Go to Heaven(hell)?  


”うっかり”というのは後付けの言い訳だった。
打ち止めがいつものようにじゃれつき触れてくる。
その接触が精神にも強く影響し理性を揺さぶった。
そして一方通行の使用頻度に乏しかった理性の糸を
実に容易く、見事にぷつりと切り離してしまった。
解りやすく言うといきなりベッド上で押し倒した・・
のではあるが、相手により事はスムーズに展開しない。
悪意ではなくその逆の好意に満ちた目で歓迎され、 
「大丈夫?」と気遣われ「緊張してる?」と看破され
「新鮮だ!」などと歓喜しつつ「次はどんな攻撃?」と
期待に胸を躍らされてしまったりしては、・・要するに

彼の(一応双方共にであるが)高揚した気持ちは
切れた理性と同じような軽さで体から消え去った。
下に在った体を押し潰さなかったのは良しとする。

糸の切れた操り人形のように力なく横に落ちた彼に 
驚きの声を上げたのは下に寝ていた打ち止めである。
彼の体がまともに落ちていたらかなり厳しかったが
腕一本だった為、かろうじてその場を脱出成功した。

「アナタ!突然どうかしたの?!どこか痛むのっ!?」

見当違いであるが打ち止めは一方通行を心配している。
このままでは先の輝いていた瞳が曇る一方と予想できる。 
それは阻止すべきと判断した一方通行は重い体に命令する。
のそりと冬眠から覚めた熊のような緩慢さではあるものの
彼の体は下した命令に従って上体を起こすことに成功した。
すぐ真横で打ち止めの少しほっとした顔が出迎える。

「あぁ・・良かった。顔色はそんなに悪くないし・・でも」

油断は禁物と呟きつつ打ち止めは小さな手を彼の額に伸ばし、
熱はないようだと確かめ、更に背中に手を当てて全身を看る。

「幸いベッドだもの。ここで横になって、一方通行。」

もう打ち止めの顔は一端の看護師だ。そんな様子を眺める
一方通行は一言も発しないままだった口をゆっくりと開く。

「俺はどォもしてねェから行動を全停止してこっち向け。」

まるで機械にするような命令に律儀に首を大げさに廻すと
ととっと部屋のドア前から引き返して一方通行の前に戻る。

「・・ほんとに?」
「お前のがよっぽど過保護なンじゃねェのか?」

日頃彼が打ち止めに対して下される評価を表示してみせる。
すると打ち止めは意に気付いてふふっとおかしそうに笑った。

「なぁんだ。アナタが病気なら完全看護できると息巻いたのにって」

一緒に居られるということを仄めかして唇を尖らせて見せるが
打ち止めは落胆してはいない。安堵して彼の無事を喜んでいるのだ。
彼からすると二人で過ごす時間は相当になるがまだ足りないのかと
思う。しかしそう思ってくれることは少なからず同意するところだ。
ふーっとベッドに腰掛けて溜息を落とす一方通行に陰が落ちる。
落とした肩に打ち止めの両手が添えられ柔らかな髪が乗せられた。
何度も繰り返し彼に与えられる安らぎと慈愛の抱擁に目を閉じる。

”・・よかった。俺は・・こンな風には抱けない・・から”

どこの誰にも無理だろうと思う。それくらい特別な抱擁なのだ。
これを”うっかり”失ってしまっては悔やんでも悔やみきれない。
手を出し損ねたことに心底歓び、一方通行はようやく通常に戻る
ところだったのだが、打ち止めは更なる試練を課してきた。

「一方通行ぁ・・だいすき。ねぇ、キスしてもいいかなって・・ミサカは」

思わず目を見開く。甘えた小さな声もまた彼に信じ難い真摯さで
口付けを贈りたいと天使のような白い頬を一層彼へと近づけている。
拒絶するのも尊厳を傷つけてしまいそうだが、甘受するのも躊躇う。
どうしてこう噛みあわないのだろう?苛々するのではなくやるせない。
けれど仕方ない。自分と打ち止めは天と地よりも違い過ぎるのだから。

