HOT LINE 


戦闘時に高揚感を得るのは何も俺の独自性ではない。
多少人並みを外れることも無いとは言い切れないが。

だがこれまでにない一気に血の気が引く事態に遭遇する。
眼の前で誰か知った人間が危難を避けられず傷付く場面。
一時引いた血液は次に高騰する。人体的負荷は多大だろう。

戦局は一秒で簡単に変わる。刹那に生死を振り分ける。
どれほどの能力があったとしても戦場では結果が総て。
この俺でさえ呆気なく只の木偶の棒に為り下がるのだ。 

そんな生死の局面に浮かぶのは

”あくせられーた”
”まもってあげる”
”もう大丈夫だよ”

 
”そォだ電話しねェと・・あのガキはきっと待ってやがる”

愚かだが有効な手段だ。死の淵を知る者ならわかる。
戻らなければならない理由はおそらく皆そうなのだ。
実際に体ごと戻れるかどうかはさておいて


デクノボウ・・・随分しっくりくる言葉だ。今の俺に。 
『心』を与えられたあの棒切れ人形のように嘘は隠せない。

”あまり危ないことしないでね”
”お土産より無事に帰ってきて”
”どこにいたってわかるんだよ”


”土産なら・・お前によく似た顔のアイツの気に入ってたアレか”

余計なことばかり浮かぶ。生き残ってから考えればいいものを。
俺はお前に甘いのか?トゲを失くして丸裸なのか、そう悟られるほど。
そうやって丸くなってしまったから、誰も救えないンじゃないのか。
お前を救いたかったはずが救われて。どうでもいいと思っていた輩を
案じてみたり援けを得たり・・・馴染めはしないがこれも現実らしい。


軽い頭痛で目を覚ますと腕の負傷は手当て済みだった。
誰がしたのか予想はしない。わかったところで礼はしない。
独りなのは気を遣わせない為か。生暖かさに頭痛が増す。

「どいつもこいつも・・」

俺のトゲを奪うのは何もあのガキだけじゃない。誰も彼もだ。
腹立ちを飲み込み立ち上がる。まだ何も終わってはいないのだから。
早いトコ終わらせて連絡しねェと。耳元に泣き言が聞え出す前に。


”必ずお前ンところへ帰る”
”待たなくていい、待ってるのは俺だ”
”お前にまもられてるのがわかるから”
”お前がくれた『心』が有る限り俺は”
”デクノボウのままではいられない”










「・・未だ寝てないの・・眠れない?」
「ヨシカワ・・ううん、もう寝るよ。」
「あの子から未だ連絡がこないのね。」
「きっと大丈夫。能力使用状況も全部チェックしてるし。」
「怪我とかもそういった情報から判断ができるのかしら?」
「ある程度は・・でもあの人の声が聞きたいってミサカは」
「あの子だってきっとそうよ。だからそのうち・・・ね?」
「うん、ってミサカはミサカは願いを込めて頷いてみる。」


「あの人は・・優しいから気付かないの。ミサカがどんなに残酷か。」
「どんなに辛い想いをしたって・・・帰ってきてっ願っているのに。」
「そんな顔しないで。残酷じゃないわ、あなたはあの子を護っているのよ。」
「護りたい。だけど・・・うまくできなくて悔しいの。すごくすごく・・・」
「打ち止め・・大丈夫、おそらく誰よりもわかっているのよ、一方通行は。」


”あいたい あいたい あなたはいまどこでなにをしているの?”
”あなたの声を聞かせて。世界で一番好きな優しいあなたの声を”
”知ってる。誰か眼の前の人が傷つく度に傷ついているんでしょ”
”それを傲慢だと思っていることも。だけど だけどね、あなた”

”どんなあなただっていいの” ”伝えてネットワーク。届いて愛しいひとへ”







誰も居ない場所でないとダメだ。意識しなくても丸くなるってことは
声だけじゃないに決まってる。見せられない。見られたモンじゃねェ。
ガキの声があったかくて、くすぐったくて、そのせいなンて言訳も通じない。
笑ってる 泣いてる 怒ってる どンな顔も容易く想像できてしまう。
伝わる。溢れてくる。愛しさが・・・震える。体を熱くして包み込む。



「・・・打ち止め?」
「ハイッ!あなた!」
「・・声、でけェ!」
「ごめんなさ・・あなたの声、どうしてそんなに囁くように話すの?場所が」
「別に誰もいねェが・・聞かれたら困るンだよ。」
「居ないのに?MNWも切ろうか?」
「あァそうしろ」
「・・接続を一時遮断しました。ハイ、完了だよ。これで二人っきりだね!」
「二人きりはおかしいだろ?・・・けどまァ・・そォと言えなくもねェか?」
「おかしくないってミサカはミサカはこのホットラインの特別性を強く主張してみる!」
「ホットラインねェ・・別に電話でなくたって繋がってるだろ。」
「切れというから遮断してるんだけど?」
「ネットワークじゃなくて・・いやもォいいわ、くだらねェ。それよりなァ」
「もしかしてあなたとミサカとの繋がりを言ってるのならちっともくだらなくないって」
「もォいいって。それよか土産物なンだけどよォ・・」
「どうしてあなたは大事なことになるとそうシャイボーイになるのっ!?ってミサカは」
「誰がンな・・気色悪ぃ呼称をぶっかけてくンなよクソガキィ・・」
「柔らかく表現したつもりだったんだけどなってミサカはミサカは呆れてみたり・・」

二人の会話はキリが無い。僅かな時間が惜しくてもどかしい。いつまでも話していたい。

「電話越しで寂しいけれどあなたの声ってそれでもとても素適なのよねって・・ミサカはミサ」
「世迷言・・っつかもォそっちはお子様には眠い時間だろォが。きっちり腹出さずに寝ろよ?」
「お腹出して寝るのはあなたじゃないのってミサカは擦り付けられた濡れ衣に驚愕してみたり」
「見えねェと思ってだらしのねェ格好で話してるくせして、偉そうに語るンじゃねェっての。」
「えっ!?どどどうしてそんなことがわかるのっ!?ってミサカはミサカは戦慄を覚えてみる」
「図星かよ、このガキィ・・」
「いやいやいやえっち!ってミサカは・・」


この世がどれほど醜い地獄でも この声がある限り心は生きていける


 ”あなたを” ”お前を ” 
”絶えることなくまもっていたい ”






電話ネタは以前も書きましたが・・・新約3巻読んだら皆妄想するよねっ!?
けど特にその3巻と特定してません。どこかで今回みたいに誰かと共闘中で、
打ち止めがそれを待っている、というシチュエーションで書いてみました。