My Dear <4> 


少々刺激的なファーストキスの後、ふっと真顔に戻った一方通行に
まだ涙で濡れた睫を瞬かせながらも打ち止めは釣られて口元を窄めた。

「あのなァ・・つってもそれほど期待すンなよ?」

口調は変わりないが、彼の表情から察するに真剣な想いが伝わる。
心配症というより打ち止め限定での親ばか振りに定評のある彼だ。
今回のこの提案に関してもありとあらゆる不安要素を考慮した末の
相当の覚悟を持って臨んだものだったのだろうと打ち止めは推察する。

「なんとかなるよ、アナタがいればミサカは無敵なんだから!」
「オマエのが余程男らしいな。いや覚悟はしてる。ただ・・」
「なぁに?」
「結婚はゴールじゃねェ、寧ろスタートだ。苦労は大前提。現実は夢とは・・」
「ハイ、ストーップ!わかってる。そんなこと今は言わないでいいの!」
「オマエは俺に甘過ぎるからな・・俺のことばっかとやかく言えねェっつの。」
「甘やかしたいんだもの。ね、それよりちゃんとわかってる?」
「?何を。」
「ミサカの希はたった一つ。アナタの傍に在ること。」
「そりゃァ・・」
「苦しいことはぜーんぶ半分こ。でもって嬉しいことは2倍にするんだよ!」
「・・・オマエは言い出したら聞かないからな・・・」
「そういうこと。ミサカはアナタがいればあとはわりとどうでもいいの。」
「オマエがそうだから余計に現実的に成らざるを得ないンだよ、俺は。」
「あ・・なるほど。ごめん・・けど足りない部分は誰にでもあるから〜・・」
「・・今更だな。まァ・・宜しく頼む。」
「嬉しい・・やっとアナタが夢と現実を一まとめにしてくれたって感じだよ。」
「考えたってどうしたってしょうがねェこともある。諦めた、とも言うな。」
「ミサカが思うに理想が高いんじゃないかな、アナタって。」
「俺はこういったコトに理想とか無ェな。オマエが何にしても最上だし。」
「っ・・・ぴっ」
「ぴ?」
「っゃあああああっ!もうっ!!アナタっていつも唐突に恥ずかしいことをさらっと!」
「そォか?」
「かっ感電しそう・・自分の体内が危険。ああどうすれば・・?!」
「長い付き合いだが、ときたまワカランな、オマエは。」
「無視無視。アナタのマネ。あっそうだ。まずは結婚の報告をしたいな、アナタと。」
「・・・・そォだな。ってか芳川がその辺りに潜んでそうな気もすンぞ。」
「?ヨシカワは今日お仕事だよ。ヨミカワは早めに帰るって連絡を受けてるけど。」
「この薔薇アイツの研究所からの貰いモンだ。そこでこれの報告義務を課された。」
「そうなの。でも報告ならするのにね、ミサカたちの親代わりの人達なんだから。」
「それと・・妹達はどうする?ネットは今切ってンだろ?」
「配信しないと、離れてる子達も多いし。なるべく簡潔にするからそんな睨まないで!」
「・・・番外は?」
「今日まさかこんなことになると思わなかったけど、アナタと一生いたいってことは承認済みだよ。」
「・・そォか・・実は俺は2日前に既に承諾もらった。でもって強烈なパンチを一発食らってンだ。」
「えっ!?」

番外固体は黄泉川の手伝いの仕事を始めた頃家を出て数年になる。
あれほど悪意に囚われていた彼女だが、今は個性の一つ程度に性質を変えた。
彼女なりの努力だが、その援助は打ち止めが一番の貢献者だった。
一方通行には他人事ではない。彼も打ち止めに生まれ変わる機会を与えられた者だ。
番外もそれに倣うように自分自身と向き合い、癒されもして結果・・・

「アイツがこの世で一番・・・オマエのことを俺よりも愛してると公言してるしな。」
「ミサカも大好きだよ。アナタのことは一生監視するって。結婚してもうかうかできないね。」
「あァ・・オマエの親父が3人いるみてェだぜ。」
「それは失礼でしょ!皆妙齢で美しい女性なんだから。」 
「オマエ・・・俺に対するアイツラの厳しさを!・・いや知らンでいいが・・」
「そういえば・・ミサカのファーストキスもね、番外が護ったって言ってた。」
「・・それ男では、だろ。アイツがオマエのそれ、奪ったと言ってやがったぞ!?」
「あ、うん・・でもノーカウントでいいって・・言ってたよ?」
「あれのどこが丸くなったンだ!俺には今でも悪意しか感じないンですけどォ!?」
「まぁまぁ・・可愛い妹を許してあげてよ。泣いてたんだよ・・・」
「それは・・オマエを奪われる気持ちなら、俺にはよォくわかる。」

神妙な面持ちになる一方通行に柔らかな微笑を浮かべ、打ち止めはまた新たな提案をした。

「一方通行。ぴりぴりしないキス、したい。」
「は?・・オマエも大概唐突だな。」

打ち止めは一方通行から一歩下がって距離を取ると、クンと首を上向きにして目を閉じる。
ここを訪れたときのように後ろ手に花を持ち、違うのは上気して染まっている頬の辺りだ。
気恥ずかしさが込み上がるが、可愛いおねだりに応えない理由も見当たらず、一方通行も
なんとはなしに打ち止めのように花を隠して身を屈める。多分、そうしたいのだと察して。

