「触れる」



何やら物思う様子の殺生丸さまをこのところよく見る。
おそらくりんのことだ。人里に預けてからというもの、
寂しいのであろう、よくぼんやりとされておられるのだ。
初めはあの殺生丸さまが”寂しい”などと・・と思ったが、
何を隠そうこのわしでさえも、寂しいと思うのだから。
ご本人も寂しいなんてことを感じるのは初体験に違いない。
”気が向いたら”などと言っていた訪問も回数が増えてゆき、
いつの間にやら3日を空けることはなくなってしもうた。
困るのはそういう苛苛をわしに八つ当たりされることだ。


今日はりんの元へと来られたので、機嫌は悪くない。
最近よく下がっていろと言われるので仕方なく物陰からこっそりと。
おっ、りんは今日も元気そうじゃな。うんうん・・また背が伸びたかの?
会う度に可愛らしゅうなって、殺生丸さまも嬉しかろう。
そんなりんに微笑まれ、あんなに懐かれて・・いいのう、殺生丸さま。
おや、またじゃ。殺生丸さまはやはり少しご様子が変じゃぞ!?
どこか迷うような、途惑うような仕草をよくされるのだ。
なんであろうのお?まるで・・触るのを躊躇ってらっしゃるような・・
むむ、もしや・・まさか・・



「それでね、殺生丸さま。」
「・・・・」
「あ、髪に何か付いてました?ありがとう、殺生丸さま。」
「いや・・」

うーむ、りんの髪には何も付いておらなんだと思うんじゃが、
りんはそう思ったらしいの。礼なんぞ言っておるから。
殺生丸さまは手を引っ込めてしまわれた。なんだか恥ずかしいのー!
まるで少年のようではないか、好きなおなごの前でもじもじするような。
うがーっ!?なんちゅう想像じゃ!?わしってばなんてことを!!
まさか、まさかじゃな!あの偉大なる大妖怪であられる殺生丸さまじゃぞ?
ましてや相手はあのりんじゃ。小娘もいいとこじゃし、人間なのじゃし・・
まぁその・・可愛らしいのは・・認めるが・・しかしのう・・・
あっまたじゃ!・・殺生丸さまっしっかり!なにやっとんですか!?


「今日のりんは変な匂いがしますか?」
「いや、何故だ。」
「殺生丸さまが髪を気にしておられるから・・夕べ洗ったのですけれど。」
「何も変ではない。気にするな。」
「そうなんですか?ならいいんですけど・・」
「・・伸びたな。」
「え、そう・・ですね。少し。」
「・・・・」

あわわわ・・・誤魔化しておられる。なんということだ、りんもりんじゃの!
鈍いというか、純というか・・少しも雰囲気とか察知してないんじゃから〜!
いかん、いかんなー!よーく考えれば殺生丸さまは昔からおなごと接することがなかった。
なくはなかったのかもしれないが、わしはほとんど見たことがない。じゃから・・
もしやこの上なく・・奥手でいらっしゃる・・・とか!?・・・ひーっ!!!
おおおそろしいことに気付いてしもうたー!落ち着け、落ち着くんじゃ、わし。
わしが慌てても仕方ない。しかし殺生丸さまにどうこう助言できるわけもなし。
困ったのう?!うーむ、うーむ・・・・


「ねぇ殺生丸さま。邪見さま具合悪いんじゃない?」
「放っておけ。」
「でもなんだか気分でも悪そうにしてるよ・・」
「・・・邪見、気分でも悪いのか?」
「ひっ!?いっいいえ!わしちょっと用事思い出したので失礼しますー!」
「行っちゃった・・変な邪見さま。でもあんなに走れるなら大丈夫よね。」
「ああ。」
「それで殺生丸さまはりんの黒髪がお嫌いじゃないですか?」
「ああ。」
「良かった。もう少し伸ばそうと思っていたから。」
「・・・・」
「あのね、殺生丸さまも長いでしょう?だからちょっと真似したくって。」
「好きにすれば良い。」
「ありがとう。」
「何故私の真似などしたい。」
「えっと・・その・・なんとなく・・」
「髪の長いものなどいくらでもいる。」
「そうですね。だけど殺生丸さまの髪が一番綺麗だと思う。」
「・・・・」
「りんは真っ黒だから・・だから憧れちゃうのかなあ?」
「くだらん。」
「えへへ、そうですね。」
「おまえの髪の方が・・」
「え?」

「・・髪を撫でてくださるなんて・・嬉しい。」
「・・・・」
「もしかして・・ずっとそうなさろうとしてた?」
「・・・・」
「とっても嬉しいです、殺生丸さま。・・あの・・りんも触っていいですか?」
「!?・・・・」


おおおおおおおっ・・・戻ってみたら殺生丸さまがっ!
りんの前にひっ跪いておられるではないかっ!?しっしかも・・
りんの手が殺生丸さまの髪を・・髪を?梳いておるのかの??


「なんて滑らか・・殺生丸さまの髪って不思議です。」
「・・・そうか。」

おわーっなんっ・・なんと今度はりんを、りんを抱きかかえなさって・・
・・・・髪を・・撫でておられるのか?・・なんか妙な感じじゃな?

「おまえに触れるのは・・久しぶりだ。」
「そうですね?なんだか・・ちょっと恥ずかしいです。」
「何が恥ずかしいのだ。」
「以前のようにこんな風に抱きかかえてもらうと・・小さな子供みたいで。」
「もう小さくはないだろう。」
「え、そうですか?だけどやっぱり・・恥ずかしい・・」


見てるのも恥ずかしいのでそーっと覗くのをやめた。
はにかみ、頬を染めるりんを大切そうに・・触れられて。
殺生丸さまは悩まれたのか、それとも躊躇されたのか、りんに触れることを。
そうか、大きくなったからこそ遠慮されたのじゃな。もう子供ではないと思われたのだ。
うんうん・・良かったですな。なんだか・・邪見も嬉しゅうございますよ、殺生丸さま。

その日、こっそり覗いておったことがばれてしまったが、なんと蹴られなかったのじゃ。
機嫌が良かったせいもあるじゃろうが、途中で気を利かせて外したためじゃろうかの?

「良かったですなぁ、りんを抱っこなさることができて!」

その一言さえなければの。いや、失敗じゃった。
もしかすると、照れていらした・・?・・・いやまさか;
けどこの邪見、殺生丸さまを応援いたしておりますからの!そうりんのことも。
意外に奥手じゃとわかったので少し策を授けて差し上げるべきかのう・・?
殺生丸さま、りん、わしは味方ですからね。忘れないでくださいよ。





邪見語りでした。珍しいですね。(^^)