I want you ! 


「ふっふっふっ・・観念するのだ!ってミサカはミサカは」
「渋く凄みのある名演技でもってあなたを脅してみたり!」

彼の上方で少女のアホ毛が気合に迎合してピンと立っていた。
代理演算を奪われたわけではないが無抵抗の一方通行は僅かに眉を顰める。
少女は所謂「馬乗り」状態で一方通行の寝そべった体に跨っているのだ。
どうしてそうなったかということに関しては複雑な経緯など何処にもない。 
一方通行がよく転寝をすること、警戒を解くべき危機的状況ではないこと。
更に言うなら、彼は少女になら寝首をかかれても無抵抗に違いないからだ。

してやったり感に勝ち誇ったような態度の少女、打ち止めは恥じらいもせず
素足を大胆に広げて彼の両脇をホールドしている。一枚しか身につけていない
ワンピースの裾からは惜しげもなく白い太腿が晒され、胸元は肩紐がずれて
膨らみつつある双丘が柔らかそうに俯瞰のアングルで一方通行を誘惑していた。 

普通なら男として僥倖と言える状況に、一方通行は歓べない。
退却の意思がないと判断し、彼女から逃れようと試みはした。

「ぬおっ!無駄な抵抗はよしなさい、とミサカはミサカは警告する。」

身動きすら許さない勢いで宣告され、一方通行は早々に諦めた。

「・・好きにしろォ・・」
 
「あなたってお利口さんね」の台詞には軽い舌打ちが入ったが打ち止めは流す。
嬉しそうに彼の体に自分を密着させ、小さな顔もぐっと接近させていった。

「・・・・」

上体は密着したまま、何故か打ち止めは笑顔もろともピタリと至近距離で固まった。
もうあとほんの数センチで顔も重なりそうな距離。息遣いさえ感じられる間合いだ。
一方通行は無抵抗で目蓋も下ろしており、静かで一見眠っているかのようだ。
規則正しい心音が自らの音に重なり、彼の胸近くに置いた手もそれを感じ取っている。

”・・?なンか・・フリーズしちまいやがったなァ・・?”と一方通行はぼんやり思う。

「・・長いなぁ・・睫・・・・」

打ち止めの呟きは一方通行の胸元に直接響いた。
目を閉じていると、打ち止めの柔らかな体や温もりもよくよく感じられる。
響いた声も小さなものだったが、どんな内容にしろ心地良く体に染み込んだ。
どこか夢見るような、羨ましげな独り事。打ち止めは見惚れているのだ。
自分のような怪物に。今まで同様、彼にはすんなりと信じ難いことだった。
打ち止めは確かにオリジナルや妹達のみならず、この世の誰とも一致しない。
正に唯一だと。そしてその稀少さをこの世の誰よりも感じている、とも再確認する。
憎むべき対象に少女は大切そうに愛しそうに、色んな温かいものを与えようとする。

一方通行がそんなことを考えていると、唇に穏やかな弾力。
それも確かに打ち止めの贈りものだ。小さいくせに甘く蕩ける心地にさせられる唇。
ゆっくりと目蓋を持ち上げると、打ち止めは彼を予想通りの表情で見下ろしていた。
幸せそうで心が浮き上がって飛んでしまいそうな笑顔。思わず目を眇めるほど眩しい。

「『眠り姫』を起こした気分・・ってミサカはミサカは感動に打ち震えてみる」
「俺が姫ならおまえはなンなンだよ?俺が王子だとしてもしっくりとはこねェけどよ」
「どちらにしてもあなたはミサカと結ばれて末永く幸せに暮らすっていうお話でしょ」
「考えてみりゃア、随分乱暴な展開だよなァ・・?」
「どうして!?女の子の夢なんだから、いいじゃない!」
「じゃアどうやって、幸せになりてェンだ?教えろよ。」
「方法はどうでもあなたとミサカとが一緒にいられれば良しってことだと補足してみたり」
「へェ・・いい加減なモンだな」
「・・・つまりあなたの拘りポイントはミサカを”どうやって幸せに”ってところなの?」

