冬の獣 



ああ・・あったかい・・
何も心配しなくていいんだ・・
この場所より安らげるところなんてない
ありがとう こんなにあたたかくしてくれて
包まれていく身体も魂もあなたのために
こんな小さな命でもすべてはあなたのために



昔、りんは冬は嫌いだったの
寒くて手足はひび割れるしね
食べ物がままならないのはいつもだけど
腐りにくいことくらいかないいことは
ただね、夜は眠ってしまうのが怖かったよ
冷たくなって朝目覚めないかもと思うと
毛皮を着た獣が羨ましかった
もちろん彼らだって大変なんだろうけど
身体を覆う毛皮が温かそうに見えたから
でも仕方ない、りんは人間だもの
寒さに震えても火で暖めるほかなかった
こんな幸福な未来が待ってるなんて
あの頃の私に想像する術はなかったもの

殺生丸さまと出逢った頃、不思議だったの
冬でも全然寒そうじゃなくって
あのもこもこの毛皮のおかげかなと思ってた
見ているだけでもあったかそうだったし
柔らかそうで触りたかったっけなぁ
もちろん触らなかったけどいいなって言ったら
邪見さまに怒られたのも懐かしい思い出
初めてあのもこもこに触れたのは実は私からじゃないんだよ
内緒なんだけど殺生丸さまと二人だけの夜
寒くて寝付けないりんのことを心配してくれたの
「どうした?」って聞いてくれて嬉しかった
「あの・・寒いんです・・!」って言ったら
あのもこもこで包んでくれたの、びっくりしたな
思ってたよりずっとずっとふわふわで
あったかくて優しくって気持ちよくって
「殺生丸さま、あったかいです!すごく。」
「そうか」
何もそれ以上はおっしゃらなかったけど
嬉しくてたまらない私をそのままずっと包んでくれていて
信じられないくらいゆっくりと眠ることが出来た
こんなに寒い時期でなくたって、そんな風なのは初めて
真綿よりも柔らかいものがこの世にあるんだなって思った
なんて殺生丸さまってすごいんだろう、お優しいんだろう
りんはなんてなんてすごいんだろうってどきどきした
こんな幸せな思いをしていることが信じられなくて


「殺生丸さま、初めてりんをこうしてくれたときのこと覚えてる?」
「ああ」
「今でも思い出すの。だって何度こうしてもらっても嬉しくて。」
「そうか」
「うん。あのときはお着物着てたけど。」
「この方があたたまる」
「うん。あのね、りんは冬の獣に憧れてたの。」
「?」
「冬は寒くってあの毛皮が羨ましくて。だけど・・」
「今はもう羨ましくないよ。こうしてもらう方がずっと幸せ。」
「・・・」
殺生丸さまは私が寒くないように全身を包んでくれる
初めてお着物を脱いだときはちょっと驚いたけど
でもこの方があったかいの。殺生丸さまってすごい
殺生丸さまのお肌もあたたかいんだよ、もこもこだけじゃなくて
とろとろになって目蓋が自然と重くなる
今日ももう眠ってしまいそう・・・
私が堪えきれずに目を閉じると殺生丸さまの髪が頬に擦れる
くすぐったいけど起きられないの
頬に触れるのは髪だけじゃなく、殺生丸さまのお口もね
そこだけ熱くなるからすぐにわかるんだけど目が開かない・・
殺生丸さま・・今度は起きてるときに・・触れてくれないかな・・?
りんは何も答えることができなかったけれど・・
そうだ・・・起きたら・・もう一度ってお願いしてみよう・・
駄目かな・・すごく・・気持いいんだよって・・言うの・・・・


「眠ったか・・」
柔らかい皮膚をした冬の獣を抱きなおして目を閉じる
この獣は私の獲物 だから大事に手の内に隠すのだ
妖怪の呟きも胸の内の想いも他所に安らかな少女は微笑んで
至福のときを身体中で感じながら夢を見る
いつもいつの日かも羨むことはもうしない
寒さに凍えることは二度とないのだと知っているから





えっと・・ほのぼのを目指してたんですけど、微妙?!
じゃれあうような犬猫のイメージです、実は。
いずれにしても殺りんで書くから微妙でいいのかも。