秘密 



「あんな奴、だいっきらいなんだから!」
長くたっぷりとした金色の髪のおさげを二つ揺らして
広い額を真赤にしながら綾小路やいとは叫んだ。
もう口癖になるほど叫んでいるため、誰も気に留めたりはしない。
おそらく大嫌いと言われた本人すらも苦笑こそ浮かべはしても
不愉快に感じることはないであろうと誰もが思った。
むしろ微笑みを漏らし、穏やかな視線を投げかけるかもしれない。
「伊集院炎山、いつかぎゃふんと言わせてやるんだから〜!」
「はいはい、頑張ってくださいね。」
投げやりな返答に眉を顰め、やいとは自身のナビ”グライド”を睨むと
「あんたってば、本気で言ってるの?それ。」不機嫌な声で問いかけた。
「もちろんですよ、やいとさま。」グライドは困ったそぶりも見せずに応えた。
「なんだか最近おかしいわよ、皆勘違いしてるんじゃないの?!」
「何をでございますか?」としらじらしいような答が返ってくる。
「何をじゃないわよ、炎山のことよ。」
「勘違いとは?どういうことでしょうか。」
「だから、私があいつなんて嫌いだと言ってるのを疑ってない?!」
「どんでもございません。勘違いなどしておりませんよ。」
「・・・ほんとにい〜?」やいとは疑わしげな顔を浮かべた。
「もちろんです。十分承知しておりますとも。」
「・・・ふーん。まあいいわ。とにかくあいつは許せないのよ。」
「そうですか。」
「なんだか馬鹿にしてない?」
「とんでもありません。皆やいとさまを温かく見守っております。」
「?!何よ、それ!」やいとは再び顔を真赤にして叫んだ。
先ほどのように興奮したためではなく、恥かしさを含んだ表情である。
「ですから、お二人がこれからもっと仲良くなられ・・・」
「何言ってるのよ、冗談じゃないわ!私がなんであんな奴と!?」
「すぐには無理でしょうが、そのうち素直になれますよ、やいとさま。」
「馬鹿っ!」やいとは思いきりナビ付き携帯PC端末「PET」を投げつけ駆け出した。
今や全世界国民のほとんどが所有するこの端末機械を製造する最大ハード会社である
「I.P.C」の一人息子で副社長であるのが伊集院炎山。
対してやいとは大手ではあるが、ゲームソフト等で有名な会社の社長令嬢である。
伊集院炎山はやいとの会社を三流と評していたため、彼を目の仇にしていたのも事実である。
しかしとある事件をきっかけにやいとが彼に心を奪われてしまい今に至ることを
実際は誰もが周知の事実であり、やいと本人だけが知らないのである。
どんなに悪態をついたところで彼女が彼に好意を抱いているのは明白であったからだ。
「うんもう、なんで知ってるのよ!誰にも秘密だっていうのに〜!!」
やいとは自室に駆け込み、ベッドに飛び込むと赤く染まった顔を枕に押し付けて呟いた。
「でもでもあいつにだけは絶対ぜーったい、秘密なんだから!」
やいとは枕を投げつけてヤツ当たりしたが、目許は潤んでいた。
「でも・・知られちゃったら・・・どうしよう・・・・!?」
情けない声でぼやきながら顔を思い浮かべるだけでどきどきする胸を押さえる。
そんなやいとのことをふと見上げた空に見えた太陽に目を細めて思い出していたのは
副社長室でひとり仕事中であった彼の人、伊集院炎山である。
”あいつ、何してるかな”べーと舌を出す顔を思い浮かべて自然と頬が緩む。
”まだ子供だからな・・・”と二つしか上でない彼が呟く。
そんなところも気に入っているがと内緒で呟くのを彼の忠実なナビ、ブルースは聞いていた。
しかし彼は有能で忠実な炎山の相棒であるためそれは聞こえていないふりをした。
やいとのナビ、グライドもまた恥かしがりやのやいとのためにこのことは秘しておく。
そんなブルースとグライドが同時にこう呟いたことも当然のことながら秘密である。
「何故隠すのかさっぱりわからん。」








知らない人にはロックマンの世界観て少しわかりにくいと思うんです。(書き手も未熟だし)
ですので今まで書くのを躊躇してましたが、開き直って書く事にしました。(><;
まだ彼の方は未然形なのでしょうけど、やいとちゃんは既にきっちり惚れてると思ってます。
ですので彼が自覚していくとこなんて書けたらいいなあとか妄想している管理人なのでした。