膨れ面プリンセス



部下の手違いのフォロー等で仕事が立て込んでいたときだった。
「祭り」に行かないかという誘いのメールを受け取った。
誘い主のご機嫌を損ねるだろうなと予想するものの、時間がない。
あと1日遅ければなんとか片付けられたものをと思った。
正直に無理な状況であることを伝えると、すぐに返事がきた。
その返事の内容はとても殊勝なものであったため・・勘が働いた。
いくつになっても素直じゃない俺のお姫様のこと・・・
丁寧な文章の裏からはかなりショックを受けたと察することができた。
そこでなんとか仕事を早く納められるよう努力することにした。

しばらくするとその落胆のお姫様の私用ナビから通信が入った。
案の定落ち込んでいるらしい。新しい浴衣を仕舞い込んで泣いてるとか。
主人思いのナビ、グライドもお姫様のためにと俺に懇願した。
なんとか抜け出すとメールした。抜け出すのは息抜きにもなるだろう。
そんな訳でスケジュール変更を重ねて駆けつけてみると
お姫様は周囲の視線を浴びていて、その姿に俺の疲れも一瞬で癒された。
放っておくのがあまりに危険なので、そのまま連れ帰ることにした。
怒っている風でも顔は俺を見た途端明るくなるあたりが可愛い。
残務を片付けるために仕事場へ連れて来て、終わらせるまで待たせた。
予定より相当早めに仕事を片付けて戻ると、お姫様は眠っていた。
起こすのは可哀想かなと躊躇していたら、目を覚ましてくれてほっとする。
ご機嫌はそのときまではそれほど悪いわけではなかった。
ということは、その後俺のした行動のどれかがお気に召さなかったようだ。
「浴衣の着方はわかるか」と訊いたのが拙かったのか、それとも
疲れた顔にくたびれたシャツ姿で抱き寄せたのが行けなかったんだろうか。

「・・・何を怒ってるんだ?」
「別に怒ってるわけじゃあないけど・・」
「じゃあその膨れ面はどういう訳だ?」

拗ねた上目遣いで俺を見て、指は詰まらなさそうに俺のネクタイを摘んでいる。
それはそれで可愛いので、俺としては困るほどの状況でもなかったが。

「そんな顔されると、気になってキスも出来ないぞ?」
「そっそんなことしなくてもいいわよ。」
「この場所がお気に召さない?」
「まぁね・・でもいいわよ、それは・・」
「俺の格好とか?」
「仕方ないじゃない・・お仕事だったんだし。」
「じゃあ何かな、お姫様のご機嫌を損ねた原因は。」
「・・・浴衣、褒めてくれてありがと。」
「あぁ・・褒めるのは褒めたが・・浴衣のことだけだと思ったのか?」
「そう言ったでしょ!」
「とても似合ってる。心配でこうして連れ去らなけりゃならないほど。」
「何が心配よ・・・私なんて目を引くこともないわ。メイルちゃんならともかく。」
「桜井?・・いたのか・・気付かなかったな。」
「まぁ、呆れた!あんな美人に気付かないなんて?!気を遣ってるつもり?」
「そうじゃない。どうした、どうも随分自分を卑下しているように聞えるが・・」
「別に・・事実を言っただけよ。私、そんなに美人じゃないもの・・」
「へぇ〜・・今日はまた・・正直だな。」
「なんですって?」
「いつもなら大げさな自信で胸を張って見せるのに・・本音が出てる。」
「そっそんなこと・・・;」
「俺が原因じゃないんなら、いくら拗ねてもいいですよ、お姫様。」
「なによぅ・・炎山だってちっともホントのこと言わないでしょ、お互い様よ。」
「わかってくれてるんじゃなかったのか?」
「・・・まぁね・・でもたまには・・」
「わかった、観念して俺も本音言うぞ?・・逢いたかった。」
「!?・・・良かった・・それが聞きたかったの・・」
「正解してほっとした。それじゃあ・・」
「ちょっ・・ちっがーう!何なの、この手!?」
「・・何って?」
「せっかく人が感動してるのになんなの!?」
「折角お姫様をさらって来たっていうのに、何もさせてもらえないのか?」
「う〜・・どうしてそうすぐ・・!」
「そんなに嫌なのか?ショックだな・・」
「いつでもいきなりじゃないの!心の準備ってものが要るのよ、女の子にはっ!」
「申し訳ないんだが・・・男なんで。」
「〜〜〜〜〜もおおおおおおっ!!!」

なるほど、俺がいきなり迫ろうとしたのがいけなかったらしい、納得した。
恥ずかしがるところが美味しいとか思っていることはまだ言えないな。
仕方ない、がっつくのは止めて、軽く触れるだけにしておくか・・・

「炎山〜!口紅取れちゃったじゃないのよ〜!?」
「もう家に帰るだけだから構わないだろ?」
「あーっ!?これどうしよう・・」
「どうしたんだ?」
「髪・・なんだか乱れちゃったからもう解いちゃうわ。」
「・・・あのさ、お姫様・・」
「なぁに?・・名前で呼んでよ、さっきから『お姫様お姫様』って・・」
「その・・目の前で髪を下ろすとか、襟元を直すとかってのは・・・」
「なによ、何がイケナイっていうの!?」
「・・・男には結構刺激が強いんですが?」
「!?なっ・・なっなにを・・いやっもう!!」


・・・我ながら我慢強いと思う。真っ赤になって抵抗するお姫様の前には無力だ。
いつになったら、心ゆくまで抱き締められるのかね・・・やれやれ・・
しかし本気で嫌われてしまうのも莫迦らしいので、努力は継続するさ。
ここまで来るのも相当長い道程だったんだから、これまでの努力を無駄にしないためにも。


「ちょっと!そこで何溜息吐いてんのっ!?」
「まさか、そんなことしてませんよ?」
「気持ち悪いからその口調止めてくれない?」
「そこまで怒ることないだろ、脱がしてないし。」
「あっ当たり前よっ!そっそんなことしたら・・」
「命がないとか?」
「死んでどうするのよ!?バカッ!」
「じゃあどんなお仕置きが待ってるんだ?」
「〜〜〜〜ええっと・・わっ私以外の女性と口利かないとか・・」
「へぇ?!・・とか・・?」
「毎日私に逢いに来ないとダメ・・」
「ほぉ・・・」
「それから・・毎日キスするのよ。」
「ふんふん・・まだある?」
「絶対浮気しちゃイケナイんですからね!」
「なんだ・・・じゃあ、いつ手を出してもいいってことだな?!」
「そっ、そんなこと言ってなーーーーい!」


・・・あれだな、俺が手を出さない理由の一つは・・・
この膨れ面のお姫様が呆れるくらい可愛いからだよな、結局。








「わたしのものよ!」のその後、炎山バージョンでした☆
えーと、ちなみにまだキス止まりです。(笑)炎山あと一押しか?!
付き合い出す前後をまだ書いてないので、追々書いていきたいですv
いきなり付き合ってからの話になってしまってごめんなさい。><