Jealousy 


ほんの数分前まで、二人共々幸せに満ちていたのは事実だ。
しかし今、一方通行と打ち止めの間には暗雲が立ち込めている。
一方通行の眉間には不機嫌を示す表情がしっかりと張り付き、
打ち止めには込み上げてきた水分で視界を曇らせている双眸。

「そんなこと疑うかな!?ってミサカは悲しんでみたり。」
「疑ったンじゃねェ!可能性からすっと確実だってンだ。」
「酷いよ、せっかく急いであなたのところへ帰ったのに。」
「俺だってお前がそうして見せるまでは平和だったンだ。」 

打ち止めにとって酷い仕打ちと思うのも仕方のないことだ。
今朝、一方通行が寝ていたために見せられなかった新しい制服。
落胆して登校するも、早い帰宅を告げるメールを受け取るや否や
勢い込んで下校し、当に一目散で彼の待つ自宅へと足を急がせた。
果たしていつもの居間ではソファで寝転がるいつもの一方通行。
嬉しくて満面の笑顔を湛えた打ち止めはおかえりなさいと叫んだ。

「・・タダイマ・・ってお前台詞が逆だろォよ。」 
「合ってるよ。あなたに『おかえりなさい』なの。でもって『ただいま』。」
「はァ、そうですか。・・オカエリ。」
「うんっ!只今帰りましたっ!早速ミサカは今朝の無念を晴らそうと思う。」
「無念だァ?一体ナニ・・」

一方通行が怪訝な顔を浮かべるのをスルーして打ち止めは一呼吸すると
スケーターのようにくるりと優美に一回転してにこりと微笑みを添えた。
そして少し紅潮した頬をして「どうかな?」と両手を広げて見せるのだ。 
新しい制服をどう思うかと尋ねているのだと誰にでもわかる場面である。
期待でわくわくした表情は可愛いと思うのは一方通行とて通常の反応だ。
ところが歓喜したかった打ち止めはその期待を見事ぶち壊されることに。
というのも、誉めてあげるべきところを彼は省略してしまい、尚且つ、

「・・・オイてめェ・・今日一日何回そォやってスカート捲り上げた?」
「は?・・えっと・・あなたの質問の意味がよく・・え、怒ってるの?」

びっくりしたせいか理解の追いつかない打ち止めを見据える目は険しい。
明らかに咎めている。心当たりの全く無い打ち止めは対処に迷いを生じた。

「先ず言いたいのは、ミサカはスカートを捲り上げたりしてないよ。」
「ぐるんと一回転しただろォ!そンなことしたら脚とか丸見えじゃねェかよ!」
「え、見えた?!・・勢い付けすぎたかな・・いやいやそうじゃなくって、」
「無自覚でも捲くったのと同じだ。今日何人にその様を晒したかと訊いてる。」
「・・・さっきは勢い強かったかも。だけど・・2回しか回ってない、はず。」
「つまり俺以外に見せたってンだな!?このバカが、はしゃぎすぎだっての!」
「ひどい!理不尽!横暴!なんて言い掛かりなのってミサカは反撃してみる!」
「幾つンなったンだよ、てめェは。日頃お子様扱いは止めろとあれだけ言って」
「わああああっ!聞いてよ、聞いてないでしょ!?ミサカ見せたりしてない!」
「見せた!」
「ないよ!」

と、いう展開がほんの数分前の出来事だ。それまでの二人は上機嫌で
お互いに早く会えた喜びで一杯だった。はずがどうしてこんな流れに?
第三者からすれば圧倒的に一方通行の不利。彼の言い分は行きすぎだ。
涙目になっている打ち止めの方が誰からも同情される成り行きだろう。
自らが呼び寄せた暗雲に一方通行は無論責任を感じないこともなかった。
しかしやり方は拙いが自分の言い分というか心情を察して欲しいのである。
そこで、彼なりに打ち止めの涙と立ち込める暗雲を晴らす努力を試みた。

「泣くな!卑怯だろォ・・涙は反則だ。」
「ぐすん!女の常套手段だとミサカは呟いてみたり」
「・・ったく」

一方通行は一般人なら怖ろしくて後ずさる程の形相で俄かに立ち上がった。
そして小柄な打ち止めに向ってゆっくり足を踏み出す。打ち止めは動かない。
しかしそれは小動物が狩られる恐怖に足を竦ませているのとは違っていた。
そもそも打ち止めは一方通行の外面を含めての怖ろしさを微塵も感じない。
だからこその存在なのだ。寧ろなんだろうと好奇の目で彼を見つめていた。
すると一方通行は打ち止めに両手を伸ばし・・・ひょいと脇で持ち上げた。
一見ひ弱そうな彼だが打ち止めは小柄であるしそれくらいは能力は要らない。
ぷらんと持ち上がった足をちょっとぷらぷらさせてみる余裕もあったりした。
そして彼は打ち止めを抱えたまま数歩後ずさった。そして再び腰掛けたのだ。
今度は自分の膝に打ち止めを置いて、所謂膝抱っこという状態で座り込んだ。
きょとんとする打ち止めの目からは涙の波は引いて、一粒程度になっている。