実はそこまで具体的にではないが、思っていたことをずばりと指摘されて一方通行は黙る。
自分がそんなことを望むことが在り得ない程傲慢なことだとしても仕方がないのだ、が。
彼女の幸せのために身を粉にしようともあらゆる努力をすると誓うことならば容易く出来る。

「一方通行、ミサカはミサカは夢を見たの。って唐突に告白してみるんだけど」
「夢・・?」
「あの培養器の中、いつか叶うならば外を知りたい。そしてあなたと向き合いたいって」
「そしてそれが叶ったら、今度はあなたがぼろぼろになってくれたお礼がしたかったんだ。」
「それも叶った。そして今度はあなたがこれ以上ぼろぼろになったり傷ついたりしないように」
「一生懸命願ったよ。これはあまりうまくいかなかったんだけど・・それとね、」
「一緒にいたいよって伝えることはできた。欲張りなミサカはこれからもずっと願うよ。」
「・・それがさっきの・・末永く・・ってヤツに繋がるンかよ。」
「大正解!叶えるにはどうしたってあなたが必要なの。あなたが最大にして最高の贈り物なんだよ。」
「俺が・・ねェ?」
「そう、あなたが欲しいです。ミサカの一生を賭けたお願い。あなたをちょうだい、全部。」
「ンな物好きはおまえ以外にあるはずもねェ」
「わからないじゃない、そんなの。ミサカはミサカはとっても嫉妬深いので早く約束して欲しい。」
「俺が約束を守るかは疑わねェのか。」
「うん、絶対。あなたはいつだって約束は護ってくれるってミサカはミサカは信じてる。」
「そりゃア・・護らないわけにはいかねェなァ・・」

ぼそりと返った答えに打ち止めの顔が光輝いた。発光しているとしか言いようのない眩しさで。
再び目を閉じかけた一方通行は無抵抗だった体に力を入れ、首を持ち上げようとした。
彼の上にいた打ち止めの体がそれに合わせてぐらりと揺らぐ。慌てて彼の腕を掴んだ。
完全に起き上がると、打ち止めは彼に抱っこされている格好だ。きょろきょろしてアホ毛も揺れた。

「あれれ?なんだか状況が一変したような気がするってミサカはミサカは途惑ってみたり」
「ついでにおまえも観念するか?」
「うん?無抵抗でいろってこと?」
「俺の欲しいもンはな、おまえが願うことを片っ端から叶えることのできる未来だ。」
「・・・・・もしかして・・それって・・・」
「末永くヨロシクな」
「はいっ!!ってミサカはミサカはっ・・」

打ち止めは全力で一方通行にしがみつき、あまりの勢いで彼はよろめく。
なんとか片腕で打ち止めを抱きもう片方で支えて、再び寝転がるのを踏み止まった。

「相変わらず遠慮がねェっつうか」
「もう少しもやしさんから脱却してこれくらい支えて欲しいかもってミサカはおねだりしてみる」
「ハイハイ・・おまえもなァ、人の上乗っかったり腰振ンのはも少し成長してからにしとけよ?」
「よくわからないけど・・なんだか・・あなたから危険な香りが漂ってくるんだけど・・・って」

さっきとは逆に一方通行の顔が打ち止めへと近付くと、打ち止めの目はどんどん見開かれる。
只でさえ大きな瞳が更にまんまるくなっていく様を見て内心面白がる一方通行だが表情は変えない。
彼は思わせぶりに打ち止めの唇の直ぐ横に触れ、大げさなリップ音を立てた。
その音に打ち止めの体がびくりと大きく震え、一方通行は噴出しそうになった。