「・・ンなことしたら・・後悔するぞ。」
「ということは嫌じゃないんだね。よっし、と小さく心の中でがっつぽうず!」
「駄々漏れじゃねェか」

おかしさを堪えきれず顔を歪ませる。多分怖ろしい表情になっているはず。
そう思う一方通行であるが、打ち止めは彼が笑ったことに気を良くして

「コレは今日こそ恋人同士のようなキスができるかもという期待がっ!?」

見た目よりませているのも当然だ。打ち止めは情報先行が仕様。
行動に出てみるのも一方通行だから、というのは希望に寄り過ぎか。
嬉しさを処理し切れない彼はいつもアレコレと埋め合わせに忙しい。
そんな一方通行の努力を嘲笑うように打ち止めはそっと彼の頬を包んだ。
しかしあと数センチの辺りでぐっと唇を噛んで止まる。躊躇は恥じらい。
手に取るようにわかる。眺めているだけで幸せというらしい気分になる。

「奪う気かよ、自らオトメだとか普段言っちゃってンのに?」
「う・・奪うって言い方はおかしいと思うの。アナタは拒否してないし!」
「嘘吐くと地獄で舌引っこ抜かれるらしいぜェ?俺はイイけどな。」

打ち止めの為なら舌の何枚でも引き抜かれて構わない口で嘯く。

「アナタと一緒なら地獄じゃないもん。天国なんだからってミサカは・・」
「救いようがねェな・・お前・・・”俺もだが”」
「それいらないの。アナタがいい。アナタだけいてくれればいいんだよ。」


落ちる・・地獄に?天へは落ちるとは表現しないだろう。では何処へ
二人一緒なら何処でもいいと言うのならば、それはもはや望みではなく

「いっちまう、か・・?どこへだろォが・・構うことねェ。」

決意に輝いたのは打ち止めの瞳だけではない。顔や体全部から発光した
ように見えた。一方通行は確かに目を細めてその光に射られたのだから。

「そうだよ!そう!ミサカたち疎通したね!いや認めたね!?約束だよ!」

キスのことは忘れおおはしゃぎの態で打ち止めは彼の首にしがみつく。
望んで望んでやっと叶った、そんな歓喜に包まれて興奮が全身を包む。
支える彼の手は優しかったが、やがてゆっくりと力を溜めて込められた。
壊さないが苦しいと感じるくらいの強さまで力を込めると打ち止めも
それに負けじと抱き締める。髪も頬も腕も胸も何もかもを押し付ける。

「こんな気持ち・・どうすればいいのかな!?言いたいけど言えない。」
「・・キスはどォなった」
「あっそうだった!あまりの嬉しさにうっかりと。ミサカとしたことが」
「するンかよ」
「モチロンさ!怖気付いたの?!容赦しないんだからってミサカは・・」

許可を得ず重なった唇に打ち止めの目が丸くなるが事態を把握するや否や
体温と共に首から上、服から見えている体の隅々までが真っ赤に染まる。
”おもしれェ”と思ったことは流して一方通行は強く唇を押し当てた。
それに合わせて唇が歪む。力は余計な部分には入っているが唇は無防備。
少し離して「唇以外は力を抜け。逆だ、逆。」と多少乱暴に告げる。
「え・・え?・・どうするの?唇にだけ力入れる!?」
「別に顔が歪んでいいならそのままでもできっけど。」
「そんなに強く押し当てるもの!?ってミサカはそこまでの情報はって」
「情報も知識も要らね。ただ感じてろ。考えるのも無しだ。」
「逆にアナタのその冷静さが腑に落ちない。もしや経験豊富なの!?って」
「ンなワケあるか。誰と好き好んでこンなことすンだ!」
「じゃなんでそんなに余裕がっ・・まっ・・あくs・・」

一方通行の名は飲み込んだ。そうせざるを得ず。打ち止めは必死だった。 
しかし一方通行とてそうだ。只管打ち止めを感じて愛しさに変換してゆく。
行き着く先など考えない。二人で選んだのだから。落ちたのはとりあえず
すぐそこにあったベッドの上。始めと反対に落ちたのは打ち止めが上だが
上も下も天も地もこうなってしまえば二人にはどうでもいいことだった。








ぐあーーーーっ!!甘い。スイマセン!突発で描いた落書マンガの続きです。
マンガも同時にあっぷしますが、短いです。思いつき予想といいますか・・。
いちゃいちゃいちゃしてて見つかったらまずは二人して正座かしら?(笑)
これ一気に大人の階段昇りそうな勢いですがしません。そっちはまた今度!←ヱ