初恋



自慢じゃねーけど、オレは女には優しいんだ。
どんなに邪険にされたってめげたことねえ。
だからさ、なんでこんなにむかむかするのかわからね。
あいつ見てると訳も無くいらいらすんだ、たまに。


「だめです。」
「なんでだよ!?」
「立場というものを考えてください。」
「何もモンダイないだろ!」
「私はたんなる秘書ですから。」

あ、むかつく。いつもそうだ、こいつはいつも他人行儀で。
そりゃーオレは一応王サマなんて立場だけどよ。
邑姜はオレの秘書みたいなものだってのもわかってる。
そうか、わかったぞ。こいつが遠慮すんのが嫌なんだよな。
「邑姜、ちょっと話変わるけど、いいか。」
「何でしょう。」
「おまえは身内みたいなもんなんだから、遠慮とかするのよせよ。」
「私は身内ではありませんよ、他人です。」
「?!そりゃ血縁ではねーけど、国造りを手伝ってくれてるだろ。」
「ハイ、太公望さんに頼まれましたから。」
「・・・オレらのためにしてるんじゃないっていうのか?!」
「今はこの国の未来も我が事のように思っています。」
「だったら、もう他人とは言えねーよ!」
「ですが、けじめをつけるべきときは・・・」
「オレはおまえがどこか他人行儀なのが腹たっちまうんだよ。」
「武王・・・」
「オレはおまえを信頼してる。一緒にこの国のことを考えてくれる大事なやつだと思ってる。」
「ですから・・」
「だから、もっと遠慮なしでオレに接してくれよ。」
「お気持ちは嬉しいです。でも・・」
「邑姜がオレを他人だと言ったの・・・堪えたぜ・・」
「話を聞いてください、武王。」

そんなしょんぼりと顔を伏せて、もう、困ったひとだわ。
どう言えばいいのかしら、この私に惜しげもなく親しみを投げかけてくる王サマに。
「武王は私個人にとっては王でもあり、また・・」
「一人の男性です。」
「・・・へ?」
「私があなたの恋愛対象でないことは承知しておりますが、一応私は女性なのです。」
「・・・」
「馴れ馴れしくできないのも、一歩引かねばならないのも仕方のないことです。」
「・・・えっと、その・・・」
「妹のように思ってくださるのは嬉しいですが、余計な誤解を生む行動は避けるべきです。」
「待てよ、オレは・・・」
「私が男でしたら良かったのですけど。」
「そ、それは・・・困る。」
「何故です?」
「なんでって・・・・なんで・だ・・!?」
「とにかくその話はもうお判りですか?それでしたら先ほどのことも宜しいですね。」
「ちょっ、待てよ。オレは納得してねーぞ。」
「は?」

あからさまに”馬鹿ですか?”みたいな軽蔑した眼差しで邑姜は王を見た。
困惑して眉を寄せて話を聞いていた武王姫発は机に手をついて立ち上がり邑姜と向き直った。
「邑姜!」
「ハイ?」
「オレはおまえを妹なんて思ったことない。」
「え?」
そう言った後、何故か姫発は口を噤んでしまい、顔にはまた困ったような表情が浮かんだ。
邑姜は姫発の言いたいことを測りかねて、じっとその顔を見つめたまま動かなかった。

「あー、もう!ちくしょー!!オレって、そーとー馬鹿?!」
姫発は頭をかきむしりながら邑姜をすり抜けて扉の方へ大股で歩いていった。
ぽかんとその背中に視線を向けていると扉の前でぴたりと立ち止まった。
「・・・邑姜」
「ハイ。」
姫発は邑姜に背中を向けたまま、ぼそっと低い声で言葉を紡いだ。
「あのな、さっき身内みたいに思ってるって言ったの取り消していいか。」
「ええ、わかってくださいました?」
「オレはおまえのこと・・・好きなんだ・・・」
「!!」

ちらと邑姜の顔を覗くように見た姫発の顔はみごとなまでに赤かった。
呆気に取られた邑姜は固まったように動かない。
「ちょっと頭冷やして来る!」
そう言って姫発は邑姜を残して勢いよく扉を開けて出て行ってしまった。
ぽつんと取り残された邑姜はしばらくの間ぼうっとしたままだった。
しかしゆっくりと手を上げて自らの両頬にそっと添えた。
「顔が熱い・・・」
口から零れ出た言葉に更に顔を赤くしてしまう。
「どうして・・・」
理由に思い当たっても、初めての感情に動揺が抑えきれない。
姫発に好意を持っていた。だが今の気持ちは好意とは言い難い。
「どうして・・?」
私も気付いてなかったのかしら?あのひとがたった今気付いて動揺しているように。
そして、いつからこんな気持ちが忍び込んでいたのだろうと考えてもわからない。
わからないなんて、この私がどうしたことかと邑姜は思う。
胸の甘い痛みと頬の熱さと初めて知る想い。
何かが始まる予感がした。








うわ、恥ずかしー;こんなん発邑違う!って言われそう。
なんだかうぶぃ二人ですが、こんな感じでスタート。
そうなんです。実を言うと、続くんです。てへv(てへvじゃねー!)