(2)発露  



 「くしゅん!」”ああ、もう暗くなってきちゃった・・”
 「帰らないと・・・」”でももし殺生丸さまがいたらどんな顔すれば・・”
 「・・・見てくれないなら同じだよね」りんはこっそりと溜息をつきました。
 その時かさりと音がして、りんはもしかしたらと胸がときんと鳴りました。
 そうっと音のした方を振り向くと、そこにはやはりそのひとが。
 「殺生丸さま!」りんは嬉しくて駆け寄ろうとしました。
 ですが、りんが目の前に迫ったとたん、くるりと背を向けられました。
 そのことが衝撃でりんは立ち止まり、立ちすくんでしまいました。
 ついて来ないりんに気付くと、「帰るぞ。」と声がかかります。
 しかし返事はなく、殺生丸は仕方なく一呼吸置いてそっとりんを振り返りました。
 案の定りんは哀しそうな顔で殺生丸を見上げていました。
 少女が痛々しくて可哀想なのですが、何と声をかけるべきかわかりません。
 慰めも優しい気遣いも苦手な妖怪は僅かに眉を寄せるだけでした。
 少女は泣いてはいませんでしたがとても辛そうなのが堪らずに目を反らしました。
 困惑する妖怪に意外にもきっぱりとした声が響きました。
 「りんのこと迎えにきてくれてありがとう、殺生丸さま。」
 礼を言われるとは思わず、殺生丸は驚いてりんを見てしまいました。
 「りん、わがままでごめんなさい。りんのこと見てくれないのは寂しいけど・・・」
 「殺生丸さまを見てるのは良いですか?」
 りんはそう言ってにこりと微笑みを浮かべました。
 幼い少女の決心は傍に居ること、それ以上は望まないことでした。
 妖怪はそれを知り、自分の愚かさに打ちのめされました。
 感情を持余し、変化を怖れていたことを恥じました。
 ずっと”りんはまだ子供だ”と妖怪は己に言いきかせてきました。
 ですが、子供であってもりんはりんなのです。
 言い訳をして自分を誤魔化していた己の方がよほど未熟で幼く感じられました。
 殺生丸はりんを久方ぶりに見つめました。黙ったまま尊敬すら込めて見つめたのです。
 りんの顔が花開くように明るくなっていくのをじっと見ていました。
 「殺生丸さまが見てくれた!」りんは声を弾ませ、笑顔を煌かせました。
 やはりそれは眩しくて妖怪は眩暈がしましたがなんとか耐えました。
 もしかしたらその時、無表情な妖怪は微かに笑顔を浮かべていたのかもしれません。
 少女は美しくて大好きな妖怪を嬉しそうに見つめ返しました。
 どきどきと胸が騒ぎ出すのをりんと殺生丸もまた感じるのでした。