「六月の花嫁」
side green.(ライカ×プライド)



少年は苦境に立たされていた。
冷静さ。
それはどんな状況であっても失ってはならない物。
だが、今の自分が冷静を保っているかどうかと問われたら自信が無い。

「こういうドレス、一度着てみたかったの」
城の者に言ったら皆反対するんだもの。と、年に似合わない子供っぽい表情で隣国の王女は笑っていた。
臣下が反対するのも無理も無い。北国特有の白い肌――少年自身も北国出身なのだから、ニホンの快活少年に比べたら肌は白い。
しかし、彼女はそれよりも透けるように白い―が、惜しげも無く一般市民の目に晒されるのは好ましく無いだろう。
薄い緑色のドレス。自分の緑と合わせたんだろう。それはいい。が、いかんせん露出が異常に高いのだ。
両肩は剥き出し、背中から腰も肌が見える。ついでに丈はタイトのミニ。
後方は頭のベールで隠しているし、首から足元にかけて薄い生地が覆っているのでパッと見そこまで露出して無いように思える。
が、普段ほとんど見る事の無い彼女の白い肌は・・・ほんの少し見ただけで目が眩みそうだ。
(・・・何を考えている俺は)
煩悩と呼んでもおかしくない自分の考えを無理矢理端へ追いやる。
(これは拷問か何かか――?)
これを計画したと思わしき少女を遠目で捉え、思わず頭を抱えたくなった。

*********

男三人が光博士に連れ出されて辿り付いたのは、彼個人の研究室。
「これに着替えて欲しいんだ」
あてがわれたソファーに座り、これと言われた目の前の箱を開けた。中身はナビカラーを基調とした礼服一式。
「・・・これは彼女が依頼した事ですね」
自分と熱斗が目が点になる中、炎山だけは何かを悟った表情に変わっていた。
「流石炎山君。良く分かったね」
「付き合い、長いですから」
二人の少年が置いていかれる中、続けられる会話。
「さ、皆早く着替えて。お相手役のお嬢さん達も待っているからね」
せっつかれて、ノロノロとライカは渡された服を手に取ったのだった。

*********

「背、伸びたのね・・・」
久々に会う少年の横顔を見、旋毛から足まで視線を動かして、プライドは確信した。
「――そう、ですか?」
「まっすぐ見ても、視線が重ならないから」
ほんの二年前は、自分の方がほんの少し背が高かったのに。あの頃よりも背は伸びたのだが、
成長期の少年の伸びには及ばない。
「―確かに、そうですね。ですが、・・・王女は、その――・・・」
一度こちらを見たライカは同調する。が、二の句を言い淀むと口に手をやって視線を逸らした。
「・・・・・・?」
「・・・綺麗に、なられました」
くぐもってはいたが、その言葉は正確に紡がれる。
その言葉を聞いた王女は目を見開き、二度ほど瞬きをした後、ゆっくりと微笑んだ。
「・・・有難う、ライカ」
「・・・・・・」
彼女の礼に少年は答えない。自分が発した言葉に照れてしまっているのか、頬が赤くなっているのが見て取れる。
そして、化粧が施されていて一見判別し難いが・・プライドの頬も桜色に染まってしまっていた事を、
こちらを見ていないライカは知る由も無い。
「――あ」
唐突に、声を上げる。何事かとライカは視線だけ向けてくる。
「今は、クリームランドの王女としてここに居る訳では無いのだから・・プライドと呼んで構わないのに」
「―――――っ!」
勢い良く振り返った少年は、頬どころか耳まで赤く染めていた。
そこまで照れるような発言をしたつもりはこれっぽっちも無かったのだが・・・。
「呼んで下さらないの?」
「・・・・・・貴方には適いませんね、プライド」
小首を傾げて尚も問うプライドに観念したライカは、とうとう彼女の名を口に乗せる。
呼ばれた方は、満足気な笑みで応える。
「プライドー、ライカくんー。準備出来たからこっちに来てーっ」
離れていた距離から、二人の雰囲気など丸で知らない仕掛人の声が響く。
「さ、行きましょうかライカ」
「はい」
友の大声に小さく笑った二人は、呼ばれるままに揃って歩を進めた。






ライカが微妙に成長してます!身長もそうですが、照れつつもちゃんと名前呼んだりとか。
初めは名を呼ぶなんて強固に辞退しそうですもんね。頬染めるプライドが見られなかったあたりが
ライカですけど。(まだまだなこの感じが良いですねぇ!)みかぜさんありがとうございました。