   しゅるっ

渇いた布同士が擦れる音。打ち止めの制服のスカーフが解かれたのだ。
思わず胸元を見下ろす打ち止めだが、眼の前に彼のネクタイを見つけると
よくわからない顔をしてそれを引っ張った。同様の音はしたが外れない。

「なんで取っちゃうの?ミサカもあなたに倣ってみたけど外れない。」

不機嫌な顔で一方通行は舌打ち、自ら途中で引っ掛かったネクタイを外す。
まだ打ち止めはきょとんとしたままだ。完全に無防備で彼を待つかのよう。
警告が不発に終わったことに落胆しているのだがそれは示さない一方通行は

「お前・・スカートにしろこういうことにしろ・・情報入ってないンかよ?」
「ネットに接続した方がいい?あなたに言われて会う前に切る習慣になってるの。」
「繋ぐな。それはいいンだよ。意外にお前らって素行は良いというかマジ天然か。」
「???あなたの言ってることが・・おかしいな。回路は別段問題ないんだけど。」
「もォいい・・怒ってないから泣くな。それは理解可能だな?」
「うん、了解しました。もう泣いてないよ。あなたも怒ってないなら和解だね!?」
「・・・・喧嘩吹っかけたみてェに。そうじゃねェよ・・・」
「あっそうか!もしかしてスカートの中を見られた可能性に嫉妬したってこと!?」
「・・・・・・・・御明察・・痛み入るぜ。」
「なぁんだあ!もう可愛い人!安心して?あなたしか見てないって教えてあげる。」
「だからそンなワケ・」
「朝ヨミカワとヨシカワの前で一回、そしてさっき一回、それしかしてないもん。」
「ァア・・そ・・ォですか・・」

にこやかに笑う打ち止めに毒気を抜かれた一方通行は肩を大げさに落とす。
そして脱力もしたものの、暗雲が払われたことを確認してほっとするのだ。
実はこんなくだらない言い争いが実は彼らの間ではわりとあったりする。
くだらなくとも彼らは真剣だ。傍目には迷惑だったりバカバカしい類であっても。
経験の少ない者同士、そうやって一つずつ解決したり、状況把握したりしている。

「ねぇ、あくせられーたぁ・・!」

甘えた糖分をたっぷり含んだ声。打ち止めが何事かを一方通行にせがむ声だ。
自らの膝上でそんな声を聴かされた場合、男は大抵すこぶる気分が上昇する。
よく一般からずれてしまう一方通行も、この場合は例外ではなかったようで
先ほど通じずに上滑ってしまったネクタイやスカーフに哀れみを感じながらも

「なンですかァ、ラストオーダー」
「きゃっ!名前呼びずるい。照れちゃうってミサカは身を捩ってみたりして〜!」
「暴れンな人の上で。ナニオネダリしちゃってンですかってェの。」
「う・うん・・・って本気で照れてしまったりなんかしてミサカ緊張してきた。」
「はァ・・じゃリクエストにお応えすっか」

お願いが通じたとわかった打ち止めはぱっと目を輝かせ、頬を赤く染める。
そして両の目蓋を下ろすと、彼に向って少しだけ顔を上向かせて近づけた。
嬉しそうな顔だと打ち止めの一連の所作を見つめて一方通行も顔を寄せる。
幾度目かの可愛らしい口付けをするために接する間際で彼も目蓋を下ろした。

”そろそろこンな子供向けは卒業願いたいもンだなァ・・”

ちらりと薄めを開けて打ち止めを窺う一方通行。心中は届いていないようだ。
押し付ける時間は長い。打ち止めがそう要求するのでする度に長くなるのだ。
手持ち無沙汰で先ほど解いたスカーフを弄ぶと、打ち止めがぱかりと目を開いた。
彼の手遊びを見つけてむっとしたらしい。打ち止めの丸い目がやや三角に変わる。
怒ったのかと思いつつ弄ぶ手は止まらない。すると反撃でネクタイを引っ張られた。
唇を合わせたまま、一方通行はにやりと口角を上げて笑った。

「ちょっと!真面目にしてよう!一方通行!」
「真面目だぜェ?言い掛かりもいいトコだ。」
「意地悪ダメ。ちゃんとしてったらぁ〜!?」
「ンじゃア・・もォちょい大人向け頼むぞ、いいか?」
「え、どんなの?ってミサカは・・あ・・む」

「あ、ちゃんと息しろよ?止めるな。妬かせたお代ってことでヨロシクな。」 
「は・・?ぅ・・ん・・・ぅぁ・・!!??」


結果やはり打ち止めには理不尽な展開。しかし二人共すっかり夢中の様相。
味を占めたのはお互いだったようなので、結果オーライというヤツである。








学パロ・・を目指してわけわかんなくなったので、ただいちゃつくだけ!
という頭の悪いベタ甘にしてしまいました。結果・・・はぁ・・・・
誰かオーケーだって言ってください〜!><;

ケーキ様のピクシブに下さったコメントにもお応えしてみましたv