私のものよ!



少しくらい小さくったって、別に困ってないわ。
おでこが多少広いのだってチャームポイントだし。
口が悪いとか減らないとか言われたって平気。
可愛げがないだとか、大きなお世話って感じ。
素直じゃなくたってわがままだって、これが私よ。

今目の前に居る私が全部よ。嘘なんか吐かない。
背伸びしたって、むきになったって、いじけちゃってても。
悲しみや胸の痛みも、泣きたいほど切ない想いも。
何もかもひっくるめたのが私、全てが私のもの。
そしてそれを一番分かって欲しいのは・・アナタ。




「ねぇ、ホントに行かないの?やいとちゃん」

親友のメイルちゃんが残念そうに言ってくれるのは嬉しかった。
「夏祭り」に誘われて、熱斗たちも参加するのよと聞かされる前から
そのことなら知っていたの。・・もうアイツを誘った後だったから。
忙しいからよくあることなんだけど、アイツのOKはもらえなかった。
選んでいた少し大人っぽい浴衣も髪飾りも溜息と一緒に片付けてしまった。

「ごめんね、メイルちゃん。また今度誘ってね?」

理由は用事のせいにしてなるだけ明るく断った。
電話を切ると、なんだかつまらなさが身体に広がったようだった。
ぽいと私室のベッドに寝転がって天井を見つめた。
たいしたことじゃないし、よくあることよ、と自分に言い聞かせる。
それでもきっと今の私はとても情けない顔をしているんだろうなと思った。
きっとメイルちゃんは綺麗にして熱斗を驚かせるんだわ、と想像してみる。
ううん、熱斗だけじゃない、メイルちゃんは周囲が皆振り返るに違いない。
私もあんなに綺麗なら、一人で行くと言った私を心配して来てくれるかしら?

「一人でなんて行かないけどね・・・」

そういえば、アネッタも行くって言ってたかしら?・・可哀想に炎山は来ない・・はずよ。
小麦色をしたあの子は以前から炎山のことを狙ってるのは知ってる。諦めてないこともね。
別に構わないわ、そんなこと。わりと可愛いコよ、メイルちゃんほどじゃないけど。
それよりも私は以前もっと自分に自信を持っていたのに近頃はどうしちゃったのかしら。
ずっと隠していたけどたくさんあった劣等感が大きくなってきたような気がする。
少しも伸びない背や手足のせいかもしれないし、痩せっぽちな身体のせいかも。
いまだに「デコ」と言われる額も実はチャームポイントだなんて言ってるけど違うのよ。
そう言ってただけ。じゃないとみじめじゃない、認めたくないってことよ、要するに。
溜息なんかが一人のときにはつい出てしまって、落ち込みに拍車を掛ける。
一番嫌だと思うのは、こんなことで落ち込んでいる子供みたいな私よ。
こんなだから・・・炎山だって・・・呆れてしまっても当然だわ。
うつ伏せになって込み上げたものを誤魔化そうとしたらPETからグライドの声。

「やいとさま、炎山さまからたった今ールが届きましたよ!」
「・・・今見たくない。しばらく一人にしてほっといて・・・」
「そんなことを言わずに。返信は後ほどにしてもとにかく見てください。」
「なんでアンタがそんなこと・・・急用なの?」
「ハイ、そうとも言えます。」
「?・・なんなのよ、それ。」

グライドがあんまり急かすように言うので涙を拭いてメールを覗いてみる。


『浴衣姿を見に20分だけ抜け出すから待ってろ。』


「・・・もしかして新しい浴衣のこと、炎山に話した?グライド。」
「はっハイ・・申し訳ありません。内緒だと承知しておりましたが・・」
「私の浴衣姿なんてそんなたいしたもんじゃないと思うけど・・・」
「そんなことございませんよ、やいとさま。特に炎山さまにとっては。」
「・・・ちっとも・・大人っぽく見えないし・・・」
「昨年よりずっと大人びて見えますよ!大丈夫です、やいとさま。」
「そう必死に言われると複雑なんだけど・・・ありがと、グライド。」

こんなことでころっと元気になる私ってどうなの?・・・我ながら単純。
それもたった20分ですって?!・・・でも・・抜け出してくれるのね。
私の劣等感はいつも炎山が刺激するってこと、アイツってばわかってるのかしら?
いつでも莫迦にするように、からかうように、小さな子供扱いして怒らせて。
いいわ、こんな子供っぽい私の浴衣姿が見たいって言うのなら、見せてあげる。
言っておくけど、私はたくさんのコンプレックスたちだって何一つ手離さないわ。
全部ひっくるめて『私』なんだから。それを分かって欲しいの、アナタに。
この悔しさも涙も、嬉しさもときめきも・・・私のものよ。
それとアナタを想う気持ちも・・・誰にも渡さないんだからね!


当日の夜はね、逢えたわよ。自家用ヘリはいいけど、なんで私を連れてくのよ!
20分だけ逢いに来たんじゃなかったの!?どういうことよ、これは。

「ちょっと炎山!皆呆れてたじゃないの!これじゃあまるで誘拐みたいよ?」
「今日のところは許せ、時間が無い。それとも二人きりになりたくないとでも?」
「はぁっ!?どゆこと?」
「ゆっくり見たいしな。」
「・・・何処へ行くの?」

仕事中と丸分かりの専用オフィスなんて・・・何よこのむーどの欠片も無い場所。
仕事が一区切り着くまで待たされて、眠くなっちゃったわ。ホント勝手なんだから。
でも浴衣姿、褒めてくれたから大目に見てあげたけどね。・・私って甘いかしら?


「ところでこれは脱いだら一人で着れるのか?」
「・・・まさか・・・脱がせたりしたら怒るわよ!?」
「こんな姿のときくらいは恋人に素直なとこ見せてみれば?」
「何言ってるのよ、いっつもほったらかして。浮気するわよ!」
「まだ犯罪者にはなりたくないから、止めてくれ。」
「べーーーっだ!!いっつも子供扱いするくせに!」
「しょうがないだろ、子供っぽいところも気に入ってるんでね。」
「ほんっとに憎たらしいわね!」
「そういうところも好きだろう?」
「・・・モチロン、全部私のものよ!」
「じゃあ一体何に拗ねてるんだ?」
「・・教えてなんかあげないわ。」

頬に感じた感触が身体に広がる。熱くなってしまって恥ずかしい・・
えっと残念だけど・・・ここからはお話できないのよ。
ここから先は私たち二人だけで味あわせてもらうから。
・・・ごめんなさいね?







数年後だったんです、この話。既につきあってますv(^^)
甘々にしてみました。いや〜、炎山がいやらしいったら・・・;
オヤジな炎山にがっかりしてしまった方が居られたらごめんなさい☆