮生活だった。なので家事は手伝い程度にしかしてこなかった。というよりも、
やろうとすると”危ない”と手出ししてくる過保護者がいけなかった。一方通行のことだ。 

”ミサカも色々お勉強しなきゃ。炊飯器料理を何故か彼って嫌がるし・・なんでだろう?”

データが予想以上に重いらしく、転送に時間が掛かる。打ち止めは退屈して席を立つ。
そこは一方通行の寝室でもあるので、ぽんと傍らのベッドへと飛び乗った。
う〜んと伸びをして横になる。大きいが味気ないベッドでシーツは白。ベッドも簡素な作り。

”そういえば柄ってないなぁ、この部屋。彼って妙な柄好きなのかと思ったら・・・”

一方通行はブランドに拘りがあるらしくいつも服には異論を挟ませず好きなものを着ている。
しかし打ち止めはそれらを悪いとは思わないが、あまり好きではなかったりする。
慣れてしまってそれはそれでいいと許容している。別に打ち止めの好みに口も出したりしない。
打ち止めはどちらかというと子供っぽい部類が好きなのだ。キャラクターも大好物だったりする。

「でも・・ダメだよねぇ・・一緒に、二人で暮すんだったら・・ゲコ太たちどうしよう?」

打ち止めは目を閉じて想像してみる。二人が一緒に生活を始めたとすると、どんなものかと。
しかし細かいことは噛み合わない二人だ。口論なんて日常茶飯事。結構面倒かもしれない。
一方通行が今更そんなことで自分をイヤになったりはしないだろうとは思うのだが不安だった。

「はぁ・・大人になるってむつかしい・・」

独り事でぼやく打ち止め。会えないときはいつだって会いたいのに会えばごちゃごちゃ。
結婚してもそれは変わりそうにない。一体何が変わるのだろうか、とそこまでくると・・
打ち止めの想像がストップする。今までのことばかりで具体的に思い浮かばないのだ。
周囲からすればいちゃいちゃしているように見えることでも二人にとっては当たり前のこと。
一緒に眠ったり引っ付いたり、それらは打ち止めからではあったがスキンシップも多かった。

”そういえばあまりあのヒトからって・・あ!”

突然彼とのキスを思い出し、一人顔を赤らめる。何故か慌ててベッドから飛び起きた。
両手を頬に当てると当然のように熱い。打ち止めはうっかり忘れていたことを思い出す。

”そうだった!キス・・だけじゃないよね?!どっどうしよって、ミサカはミサカは・・!”

次に彼とあんな風に恋人らしい時を過ごすとなると、その先は?と考えてしまう。
幸せな夢心地、とはいかない。何故なら彼のことが好きだと意識すればするほどに
自分の操る電気が体内で暴れだす。あちこちから電気を呼び寄せてしまいそうになる。
あのヒトが感電とかしないようにしないど・・・うう、困ったな。平気になれるかな!?
怖ろしい予見に一方通行は気付いているかどうかはともかく、これから先重要な課題である。
ドキドキしただけでもぴりっと通電するのがわかる。あのファーストキスの時のように。

これをクリアしないと結婚生活など有り得ないのではないか、打ち止めは益々不安になった。

今後の事に頭を悩ませてはいても週末は近付く。一方通行も仕事に区切りを着けたらしい。
次の休みは二人で住むところを見にく予定だ。物件は一方通行が探して目星を付けたものだ。
会える嬉しさと不安。両方を抱えながら迎えた週末、打ち止めは彼のマンションを訪れた。
しかしインターフォンは機能しているようだが、反応が無い。打ち止めはとある予想を抱く。

”絶対寝てる。呼び出し音くらいであのヒト起きるはずないもの。しょうがないなぁ・・”

溜息を吐く打ち止めだが、直ぐに立ち直り右手をドアへとかざす。こんなときはこれである。
電気を操作してドアを開錠するのは得意技の一つだ。犯罪に使用することは勿論無いが。
パリパリと小さな音を立て電磁波がスパークする。それが納まるとドアは簡単に開いた。

「おじゃましまーす!ってミサカは礼儀正しくご挨拶。一方通行!朝だよーっ!!」

元気良く言ってみるが返事はない。彼の寝起きの悪さを良く知っているので驚きはしない。

「やれやれ、世話が焼けるんだから!ってミサカってば奥さんみたいな台詞を呟いてみたり。」

躊躇することなく寝室のドアを開ける。すると案の定彼はベッドで丸まっていた。
声を掛けゆすってみても反応はない。シーツを体に巻きつけて顔も見えない有様だ。
くすくすと打ち止めは苦笑を漏らす。昔から彼の眠気は鬼門なのだ。しょっぱなから泣かされた。
これからも困ることになりそうなのに打ち止めは笑顔だった。それが嬉しくて堪らないのだ。

「お寝坊さん、起きて。アナタのミサカが来たんだよ!なーんて大胆なこと言ってみたり〜!」

打ち止めは一人で照れ笑いしながら一方通行を揺さぶる。すると白いシーツから腕が伸びた。
寝ぼけているのかその腕はフラフラと彷徨った後、打ち止めに当たる。そして無造作に掴んだ。

「きゃあっ!!いっ・・」

掴まれたのは打ち止めの片腕だった。その腕がグンと強く引かれてあっという間に
ベッドの上だ。抱き込まれた格好の打ち止めは眼の前の熟睡している男の前で

「まだ寝てるしっ!?何度目かな、これ・・。寝てる場合じゃないでしょっ!起きてーっ!!」

そうなのだ。何度か前科持ちの一方通行は全く動じないまま安らかに寝息を立てている。
細いわりに力強い腕はびくともしない。打ち止めは抵抗を諦めて一緒に眠るのが定番だ。
しかしのんびりしてはいられない。二人にはしなければならないことが山積みなのだ。

「うーっ・・起きてよ〜!どうしよ・・電撃・・はマズイよね?やっぱり・・っ!!?」

一方通行が唐突に目を開けたので打ち止めはびっくりした。そして悲鳴が上がる。

「きゃああああああああっ!!なにそれ!どうしてアナタ裸なのおおおおっ!?」
「・・・・・・?・・・打ち止め・・?」

打ち止めは叫ぶと同時に彼を思い切り突き飛ばした。スローモーションのように彼は傾いで、
シーツと一緒に床へと落ちて行った。本人は未だに事情を把握してはいない顔をしていた。
出逢った時は打ち止めは毛布一枚で、一方通行に剥がされ全裸を晒してしまったのだが、
今回はその逆で、シーツに包まって眠っていた一方通行は何故か服を着ていなかったのである。
床に落ちた衝撃で彼はようやく覚醒したらしく、流石に狼狽する様子を見せた。

「・・風呂上がってそのまま・・ねむくて・・いや、スマン。服・・どこだァ?!」
「知らないっ!」

打ち止めは真っ赤になった顔を両手で覆い、一方通行から視線を反らしたまま部屋を出て行った。
取り残された一方通行は寝起きの鈍い頭を一振りすると、着替えを求めてのそりと立ち上がった。

「やっべェ・・ンなつもりはなかったっつってもダメですかァ・・?」







4話です。なんだか妙な展開になってきましたね。
結婚式までは書く予定なのでお付き合い願いますv