銀の雫  




春の雨だった。微かに細く糸のようで美しい。
彼のひとの銀に流れる髪を思い起こさせた。
雨宿りせずにそのまま濡れていたい気がした。
目の前に蕗畑が広がっていたのでなんとなく一枚失敬した。
その葉を傘のようにしながらぶらぶらと歩いてみた。
彼のひとは今どこで何をしているのだろう。
空を仰ぎ、そしてそっと目を閉じた。
温かな雨は胸を染め、布に僅かずつ染み込んで行く。
”今、何してるの? 雨はそこには降ってるの?”
”寒くないといいな。私の胸が今あなたを想ってあたたかいように”
”こんな風に優しくあなたに降り注ぐことができたら・・・”
俯いて祈るように目を閉じ、その姿を思い浮かべていた。
銀の雫が彼のひとのように身に注ぐのを感じながら。





春の雨にふと空を見上げる。空は明るく雨糸は煌いた。
優しく落ちてくる雨にその笑顔を思い出す。
濡れることは良しとしないいつもを忘れて雨を受けた。
身に温かく染み込む雫は何かを溶かすようだ。
あれは今何をしているか。
可笑しなことにこの春の雫を同じように受けているのではないかと
己と同じように姿を思い浮かべていると感じた。
空を仰ぎ、そしてそっと目を閉じた。
”雨はそこにも降っているか?”
”寒さに震えたりしてはいないか?”
”この銀の糸のようにおまえを包み、染み込んでゆけたら・・・”
思い浮かべたその笑顔は銀の雫とともにゆっくりと
流れる銀の髪の男を濡らし、染み込んでいった。






「連理の枝」の玲さんに捧げたものです。
素適な絵をどうもありがとうございました。