「おまえがやったことをしたまでだ。何慌ててンですかァ?」
「あっ慌ててなんか!ちょっと・・だけ・・その・・・・」
「聞こえなかった。なンて言ったンだ?」

「・・音がすごかったから・・驚いただけ!ってミサカは胸を張ってみたり」
「どの辺が張ってンですか?っておい、いてェぞ。」
「セクハラ許すまじ!ってミサカは鉄拳でもってあなたに抗議してみるっ!」
「おまえがするセクハラはいいのか?!」
「いつミサカはあなたにそんな真似をしたと?!」
「ついさっきもヒトの上ン乗っかって腰動かしたり、無抵抗なのをいいことにキス・・」
「ああああああァあっアウト!じゃないや、シャラップ!ダメなの、それは」
「勝手なヤツだな。ダメなのかよ。」
「いやそういうことを具体的に説明はダメなの、ってミサカはミサカは・・羞恥したりぃ・・」
「セクハラ許すまじ、って言っておいてかァ?」
「ぬぬぬぬ・・悔しいけどあなたに言い負かされそうな予感にたじろいでみたり」

満足そうに鼻を鳴らす一方通行。打ち止めは口惜しさと羞恥で顔を赤く染めている。
しかしそこで引かないのが打ち止めでもある。真っ赤なままの顔で睨み付けると、

「せっセクハラはダメ!ミサカのしたことはそうでなく、愛情表現だと言い張ってみる!」
「なるほど・・愛情表現なら許されるってンだな。」
「そうよっ!ってミサカは腕組なんぞしてふんぞり返ってみたり・・って、ええええっ!?」
「愛情ヒョウゲンならいいンだろ?」
「だだだだからといってそんなとこ触るって・・うにゅうううう・・はっ・・うぅ〜・・・」

打ち止めの顔からは汗が滲み出していた。顔は赤いまま、いや更に色を濃くして。
堪えようとすると息遣いが荒くなり、口元を押さえようとすると一方通行に阻まれた。
優しい手つきで打ち止めの口を塞いだ手を退けることによって。

「声を耐えるからおかしなことになるンじゃね?」
「んぐ・・だっだって・・あ・あう・・止めて!手を・・」
「もォどこも触ってない。ホラ、両手万歳だ。」
「!?・・そのまま・・動かないで。」
「了解」

一方通行は素直に先ほどの打ち止めのようにフリーズする。ただ固まる直前、
赤く燃えるような両眼を打ち止めに真直ぐ見据えたままの状態で固定した。
無言で無抵抗。彼は指一本動かしてはいない。なのに打ち止めはどんどん焦りを増す。
動悸が激しすぎて、離れているのに心音がスピーカーから大音声で流れているのでは、
と疑うほど耳を打っている。喉が渇きを覚え、小刻みに震えが止まらない。それでも
無表情のまま一方通行は淡々と打ち止めを見詰めている。ただそれだけだ。

「っ・・っっ・・うう・ごめんな・さい!ってミサカはミサカは・・降参・したい!」

がっくりと肩を落として言っても彼は微動だにせず、とうとう打ち止めは涙目になった。

「動いて!あなたのそれって愛情表現なの!?ってミサカは疑問を投げ掛けてみたり」
「無論だ。わからなかったか?」

上目で涙ぐむ打ち止めに今度は優しく音の立たない口付けをして一方通行は微笑んだ。
今まで誰もみたことのない男の顔。どきんとまた大きく胸が鳴り、打ち止めは両手で押さえた。

「わかった。でもミサカは・・ミサカだって本望だからね!」
「俺もだ」

真顔での短い返答に打ち止めは沈んだ。受け止めたのは一方通行。
腕の中に深く沈み込んだ彼女は酔っぱらったようにふうふう息をしている。
よしよしと背中を摩る彼は父親のようでもあり、兄のようでもあるが
愛しい女を翻弄して満足気な男であることも間違いなかった。







打ち止めの「取ったぜ、マウントポジション!」という素適イラストの続きで
「無抵抗から反撃、撃沈勝利!」の一方サンの話に・・なってしまいました。
自分でも意外な展開でして・・;くるがさんに捧げます。こんなんでごめんなさ・・