Kiss Labylinth  





「ぁっ・・はっ・・はぁっ・・・」

あまりに切羽詰った息遣いに眼の前の人は苦い顔をした。
申し訳なく思うけれど、どうしてもうまく息が継げない。
それを責めるわけではないし、寧ろ痛いと語る眉間の皺。
それが余計に申し訳ない気分にさせるとは気付いてない。

覚えたてじゃない。もう数え切れないほどしている。
なのに情けないことに繰り返されるこの気まずい間隔。
多分、いや確実にこのことが壁になっているんだと思う。
これ以上は進めないと勝手に判断が下されてしまうのだ。
もどかしくて涙が頬を伝うとそれもまた逆効果でしかなく。

罪なんてこれ以上アナタに感じさせたくないのに。
生きている。脈打っている。感じているんだから。
必死に腕を伸ばしてその悲しげで切ない頬に触れようとする。
触れた途端に掴まれてしまって、想いは手の熱さに溶ける。


「もっと・・ってミサカはミサカはお願いしてみる。」
「無理してンじゃねェ・・」

ああ、この迷宮を抜け出すにはどうすればいいの?
たすけて、なんて言えない。アナタをたすけたいのに。
誰にも助けてもらえるはずがないと知っていながら
闇雲に脚を動かし、徒に体力を使い、もつれそうになる足元。
アナタはこんなに近くにいるのに どうして届かないの。
息が止まってもいいから、もっと烈しく求めて欲しいの。
醜い欲に眩暈がする。アナタのように綺麗でいられない。


体を引き裂いて、血を逆流させて、ミサカは何度も息絶えた。
あの苦しさ、あの喪失感、それでもアナタとミサカはあのとき近かった。
ミサカの命をもぎ取る手が懐かしいだなんて言ったら、アナタはもう
許してくれないかもしれない。怖くてそんなこと絶対に言えない。

好きだと口に出すのは呆気ないほど簡単なのに、伝えるのは困難。
知ってるの。大切にされていること。だけど苦しい・・だから、苦しい。

引き留めたい。繋がりたい。ミサカはとても欲張りでアナタの全部が欲しい。
優しい手で撫でるアナタに縋るように顔を埋めるのは顔を見られたくないから。
離れていかないでと叫ぶ心を見透かされたらお終いじゃないかと気が滅入る。


「・・どォすりゃわかンだ?オマエはァ。おい、泣いてンじゃねェ、顔上げろ。」
「・・ひ・ひたゃぁい・・!(痛ぁい)」

一方通行が腕の中のミサカの頬を引っ張った。少し怒った風に。
間抜けた声とみっともなくなっているであろう顔に眉間が情けなくなる。 
益々変な表情になっているかもしれないのに、くすりともせずにアナタは

「言え、はっきりと。俺がこういうことに鈍いなンざ・・知ってンだろうが!」
「ひ(言)ってるもん!ってミヒャカはミヒャカは・・はなひてよぅ!」

ぱっと離された頬はジンと痛んだ。けれどイヤな痛みじゃない。
怖い顔を作っているけど、少しも怖くないのと似ているかもしれない。

「言ってるよっ!止めないでって。もっと・・って。ミサカはミサカは・・」
「だァからァ・・呼吸くれェちゃんとできねェと・・って、顔を伏せンな!」
「そんなこと言われてもミサカはミサカはこれでも努力してるんだよっ?!」
「死にてェのか?!って思うぞ。息を止めてることにまさか気付いてねェのか?」
「え?・・止めて?・・・ミサカはミサかは・・故意じゃないと思うんだけど・・」
「キスくれェでこれだ。いっそパスして先にって思ってもオマエからしろと要求するしだ!」
「だってキスしたいのっ!ってミサカは下手なことは棚に挙げて正直に暴露してみる。」
「はァ・・俺もその・・イヤならしねェけどよ・・;」
「どうすれば上手になれる?ってミサカはミサカは切実にどうにかしたいんだと伝えてみるよ。」
「そンな知識は持ってねェ、ってかそこは息すりゃアいいだけ・・なンか他のこと考えてンのか?」
「・・・・アナタのことで色々といっぱいいっぱいになるからかなあっ?って原因を探ってみる。」
「・・・そりゃァ・・お互い様っつうか・・いっ・いや、・・ンなことよりだなァ・・」

焦った表情の一方通行に、打ち止めはすっと真顔になって視線を投げる。
突然どうしたのかと表情で返事され、打ち止めは考え考えゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「ミサカはミサカはアナタに何をされても死なない!って言ってみる。」

呟きは独り事のようであり、自分に言い聞かせるような宣言。
一方通行は咀嚼しているのか黙ったまま打ち止めの言葉の続きを待っているようだ。

「欲張りでいやらしいミサカは・・それを知られたくなくて自分を押し殺そうとしていたかも・・」
「・・・なンか、俺のこと言ってンじゃねェのか?って台詞だが。」
「絶対死なない。それに嫌いにならない。そう信じても・・いい?」
「死なせねェ。ってかオマエそれじゃア死ぬ気だったみてェだぞ。」
「怖いんだもの。もしアナタを失ったらって。そうなるのが死ぬより怖いの。」

「バッカじゃねェの・・」

その手を打ち止めの頭に乗せてくしゃりと撫で、もう片方の手が顎を持ち上げる。

「意外に・・似たようなこと考えてンだな。」
「例え妹達でも番外固体でも、オリジナルでも。ううん、他の誰にも渡せないって思ってる・・」

一方通行の顎を持ち上げた手に全く気付かない風に打ち止めは興奮気味に頬を紅潮させて言う。

「嫌わないでってミサカは情けないけどぶっちゃけるよ。アナタに知られるのが怖い臆病者な・」

次から次へと飛び出してくる言葉にいたたまれなくなった一方通行が無理矢理口を塞いだ。

「もォごちゃごちゃ考えンな!いいな!?・・うっせェンだよ。アホガキが!」
「怒ってるのに顔が赤いってどういうことなの?ってミサカは素朴に疑問を持ったので尋ねていい?」
「知るか!」”俺がヘタだっつう結論に至らねェのはありがてェけどよォ・・”

「なら・・何も考えられないようにしてくれる?・・良い考えかもってミサカは自画自賛!」
「よォ〜くわかった!わかりましたァ。だから泣くなよ、泣いてもしらねェからな。」
「だから、どうしてそこで拗ねたような顔するの?ってミサカはミサカは・・」


ああキス一つでもこんなに噛み合わない。気持ち良いことと苦しいことがまぜこぜ。
だけどとことん迷ってもいいんじゃないかって思えてきたのはアナタの優しさのせいかも。
どんなにぐるぐると迷宮を回り回っても、アナタにたどり着ければそれでいいんだから。
もしかしたらミサカは溺れているんだ、アナタに。アナタとのキスに。
そうだなんて・・・言ってはくれないかなぁ・・?









一方サンが上手いかヘタかという問題は・・どっちでも有りデスけどねv^^