春待つ野辺に 



寂しかった 離れるのは辛かった
聞き分けのない私に約束をくれた

「待て」と

眠れなかった 温かい寝床であったのに
やっぱりどうしても 寂しかった
だから逢いに来てくれたら駆けていった


逢いに来てくれても 別れ際になると涙が出た
やっぱり一緒がいいと駄々を捏ねて困らせた

「また来る」

その言葉が希望だった その日を待ち望んだ
来てくれる度に 新しい言葉をくれた
だから私もたくさん教えてもらったことを話した

旅をしていたときより頻繁に来てくれた
私を見つめて長いおしゃべりに耳を傾けてくれた
嬉しくてどんどんたくさんのことを教わった

来てくれるのがわかるようになった
村の小高い場所には広い野原があってそこで待った
空の彼方に見つけて手を振ると舞い降りてくれた

「何故わかった」
「とくんと胸が鳴ったから」

私が微笑むと指先で頬を撫でてくれた
そしてまた話出す私の傍にじっと居てくれた
初めの頃は邪見さまも一緒にお話を聞いてくれたけど
そのうち二人だけで話しをする時間が増えていった

「りん、殺生丸さまから土産じゃぞ。」
「えっ!?」

邪見様が薦めたらお許しがでたのだと言ってた
私が喜んで抱きつくと邪見さまは次もと約束してくれた
その次は殺生丸さまが選んで持って来てくださった
驚いていると要らぬなら捨てろというから慌てた
次に来てくれたときいただいた着物を着て待った
また髪を撫でられてとても嬉しかった
邪見さまと殺生丸さまからのお土産は増えていった
楓さまが「そのうち蔵が要る」と可笑しそうになさった


暑い日は木陰や冷たい岩の上でお話して
寒い日は抱き上げてくださることもあった
いつの間にか私は少しも寂しくなくなっていた

いくつかの季節が過ぎると私の気持ちに変化があった
逢いに来てくださるのが嬉しいのに胸が苦しい
また離れるのが辛いと感じるようになった
伸びた髪を梳いてくださったり
抱き上げてもらうのが妙に気恥ずかしい
あまりに胸が苦しいのでそう告げると
何故だかほんの少し目を細められた
まるで微笑まれたように感じて頬が熱くなった


私は今日も野辺に佇みあの方を待つ
胸の高鳴りを抑えつつ 長くなった髪を揺らして


「おまえが選ぶ答えに異存はない」


それは幾度目にもらった言葉だっただろうか
私がその意味を知る頃再び尋ねてくださると言った
この野辺でいつもその言葉を思い出し
心に何度もそのときの答えを思い描く
いつか私が大人になったとき問うてくださるのだ
いつだろうか 次だろうか もっともっと先だろうか
答えならもう心の中に在るのです

風が吹き私の長い髪を揺らすと あの方を思い出す


「連れて行ってください」


私の呟きを誰もいない野辺に吹く風が浚った
紅く染まった頬を誰にも知られないように家路を急ぐ

"待っています りんはいつでもあなたのことを”


この丘にいつかの春が来る頃 私はきっとそこにいる






「犬夜叉」完結記念に書きました。長い間やきもきしたのも懐かしい気がします。
久しぶりでカンが戻らずにおたおたしつつもやっぱりいいなぁと思いながら・・
原作が終わって寂しいけれどこれからもずっと殺生丸とりんが大好きです。