ファースト・キス



無防備なその唇は温かな桜色で
柔らかそうで甘い香りが漂う
いつも私の名を呼んでは嬉しそうに微笑み
何も知らぬのに意味ありげに私を誘い込む
軽くついばむだけの触れ合いなら子供のときから
だがそれはあまりに無邪気な笑顔にかき消され
頬や髪や瞼にも落とし慰めたこともある
だが欲しいのはそれではなく
おまえの瞳が揺れるたび
私の胸に打ち込まれ
その向こうにいるおまえを知るための
扉の鍵にほかならない
ほんの少し扉を開き覗き込もうとするおまえ
もういいか、まだはやいかと窺い
じらされるのにも慣れはした
ただそこから旅立つには勇気が要る
おまえが美しく目覚めるときから
また今以上の苦しみを背負い込むと
手にとるようにわかるから
これ以上待てるのかこれ以上に苦しむのか
揺さぶられる心はすでにおまえに落ちている
憎らしいその唇に想いを込めて
抱きしめる腕ですべて包み込み
私の一部になるように
重ねて深く繋がりたい
声すらも飲み込んでおまえが泣いてしまっても
離せるとは到底思えない
そこはおまえとふたりだけ
いつまでもつきることのない流れとともに
味わい溶けゆくところ
かならずおまえをつれてゆく