「夢を見た」
〜炎山〜

少しばかり疲労を感じたので仮眠をとった。
わずかばかりの時間だが夢を見たようだ。
おかげで随分名残惜しい気がして我知らず苦笑を浮かべた。
「もう少し休まれますか?それともコーヒーをお淹れしましょうか?」
「・・いや、いい。ありがとう。」
秘書の気遣いが却って気恥ずかしかった。
仕事に取り掛かる前にもう一度先ほどの夢を思い起こす。
”夢の中でも素直じゃないな”窓の外を眺めながら小さな溜息。
それはアイツに対してではなく、自分自身への溜息だ。
気を引き締めて早く仕事を片付けてしまうことにする。
そして会いに行く。物足りない気持ちを埋めるために。
こんな気持ちにさせた代価は高くつくと知らせないとな。
”早く顔が見たい”


「夢を見た」
〜やいと〜

最近会えなくてそれでそんな夢を見たんだと思う。
私が目覚めた後、グライドが心配していた。
涙を浮かべてしまっていたからだ。
「大丈夫よ、グライド。なんでもないの。」
心配されるほどのことじゃないわ、いつものことよ。
アイツは忙しくてなかなか会えないんだもの。
でもおかしいわね、夢の中でも私は素直になれなくて。
夢で会えただけでこんなに嬉しくて寂しいのにね。
気を取り直してグライドにお茶を淹れてもらうことにした。
それから会いに行こう。ほんの少しでもいいから、会いたい。
きっと会えたって素直な言葉は出てこない。それでも
こんな気持ちを抱えているよりずっといいから。
”早く会いたい”



「夢よりもずっと」
〜そのあとの二人〜

会いに行く途中でもう少しですれ違うところだった。
びっくりして立ち止まり、お互いに見つめあった。
道の向こう側とこちら側で少しの間呆然としていた。
確かに会いたかった相手だとわかると横断歩道を横切った。
幸い通りは車もなくて、すぐにお互いへとたどり着いた。
気付くと私はアイツの腕に飛び込んでいて
アイツも私を迷わず受け止めてくれて
抱き合っていたのはほんとはどれくらいの間だったろう。
車のクラクションで我に返って慌てて二人で駆け出した。
近くの公園にたどり着くと顔を見合わせて笑ってしまった。
「なんでこんなとこに居るのよ?!」
「おまえこそ。」
「よくすれ違わなかったわね、私たち。」
「まったくだ。」
「もしかしてすごく恥ずかしいことしちゃった!」
「まあ、いいんじゃないか、たまには。」
そしてまた二人で少し笑うと、視線を合わせる。
どちらからともなく手を伸ばしてゆっくりとまた抱き合った。
「変ね、こんなの。私じゃないみたい。」
「そうだな。夢と大違いだ。」
「炎山も夢を見たの?」
答えを聞こうと顔を上げたのに答えは聞けなかった。
”やっぱり変だわ、恥ずかしくないなんて”
だって夢で見るよりずっとずっと・・・幸せで・・
夕焼けに長く伸びた二人の影は一つになったまま
いつまでも離れられなかった。