「ドリーム☆ハンター」



「・・・何だと?ブルース説明が足りないぞ。」
「はっ炎山さま。・・説明が困難でして・・新作ゲームの企画らしく・・」
「まぁいい。今少し時間があるから見てみる。」
「はっ少々お待ちください。」

I.C.P.副社長、伊集院炎山の元に届けられた一枚のゲームソフト。
ソフト制作の最大手、ガブゴン社から送付されてきた試作品である。
まだパッケージも何もなく、手書きで「D☆H」とだけ記してあった。
このガブゴン社の一人娘は特権を生かして好き勝手なゲームを世に送り出している。
おそらくこれも今までのくだらないゲームの類なんだろうと炎山は予想した。
そしてその予想は覆されなかったのだが、とある映像に彼は脳が一瞬フリーズしたかと錯覚した。
「・・・なんだこれは!?」と思わず呟きが漏れたほど彼は驚きを隠せなかったのだ。
そこに映し出されたゲームのキャラは良く知った人物であったが、そのことに驚いたのではない。
ゲームは中断され、炎山はすぐさまブルースを呼び出した。

「即刻ガブゴン社の社長令嬢に連絡を取れ。」
「はっ炎山さま。」

彼はゲームを終了させると深い溜息を零し、窓に向かって恨めしそうな目を向けた。


かなり厳しいスケジュール調整の末、彼はガブゴン社の玄関に立っていた。
そして急な呼び出しにも関わらず、ガブゴン社の令嬢は暢気に歓迎の意を表した。

「いらっしゃい。こんなに早く感想を聞かせてくれるなんて思わなかったわ。」
「・・・そうか?俺は手にしたと同時にでも乗り込みたかったがそうもいかなくてね。」
「そんなに気に入ってくれたの!?だったら即商品化に向けて・・」
「そうならないよう阻止しに来たんだ。」
「へっ!?・・・どうしてよ!?」
「どうしても商品化したいのなら、条件がある。」
「なんでアンタに条件出されなくちゃならないわけ?一応意見は参考のために聞いておくけど。」
「選択キャラから「オマエ」を外せ。」
「どうしてよ?」
「どうもこうもない。父親は知ってるのか?この企画。」
「・・まだだけど。」
「ならこの企画はいずれにしても没だ。」
「えぇ〜?きっと売れますって言われたのよ?!」
「どこのどいつだ、そんなこと言いやがったのは。」
「ウチの企画室の一人よ。」
「俺ならそいつは今すぐクビだ。」
「ええっ!?・・結構優秀なスタッフなんだけど・・」
「言うこと聞かないと今後一切ガブゴン社との仕事を切らせてもらう。」
「そ、そんなの脅迫じゃないの!?・・なによ、私可愛くなかった・・?」
「そういう問題じゃない。で、どうするんだ?」
「・・わかったわよ・・そんなに怒るなんて・・何がいけなかったのかくらい教えてよ。」
「ここでは話辛い。どこか無いのか。」

社長令嬢、綾小路やいとは少し不服そうではあったが、炎山を自室へと案内した。
ドアが閉まるや否や、炎山は怒りに近い声でやいとに告げた。
「で、どこに居る?あんなふざけたソフトを作った奴は!」
「・・今居るかどうかは調べないとわからないわ。どうするつもりなのよ?」
「ソイツからこの企画のデータ全部取り上げるに決まってるだろう。」
「そんな?!どうしてそんなに怒ってるのよ?」
「オマエあのゲームは今までと違って『男性向け』だとわかってるか?」
「う、うん・・?女の子向けばっかりだったからどうかと言われて・・」
「・・・・・」
「特にあのうさぎさんのは可愛いから炎山に見せたらってお勧めされたくらいなのよ?」
「自分の婚約者を男向けの商品にされて喜ぶ馬鹿がどこに居る!?」
「今までだって私・・」
「今までのはともかく、男向けはダメだ。一切不許可!わかったか!?」
「う・・わかったわよ・・そんなに怒鳴ることないじゃないのよ・・」
「怒らせたのはそっちだろう。」
「何よ、久しぶりに逢えて嬉しかったのに・・」
「・・・まぁ、おかげで顔は見れたがな。」
「そうよ、いつだって忙しいって仕事が優先なんだから。浮気しちゃうわよ!?」
「殺人は犯したくないから、止めておけ。」
「・・怖いこと言うわねぇ・・!」
「この部屋の監視カメラは何処だ?」

最後の台詞はやいと嬢の耳元で囁かれた。慣れた風にこっそりと返事が返される。
監視カメラは各部屋に設置されているのは大会社では当然のことである。
しかし、それは若い二人にとってはこういう場合邪魔にしかならない。
こっそりと死角で寄り添ってしばらく振りの婚約者同士は互いの気持ちを確かめた。
その後、企画した社員はデータ抹消のために自宅のPCまで捜索されたとかしないとか。
しかし優秀な炎山のナビ、ブルースだけは知っている。彼は優秀であるため、当然口外はしないが、
炎山の私用モバイルにはしっかりとウサギ耳のやいと嬢のデータが残されていることを。
ちなみにこのソフトは結局やいと嬢のキャラだけが外されて発売され人気商品になったらしい。
商品名は「ドリーム☆ハンター」、好みの女性キャラで遊べる男性向けのゲームである。
結婚後、やいと嬢のキャラの入ったこのゲームソフトが妻に見つかってもめたのはまた別のお話。








背景のイラストは「Moon Pop Over+」の柚野さんからのいただきものですv
妄想炸裂してますがお許しください。書いてて面白かったです。(^^)
やいと嬢のデータでソフトを作らされたのはブルースですが、気の毒なことです。
炎山はそんなキャラ違うー!と思った方がいらしたらごめんなさい。(謝)