Dranker 


一瞬で夢から醒めた。息が詰った。
何が起こったのかよくわからなくて
目の前にあなた。お酒の匂いがした。


ほんの少し照れたような顔で起きたあなた。
昨夜のことは覚えていないらしい。頭を抑えて
痛むらしい。薬を持ってきたりあれこれ忙しい。
その朝は一方通行だけでなく、大人達は皆ダウン。
こんなに辛そうなのにどうして飲み過ぎるのかな?
それはまだ飲酒未経験の為答えは保留しておいて。
元気なこのミサカがあっちこっちと看護師さん役。
忙しいのはとても良いこと。心を抑えておけるから。

ほんとうは ミサカも 酔っ払ったみたいなの

昨夜のあなたに 烈しい口付けに 抱かれた腕にも


実はミサカもあまり寝ていなくてちょっとフラフラ。
眠れるはずがない。あんな彼のことを知ってしまったら。
ずっとドキドキが治まらない。苦しくなって胸を押える。
声が、あの熱い呼び声が耳の奥で響いたまま離れない。

知らない振りなんて出来るかな。変な顔になってない?
切なくて愛おしくて、ねぇあなた ミサカはミサカはね
変わったの。あなたに変えてもらったんだよって

告げてしまったら困るよね。無かったことにしたいのね?
・・・きっとそう。あなたが目を反らしたときわかった。
でもどうしよう、ミサカの体があなたを求めてるみたい。
もう一度だなんて。もう二度と無いかもしれないのに。
ううん、きっともうあんなことない。ミサカはミサカは

あなたに求めて欲しい。熱く身も心も焦がすあの瞳で。


「打ち止め」
「ひゃあっ!?あ・あなた・・おどかさないで。」
「ちょっと・・いいか?」
「いいよ?そうだ、コーヒー淹れてこようか!?」
「いい。あいつらあンな調子で仕事行ったンか?」
「渋々ね。ヨシカワの方が辛そうだったよ。可哀想。」
「お前もあンまり顔色良くねェな。・・寝てないンか」
「え、ううん!?大丈夫だよ!ホラ、こーんな・・」

そこで固まってしまった。一方通行が近付いたから。
何を言おうとしたのか忘れてその両目に釘付けになる。
昨夜の記憶が鮮やかに脳裏を駆け巡る。息が・・詰る。

「無理すンな。少し休め。俺がココア淹れてやる。」
「!?どうしちゃったの?破格の高待遇にミサカはミサカは・」
「昨夜俺がお前に・・・いやとにかく見てて痛々しいンだよ!」

もしかすると記憶が?!ドキドキする。顔も体も熱いよ。
引きずられるように連れて行かれた手も驚くほど熱かった。


ミサカのカップに香ばしい湯気が立って知らず喉が鳴る。
甘いココアは苦手な一方通行は冷蔵庫の缶のコーヒーを開けた。
態々ミサカの為にだけ、この人が淹れてくれる温かい飲み物。
一口で緊張が解れる。両手で支え息で冷ましながら少しずつ。
世界で一つの御馳走だ。幸せな時間と一緒に大事にいただく。

「・・すごく美味しいってミサカは高評価を点けてみたり・・」
「・・そォか。甘すぎないか?」
「甘くて美味しいよってミサカはほっこりと笑顔で告げてみる」
「ちゃんと後で歯ァ磨けよ。」
「そんなちっちゃい子に言うみたいに・・ちゃんとするもん。」

つい子供っぽく頬を膨らませてしまう。苦笑されてしまうのに。
いつもより沈んで見えるのはやっぱり思い出したせいだろうか。
ミサカはそれを喜んでいるのか、それとも悲しんでいるのか
心に自問してみる。その答えを導き出す前にあなたは話し始める。

「あンなことして覚えてないとか、信じたのか?」
「えっと・・どうかなって思ったことは認めるけどミサカは」
「お前が喜んでたことはハッキリ覚えてる。」
「あ、うん。そうだよ。すごく嬉しかったから。」
「・・・怒るとこじゃねェのか、あーいう場合。」
「どうして?あなただから嬉しいってわからない!?」
「都合良過ぎだろォが」
「願ってたんだもの。あのね、告白してしまうと今もだよ。」
「どれをだ。俺はお前に無茶もした。喜ばせてばっかじゃァ」
「全部。全てだよ。あなたがしてくれることが嫌な訳ない。」

ミサカが心情を吐露すると、頭を抑えて痛い表情を浮かべた。

「それで頭痛かった?お酒のせいもあるんだろうけど。」
「あァ痛ェ・・頭もだが・・あっちこっち痛みやがる。」
「え?!じゃああなたこそ休まないと。お部屋に戻ろ?」
「肝心なこと・・言ってねェ・・」
「なぁに?!」

そのときやっとわかった。ミサカは鈍い子だったと反省する。
言い難いものだよね。うん、だから聞く前に先回りしてみた。

「謝ったりしないでね?一方通行。」
「!?」
「聞きたくないから。絶対言わないで。」

正解に顔色が変わった。だけどミサカも本音を伝えた。
謝ってそれで許すの?!ミサカはそれだけはできない。

「無かったことにしたくない。全部ミサカの望んだことだったんだから。」
「あなたが本当に忘れていたならそれでも良かった。だけど覚えてるなら」
「後悔したりしないで。昨日あなたはミサカを幸せにしてくれたんだよ。」

言ってしまったらすっきりとした。だけど急に恥ずかしくもなって
誤魔化すように残ったココアを飲み干した。冷めても美味しいそれを。

「・・やっちまったことを謝ろうとした訳じゃねェ。」

思わず顔を上げた。その声はきっぱりと迷いもなかった。

「酒のせいにしたことをだ。あれは全部したかったコトなンだよ。」

あなたの顔は珍しく赤味が差していて昨夜の彼を思い出す。
可愛いと言ってくれたあなたのこともミサカはかわいいと感じたよ。

「今、ミサカがどんな気持ちかわかる?!」
「顔に書いてある」
「ばれちゃった?そうなの、胸が一杯だよ。」
「・・・・・」
「勇気を出してあなたにお願いしてみる、もう一度」

テーブルの向こうからあなたは身を乗り出して
昨夜に負けない口付けをくれた。甘くて苦い。
ココアとコーヒーが混ざったみたいな・・素適なブレンドの。

「大正解。あなたにありがとうって感謝を述べてみたり。」
「嬉しいなら笑え。・・じゃねェとまた・・」
「それもお願いしようかなってミサカはミサカは」
「マセガキ。ちょっと早かったって反省した俺が馬鹿みてェだろ。」
「だって・・それくらい気持ちよかったの。」

ヒドイの、気持ちよかったのも本当なのに舌打ちするんだもの。
けれどあなたは酔っ払っていなくてもとても素直に言ったよね、

「かわいすぎンなンだよ、お前は!」

お酒飲んでないのに真っ赤だよ!?うっかり口に出しちゃって
痛いチョップももらった。だから甘い口直しをおねだりしたの。







前作「Drinker」の続きです。
あまーい!(なんか久しぶり感)