トロイメライ〜小さな約束〜1




ぼやけているけど優しい笑顔
ささやくような声と温かな手
覚えてるメロディは切なくて
寂しいとき懐かしく思い出して
小さな私たちの約束が叶う日はいつ?


私はその頃母を亡くしたばかりで泣き虫だった。
3歳の誕生日を迎えてまもないときだったと思う。
初めて連れて来られた御屋敷にぽつんと一人。
つまらなくてメイド達の目を盗んで部屋を出た。
母の好きだった花を探しに広い庭園へ出たみたのだ。
結局見つからなくて諦め、ふと気付いたときには、
庭の真ん中で帰る方向がわからなくなっていた。
こみ上げてくる涙をどうすることもできず、
眼を腫らしながらうずくまってた私に声が掛けられた。

「どうしたの?こんなところで・・・」

しゃがんでいた頭の上から優しい声が降ってきた。
驚いて顔を上げると男の子が心配そうに覗き込んでいた。
心細かったのでほっとした私は声を上げて泣き出した。
その子は困ってしまったようにしばらく黙っていた。
しばらくすると、突然小さなメロディが耳に入ってきた。
どこかで聴いたことのある綺麗で少し寂しげなメロディ。
その曲に気を取られた私は涙混じりにその子に尋ねた。

「・・・それ、なあに?」
「オルゴールだよ。」
「時計みたいね?」
「懐中時計なんだよ」
「アタシ・・その曲聴いたことある・・・」
「”トロイメライ”っていうんだ。」
「ふーん・・・」
「僕のお母さんの形見なんだ・・」

私が驚いてその子の顔を見ると寂しそうに笑った。

「死んじゃったの?!」
「・・うん、少し前にね。」
「アタシと一緒・・」
「君も?だから泣いてたの?」
「ママの好きなお花咲いてるかなって来てみて・・」
「でもなかったの。帰る路もわかんなくて・・寂しくて・・」
「・・うん、そっか・・でももう大丈夫だよ。」

また涙が出てきた私の頭をその子が撫でてくれた。
何も言わず黙ったままで、優しく何度も何度も。
私の横にその子もしゃがんで腰を下ろした。
そして時計を開いてトロイメライを聴かせてくれた。

「これ聴いてると僕は寂しくなくなるんだ。」
「・・・アタシも聴いてていいの?」
「涙が止まるまで聴いてていいよ。」
「ありがとう・・その曲アタシも好き。」

私がそう言うとその子は微笑んだ、とても綺麗に。
その笑顔がとても優しくてつられて私も微笑んでしまった。

「ねぇ、ママが死んじゃっていっぱい泣いた?」
「一人のとき内緒でね。泣いたら怒られるから。」
「なんで怒られるの?!」
「・・必要ないからなんだって。」
「でも涙出るでしょ?どうしても。」
「僕はもう大丈夫だよ。」
「・・・アタシも泣いたらダメ・・?」
「君は無理しないで泣いていいと思うよ。」
「ウン・・ねえ、なんでここにいたの?」
「ちょっと一人になりたかったんだ。」
「それもおんなじ。パーティに来たの?」
「そうだよ、君もなんだね。」
「でもつまんない、パーティなんてキライ・・」

その子はくすっと笑うと「それもおんなじ。僕もだよ!」と言った。
そして私はとうとう泣くのを忘れ、顔を見合すと二人で笑った。

「色々同じで不思議だね。」

さっきまで泣いていたくせに私はなんだか嬉しくなっていた。

「ねぇ、ここにふたりで隠れていようよ!」とせがんだ。
「・・・多分見つかってしまうと思うけど・・まぁいいか。」

そう言うと、その子は私に付き合って傍に居て話をしてくれた。
知らない子なのにずっと前から知っていたみたいに楽しかった。
だから探しに来たメイド達に見つかるまであっという間だった。
もっと傍に居たかったからその子から離れずにごねて皆を困らせた。

「今晩パーティで会えるよ、きっと。」

そう言ってもらって渋々メイド達と一緒に部屋へ戻ったのだった。

「きっと後でね!」

必死の私にその子は「うん、後できっとあおうね。」と頷いてくれた。

私達は指きりをしてその庭園を後にしたのだった。








一話です。なかなか更新できずにいました。
幼い二人の小さな約束のお話、ガンバリマス!
炎山も5歳頃は素直な子だったと思うんですよ^^