My Dear <3> 


打ち止めの頬はいつもの薄紅よりも色を鮮やかにしていた。
条件とやらに身構えた一方通行だが、その色に心配になってくる。
しかし目を閉じてすーっと大きく息を吸い込むと、瞳をぱっと開いた。

「唇に、キスして。それで許してあげる。」

いつも以上にピンと立っている打ち止めのアホ毛が少し揺れた。
言っておいて動揺している。一方通行を睨んでいるつもりだが
また頬の色は濃さを増していて、目からは涙すら滲み出そうだ。

「・・そンなンでいいのか?」
「そっ・・そんなってそんな・・アナタには大したことじゃないかもだけどっ!」

とうとう打ち止めの顔は赤くない部分が無くなり、湯気の出そうな勢いだ。
痛々しくなって一方通行は宥めたくなる。しかしそんな心情は打ち止めに通じない。

「憎たらしい!アナタと違ってミサカは大事に取っておいたんだからねっ!?」

この歳になってファーストキスも未だとの告白は箱入りも良い所な事実だ。
しかし必要以上に過保護に扱ってきた一方通行には責任を感じる処でもある。
よくも今まで無事でいてくれたものだと、親のような感慨を抱きつつ一方通行は呟く。

「そォか・・そんなに大事に取っておいて、相手は俺でいいンだな?」
「あっ当たり前というか!ミサカからしたのはノーカウントだよ?!」
「あァ、あちこちされたな、そういえば。」
「イヤぁ!何思い出してるのっ!クッ唇にはしてないってミサカはミサカは・・・」
「昔の口調が戻ってるぞ。大丈夫か?そンな状態でオマエ・・」
「ぐ・・失礼。ミサカはもう子供じゃないってアピールするはずだったのに失敗;」
「背伸びするな。別にイイだろ?こォいうことに疎いのは悪いこッちャねェ。」
「・・アナタが妙に知った風なのがいけないと思うのってミサカは責任を押し付けてみたり。」
「で、仲直りしていいなら・・するぞ?」
「えっ!?ええと、いきなり!というか『する』だなんてそんな直接的表現はどうなのって;」

打ち止めの顔に影が落ちた。一方通行が屈んで顔を近づけたためだ。
背が随分高くなった彼と比べると、成長しても打ち止めとの差はかなりのもの。
なので申し訳ないほど腰の痛そうな体勢だが、一方通行自身冷静な顔のままで。
ドキリと胸が鳴ったのを打ち止めは確認した。目を閉じることも忘れ固まっている。
すると、打ち止めの要求した部位をスルーし、彼の唇は額へとやんわり押し付けられた。
目を丸くして数秒後、打ち止めはハッと我に返ると「そこじゃないでしょ!?」と叫ぶ。

「そこは後だ。その前に仲直りついでに俺からも提案させてくれ。」
「ついでって・・大事な話なの!?ってなんかお預けされて納得いかない・・」

眉をハチの字にして文句が出たが、打ち止めのそれに一方通行は取り合わない。

「オマエが背中に隠してるのとおそらく似たよォなモンを俺は持ってるンだが・・」
「えっ!アナタも?それっておんなじこと考えたのかなってミサカは嬉しくなってみたり。」
「オマエのとはちょっと違う。俺のは・・」
「?・・なんなの!?ってミサカは疑問をぶつけつつ首を傾げてみる。」

「そういう花言葉があるらしいな。」
「花言葉・・ネットワークで検索・・」
「ストップ!それ禁止。寧ろ切っとけ。」
「そうなの?アナタがそんな可愛らしいことを言い出すなんて予想を超え・・あっ!」
「どうした!?」
「一つだけ知ってる。って思い出した知識をおぼろげながら反芻してみるけど・・・」
「実は俺も一つしか知らねェ。それもオマエに教わったンだ。随分昔に一度だけな。」
「!?・・・・あの、それってもしかして・・」 

その頃、打ち止めは出逢った頃の10歳くらいの姿をしていた。
色んな知識を吸収しては好奇心旺盛な子供らしい日々を謳歌する打ち止め。
昼寝をしていて寝ぼけた表情の一方通行のところへ喜び勇んでやってきた。
寝起きを襲撃されるのも毎度のことながら、打ち止めの弾丸トークも変わりなく。

「あのね、一方通行!大人になってプロポーズするときはね、バラ!バラの花だよ。」
「はぁあ・・?!・・薔薇がどォしたって・・・?」
「ヨミカワとヨシカワと見てたテレビで知ったの。だからお願いだよ、一方通行!?」
「・・・・落ち着け。プロポーズ・・ってなぁ何の提案を指してンだァ?」
「ううう、違うよ!結婚、結婚を申し込むときのこと!バラのね、できれば蕾がいい!」
「それを・・・どォするって・・ンだァア?」

打ち止めがそのとき彼に訴えたのはその薔薇の蕾を一輪捧げて欲しいという願いだった。
その際に花言葉のことも出たがそこは諸説あるので置く。脳裏に残っていたのは願いのみ。
調べてみると愛を請う意味が薔薇には在る。元は旧い映画が発祥との解説も見受けられた。
それはともかく、それは打ち止めの望むスタイルを思い出し、それに従ってみたということ。

かくして現在、ぼんやりと焦点の合わない瞳で、打ち止めは眼の前にある薔薇の蕾を見ている。
一方通行の方はといえばさっきから嫌な汗を背中に感じていたのだが、それは放置していた。
それよりも黙って放心してしまった打ち止めに、どう対処すべきかで頭の中は一杯だったのだ。

「お、おィ・・見えてるか?・・まだ何も言ってねェが・・言っていいのか!?」
「・・・・は・ひ・・いい・・よ〜・・・?」
「何空気抜けたみてェになってンだよ。アレだ、提案と言うのはだなァ・・」と、一度息を吐く。


「結婚するか?・・オマエのこと・・・死ぬまで何もかも、ゼンブ俺にくれ。」

「・・・黙ってないでなンとか言え!言えないなら頷け!ってか断る気ならさっさと・・」

打ち止めの停止していた時が戻った。まずは両足がぴくりと動いた。次に瞳の焦点が合う。
そして隠し持っていた花のことも忘れ、両腕を広げると彼に飛び上がるようにして縋りつく。
首に巻きつくように茶色く長い髪を揺らして。一方通行は持っていた薔薇を落としかけた。
なんとか落とさず抱きとめると、片手で打ち止めの背中に添えた。優しく撫でるように。
ハラハラと花びらが零れるように滑り落ちて肩を濡らすのは涙。美しい光の粒だった。
言葉を紡ぐのが困難な様子の彼女の口元から、彼になら聞えるであろう微かな声が響く。

「結婚する。・・アナタを・・死んでも離さない。ミサカもゼンブ、もらうんだから!」
「やっぱモノ好きだったな、オマエは。」
「う・浮気ダメだよ・・ゼッタイ。お見合いなんて・・もうしたら許さないぞって・・」
「ンなことできやしねェし。バカじゃねェの?俺はオマエしか見てないのに気付いてなかったのか?」
「だって・・だったらいいなって・・思ってた・・けど・・」
「まァいい・・それより顔こっち向けろ。でもって目ェ・・閉じろ。」

二人が初めて繋がった箇所で、ぴりりと電気が通ったような刺激が走った。これは・・
打ち止めの涙と体内の電磁波が起こした現象だった。思わず離れた二人は目を見合わせ、

「・・・いたぁい・・!」「・・痛ェな、オィ!」

そして微笑む。







今回は背景替えました☆
実はまだ続きます。^^;