ちょこんと軽い触れ合い。キスと呼ぶにはささやか過ぎる接触だが打ち止めは目を開けると
にっこりと満足そうに微笑んだ。そしてさっきは先を越されてできなかったことを行動に移す。

「ありがとう、一方通行。コレ、もらってください。」

両手に持ち替えた花は桃色のチューリップだ。今日彼女が見つけた可愛らしい使者。

「花言葉は知らないの。ただアナタにあげたかったんだ。仲直りの記し!」
「俺も渡し損ねたが・・コレを・・受け取ってくれ。」

打ち止めの前に差し出されるのは先ほどの薔薇。互いにそれらを交換する。
他愛のない、子供がするようなやり取り。けれどそれも大切なセレモニーだ。
こうやって小さなことから一つ一つ、二人で確かめ合っていきたい。二人はそう思う。
これまでもたくさんあった思い出。ささやかなものや感動的なことも何もかもが
二人の生きてきた証だ。花に視線を落とし、打ち止めはこれまでを振り返っていた。
そんな心の中までも見通しているような眼差しが彼女へと一方通行から注がれている。

「・・今日は記念日になったね。泣いちゃったけど・・幸せだからいいや。」
「今晩あの家に帰ったら・・帰してはもらえないだろォなァ・・」
「覚悟したんでしょ?泊まっていってよ。ミサカも帰したくないし。」
「住むとこが問題だな。あの家に近い方がいいだろ?」
「アナタは?どこでもいいよ、ミサカは。」
「良くない。出来る限り不安要素を排除する。」
「また始まった。住むトコなくなっちゃうよ?」
「出来限り、と言っただろ。もっと希望言えよ、条件とか。」
「探してくれるんだね。う〜ん・・・そうだなぁ、猫飼ってもいいトコ!」
「猫だァ!?アホか!新婚生活いきなりソッチに気ィ取られるなンざゴメンだぞ!?」
「そんなにすぐ飼いたいとは言ってないし・・ミサカの夢叶えてくれるんでしょ!?」
「ンなことネットに流すなよ、持ち込んでくる奴が一人じゃ済まねェに違いない・・」
「そんなに青ざめることかな・・・アナタとは意見合わないよね、昔から。」
「そのことを離婚理由に挙げンなよ!ったく摺り合せて妥協すンのはいつも俺だ。」
「ちょっと、聞き捨てならない。ミサカだってアナタの勝手に何度泣いたかしれないのに〜!」

二人はまた普段と変わらない口論を始める。ビルの外の空は宵闇へと変わっている。
その頃保護者たちは彼らからの報告に首を長くし、妹達は既にネット上で噂話に大賑わい。
番外は自棄酒に連れ出した彼女のことが気になる同僚男性相手に管を巻く気満々である。
宵闇に光る星が瞬き出せば、ようやく一方通行と打ち止めも慌て出す。

「ああっ!こんな時間だよ!?早く帰らないと皆心配してる!」
「店っ!?・・・やばかった。まだ開いてるな。ちょっと寄り道するぞ。」
「寄り道?どこへ行くの?」
「・・いいから。すぐ近くだ。」”サイズ合ってなかったら芳川ぶっ飛ばす!”
「??・・いいけど・・花を早く花瓶に移したいってミサカは・・・」
「わかった。急ぐぞ!」
「えっ・・きゃあっ!」

いきなり抱き上げられ悲鳴が上がるが、構わずにそのまま一方通行は走り出す。
昔は杖をつかねば歩けなかったのだから随分回復したものだ。・・にしても無茶である。
つまるところ彼は能力を使用した。閉店に間に合わせるためというのが彼の言訳だ。
注文の品は指輪で、駆けつけた二人に店員が呆れたり打ち止めが恥ずかしがったり。
しかし必死の一方通行の迫力で皆黙る。店仕舞い後に二人で帰る時、空には月が出ていた。

「見て、月の明かりでキラキラ!?ステキ・・・!」
「てめェの方がよっぽど・・・だ。浮かれてねェでちゃんと歩け。フラフラすンな。」
「無理だよ。だからしっかり手を繋いでてね?・・うふふ〜vv」

まるで酔ったような足取りの打ち止めを支えるように一方通行は歩く。
待ちくたびれた保護者たちに電話をしたりと彼だけが忙しい様子だった。

「こっこれしきでこれほど疲れるとは・・結婚とかするモンじゃねェ。」
「むっ!?まだしてないのに!ってミサカはアナタに猛抗議の構えを見せてみる。」
「これ一回っきりで充分だってンだ。それとこっち見ンな、しばらくは・・」
「どうしてよ?!ミサカのこと・・そういえば・・さっきから見てない!!」
「・・アイツらンとこへ帰したくなくなるだろ・・ンな顔されるとよォ・・・」
「それって・・・・///////」

そうして二人共に月明かりの下、赤く染まる。








最後に色々と欲張ってぶち込んでみました。
後日談とか、結婚式話もしてみたいですv