Good morning darling



「ずるい、殺生丸さま!」
「何がだ?」
「りん、お願いしたでしょ?!」
「起こしたぞ、一応。」
「酷い・・・殺生丸さまの意地悪・・」

新妻はまだ年若く、夫からすれば子供ですらある。
だから到底敵うはずもないのだが、そこは男と女の仲。
傍目には妻の不利なように聞える会話もその通りとは限らず。
まぁ、どんなに弱りきっていたとしてもそれも楽しみの一つ。


籍を入れて半年余り、最近りんの夫は早起きに嵌っている。
独身の頃は寝起きが悪くて起こす役目を担わされていたりんも驚いた。
理由は諸々あるようだが、早起きは困った事態でも何でもない。
起こされる側の立場になった妻、りんのごく個人的な問題であった。
今朝も不満顔の妻は美味しそうに並んだ朝食を前に溜息を吐いた。
「どうした、食わんのか?」
「いただきます・・今日もすごく美味しそう・・」
新婚夫婦の朝食は天気の良い日はテラスでなされることも多い。
その日も妻の大好物の品々が日当たりの良いテーブルにずらりと並べられていた。
「美味しい・・」
「たっぷり食え。」
実際憂鬱など吹き飛ぶほどの美味しさで、りんは思わず微笑んでしまう。
そしてその様子を満足そうに夫が新聞ごしに眺めるというのが最近の朝の光景だった。
「ね、殺生丸さま。朝からこんなに食べたら、りん太っちゃう。」
「太ってきたようではないが?」
「それに、朝大変でしょ、こんなに用意するの。」
「実際は邪見の仕事だ。喜んでやっとるぞ。」
「じゃあね・・りんもお手伝いするから明日は起こしてね?」
「起こしているではないか。」
「普通に起こしてよ、りんを・・その触るんじゃなくて声で。」
「声も掛けている。だがそれでは目覚めないから仕方ない。」
「あんなのでなくて普通に起こしてよぅ・・」
「少し夜の運動が烈し過ぎるか、りん?」
「やっ!殺生丸さまったらっ・・;」
「その責任を取らんといかんだろう。」
「取らなくていいです〜!」
「いったい何が不満だ?」
「りんが殺生丸さまを起こすのが普通だったじゃない?」
「以前はな。」
「でね、ご飯作ってあげるのがとても楽しみだったの。」
「週末はせっせと作っているだろう。」
「殺生丸さまを起こしたいの、りんの方から。」
「何故」
「りんが奥さんなんだもの!」
「そんな決まりはないだろう。」
「いやいや!えっちな起こし方するもんー!!」
「そうか?」
「そうよ!」
「年を取ると早く目が覚めるものだしな。」
「まだお若いのに何言ってるの?!ゴマかさないで。」
「妻の寝乱れた姿を眺めるのは夫の特権だろう?」
「きゃああっ!そーゆーこと言わないで。殺生丸さまイヤラシイ!」


邪見は毎朝新婚夫婦のジャマをせぬよう、気を遣っているが、
たまに殺生丸の勤め先などから急を要す連絡が入ったりすることがある。
その度にげんなりしつつも新婚夫婦の傍へと歩を進めるのだが・・・
これがうんと気を配らねばならない骨の折れる任務なのだ。
うっかりすると耳を覆いたくなるような会話が飛び込んでくるし、
殺生丸にだけ先に見つかると超不機嫌な目で睨まれるのは確実である。
一番困るのは夫婦で朝っぱらから・・ってな時である。
「まったく・・夜散々いちゃついていながらまーだ足りんとでも・・」
邪見はぶつぶつと呟きながら、夫婦の住む離れへとやってきた。
いきなり近づかぬよう、そうっと遠くから当の本人たちを探す。
今朝はテラスに朝食の用意をしたのだから、そこに居るのは間違いない。
そして今朝もまた「だめだ、こりゃ!」と呟くと身体を今来た方へと戻した。
「何度も何度も脚を運びなおす苦労をわかってもらえんかの〜!?」
邪見はほとんど涙交じりの撤退にぼやかずにはいられないのだった。
ぼやかれた当人たちはというと・・・

「泣くな、りん。」
「ばかぁ・・いじわるぅ〜!」
よしよしと抱き寄せた妻を慰める夫。
その胸で涙ぐみながら不平を訴える妻。
一見妻が虐められているようにも見えるのだが
実は泣かれて心中穏やかでないのは夫の方で。
機嫌を直そうとかなり真剣であったりするのである。
もちろん、困らせるのはそんな拗ねた妻が可愛いからで、
夫はいつものように葛藤しつつも妻に翻弄されるのだ。
まさに「犬も喰わない」状態の二人だった。


「殺生丸さま、こんなりん嫌いでしょう?」
「いいや。」
「優しいんだから、殺生丸さまって。」
「さぁ、そろそろ許してくれないか?」
「うん・・ごめんなさい、りんわがままで。」

結局いつも甘い口付けで事は収まるというのがお決まりなのである。
屋敷の誰もが邪見に同情していた。しかし代わりたいと志願する者は誰もいない。






「奥様は17歳」(裏)シリーズの番外になるのかしら?これ。
すいません、単にいちゃいちゃしてるだけになってしまいました・・(苦笑)
兄が別人のようにりんにメロメロなんでイメージ壊したらごめんなさいです!