待っててあげる



うららかな陽気。
時折吹いてくる風は春の匂い。
見上げる空の雲は綿菓子。


神楽は日傘からちらと上を眺めて呟いた。
「うまそうな雲アルな・・・」
酢昆布が無くなってしまい口元が寂しい。
お使い途中でアイツに会っていつものように喧嘩して。
「落っことすなんて不覚アル・・」
「銀チャンの馬鹿、糖尿、足くさい。」
「おまえさ・・公道でそんな人聞きのわりぃこと言ってるとバチ当たるよ。」
「あれ?!銀チャン!!お迎えに来てくれたアルか?!」
「お迎えじゃねーよ。帰ろうとしてたらおまえ見っけたの。」
「・・・何よ、この手は?」
「お土産は?」
「んなもんねぇから酢昆布食っとけ。」
「・・・落っことしたから無いアル・・」
「あぁ?!・・はー、そんでしょんぼりしてたんか。」
「・・・ワカル?」
「酢昆布くれぇでしょげんな。また買ってやるから。」
「ウン!!」
「帰るぞ。」
「おう!」
”なんだ、今日も良い日だ。銀チャンの顔見たら元気出たアル”


良い天気。熱すぎない日差し。
銀チャンみたいだな。春のこんな日は。
「おまえ、いっつも幸せそうね。」
「ウン!」”銀チャンと居るとね。”
「お腹空いたアル。」
「空いてねぇ時ってあんの?」
「育ち盛りアルからね。」
「育ってんのかねぇ・・」
「うかうかしてたらタイヘンよ?銀チャン。」
「これ以上食うようになったら確かにタイヘンなことになるな。」
「男って馬鹿アル、しょうがないから待っててあげるアルよ。」
「あ?何言ってんの?」
「銀チャンもまだまだ女を知らないアルな。」
「へっ!なーに生言ってやがる。」
銀チャンがいつもみたいに私の頭を乱暴に撫ぜる。
いっつもお兄ちゃんぶってさ。
どうしていつまでも子供で居ると思ってるんだろう。
まあ、良いアル。気がついて慌てるとこ見るの楽しみアル。
「ああ、今日は良い天気アル〜!」
「ん・ああ、そーだなー。」
「銀ちゃん、でもいつまでも待ってないアルから。」
「へ?!何の話?」
「待ちきれなくなったら遠慮しないヨ。」
「??・・おう。そんな腹減ってんのか?」
「ウン、ウチまで競争するアルか。」
「んな疲れることせんでも、ゆっくり行こうぜ。」
「・・・・しょうがないアルな〜、女は辛いアル・・・」
でもホントは私も長いこと一緒に居たいんだよ。
待っててあげるよ、ゆっくりね。