Drinker 


酔いなど急転直下で一気に醒めた。
腕の中の存在と目が合った瞬間に。
抱き寄せたのはほぼ無意識だった。

驚きの目、途惑う指先、震える肩に
見惚れる隙などない。感触、感触が

・・・たったいま、触れた唇があまりにも圧倒的で

時を止める能力があったならとっくに使っていた。
しかし仮にあったとしても遅い。間に合いはしない。
酒を飲んだ経緯だとか、そもそもの原因だとか
どォでもいいが黄泉川と芳川には後で文句を言う。
そンなことより。このガキに対してどォすべきだ?
俺を見上げる不審な顔から口火が切られるのを恐れ
何か言葉を紡ごうとしたのに気付いたとき事態は悪化、
取り返しのつかないことに再び口付けてしまった。


漏れてくる声の甘さは勿論、貪る口の甘さは天井知らず。
怖いくらいの快感が突き抜けて体が言うことをきかない。
酔いが残っているのか、体温が更に上昇していくのがわかる。
押さえつけた腕が細くて折れそうで、細いと馬鹿にされる程の
自分の腕がヤケに太く見える。おまけにこの柔らかさはなンだ。
唇も舌も涙を舐め取った頬も覆いかぶさった体の至る所全てが

気が狂ったような俺に小さなガキは抵抗しない。
寧ろぎこちなく応えようと努力しているよォだ。
怯えは薄いが怖くないはずはない。健気に耐えている。
だが割り込んだ股の間に硬くなったモノをぶつけられると
打ち止めの四肢は雷に打たれたごとく悲鳴と同時に飛び跳ねた。



”20歳おめでとう、一方通行。これ、お祝いじゃんよ”

祝いの酒だとかを掲げた保護者は好物と称してそれを撫で
幼馴染のニートも”ふんぱつしたのね、ご相伴に預かりたいわ”
などと嬉しそうに笑った。打ち止めは羨ましそうに見上げて。
結局、祝いは酒盛りに摩り替わり、保護者達はご機嫌の体で沈む。
仲間外れを拗ねた子供は早々に部屋へと立ち去っていたのだ。
しかし慣れないアルコールの摂取で思考は乱れてしまったらしい。
打ち止めがいない、まずそれが気になり周囲を探し始めた。
次に混乱して部屋にいるはずが不安で見当違いな箇所を彷徨い、
やっと見つけたと安堵した途端に眠っていた子供をホールドした。

「こンなとこにいやがったンか!?心配させやがって・・・!」
「・・え?えと、あなた!?どうし・・酔っぱらってるの?!」

確かに酔っていた。それも相当に。俺は打ち止めに縋って泣き出した。
それを慰めるように髪や背中を撫でられた。そこは記憶に残っている。

「打ち止め 打ち止め・・打ち止めァ・・!!」

壊れた機械みたいに繰り返し呼んだ。途惑いながら返事をもらった。
そのまま俺も沈んでしまえれば良かったのだ。どォしてこォなった!
ほンの少し身を捩っただけだったはずだ。その打ち止めの些細な行動が
逃れて消えてしまいかねない恐怖に変わった。急いでその体を押さえ込む。
そしてなンの躊躇も無く口付けて深く、いきなり深く奪い取ったのだ。

しかし二度目も優しさの欠片もないもの。おまけに口付けに留まらない。
脳内に警鐘が響き渡り、止めろと信号が烈しく明滅する。なのに止まらない。
誰か 誰か止めてくれと思うくせに、あいつらが起きないで欲しいと願う。

酔った勢いとか、後の祭りとか苦しすぎる言訳だ。逃れられない。
その醜い独占欲が実は俺の本音だとわかりきっていて笑うに笑えない。
なンのかのと言い繕っても無駄なことだ。俺は打ち止めが欲しいのだから。
哀れな子供に差し伸べられる救いの手をかつて希っていたはずの俺が
昔に逆戻り、奪うだけの化物に・・いや元からそォだ。変わっていないだけ。

「・・まだ悲しい?もう泣かないで、あくせられーた。」

気がつくと打ち止めの顔や首や胸も濡れていた。俺の落とした涙で。
嗚咽までみっともなく零して。怯え震えていたのは俺の方だったのだ。
染みでぐっしょりと重そうな胸元を気にせずに打ち止めは起き上がる。
呆然とそれを見ている俺の胸を抱き締め、優しい頬が摺り寄せられた。

「酔っ払いさんのあなたって素直だね。名前を呼んでくれて嬉しい。」

甘えるように俺に告げる声もまた甘い。溶けて崩れてしまいそォに。
その上俺がしたことを真似てか涙を舌でそっと拭い去ってみせる。
冷たいはずの頬が燃える。俺は間近にある打ち止めを恐る恐る見詰めた。

「睫にも涙が乗ってる・・長くって嫉妬しそうってミサカはミサカは・・」

俺の睫を羨ンだかと思うと目蓋を下ろす。”お前だって長いじゃねェか”
押し付けられた唇はさっき俺がしたときより優しい。涙がまた溢れ出た。

「あれ!?また泣く〜!どうしたらあなたの涙を止められるのかな!?」
「止め・・ねェと・・お前のこと・・濡らして・・わりィ・・」
「あ、ううん!濡らすのはいいんだよ!?やだもう、可愛い人だね!!」

笑った打ち止めの目尻は涙の痕で赤い。それなのにそンな不思議なことを言う。

「かわい・・い・・・は、お前・・だろォ・・?」

上手く声にならずに掠れたが、言ってみると打ち止めは頬を染めた。

「口まで上手になってる!お酒っていいかも!?ってミサカはミサカは」

俺は幸せそォな笑顔に何かどォでもいい気がしてもう一度手を伸ばしてみる。
すとんと呆気なく腕に収まる。どころか、俺のこともまた抱き返してくれた。

「かわいい・・打ち止めァ・・かわいい」
「きゃあああっ!なんかもう違う人みたいだけど嬉しいっ!!スゴイよ酔っ払れーた!」

酔いなど醒めていたが、このときとばかりに俺は酔っ払いを続ける。
首筋に唇を這わせ、耳元で名を囁く。間違いではない、打ち止めは喜んでいた。
抱き締めて唇を突くと照れながら目蓋を下ろす。そのままゆっくりと口付ける。

「・・いっぱいしてもらっちゃった・・・」

20歳のお祝いは結局打ち止めにもらったものが一番だ。翌朝頭痛と吐き気に悩んだが
忘れた振りまでできて申し訳なさで頭が下がる。打ち止めは普段通り明るく元気だ。

「ほんとに覚えてないの?!へぇ〜お酒って怖いのね。憧れもするけど。」
「・・・お前は止めとけ。翌朝が辛いってのも学習した。」
「そのわりにすっきりした顔だよ、あなた。機嫌がいいというか・・・?」
「お前のおかげってことにしといてやる。」
「そうかも。ってミサカは寝起きのあなたをアレコレ気遣ったことに胸を張ってみたり。」
「ありがとよ。」
「素直・・まだお酒が残ってるのかな?」
「なンのことだ」
「なっなんでもない!ってミサカは昨夜の貴重なあなたをこっそり胸に秘めてみる。」

”それ・・秘めてるって言うか?”

後ろめたさで言えない台詞を俺はぐっと飲み込んだ。








ファイルに忘れ去られていた酔っ払いのセクハラレータ!
股間のモノ押し付けるとかしてますが、未遂です。(汗)