彩 



  春の風 浮かぶ月 芽吹く花   
  夏の光 雲の城 草の匂い
  秋の山 染まる木々 実る果
  冬の声 冴える音 眠る野

  音を調べとし
  香りを楽しみ
  色に染められ
  記憶に刻む
  甘さに蕩け
  心綻ぶ

  教えられ育くまれる
  人も妖も
  この世に在る全て
  彩となすこの驚き
  


春が廻り来ようとしている。
そこかしこに息吹く若芽の香り、
緑のなかに桃や紅を見つけると
子はそれは深く歓んで頬を染める。
世界は姿を変えてゆく。
目に映るものに色が置かれる。
世を美しいと教える。
鮮やかに彩る。
春、それは再生の季節。
あたかも命吹き込まれるごとく
傍らで頬染める子のように輝く。

「綺麗だね〜、殺生丸さま。」
「・・・」
「花なんぞすぐ散ってしまうぞ。」
「でも邪見さま、また春に咲くよ。」
「だからそれの何が嬉しいんじゃ?」
「なんでって・・・嬉しいもの。」
「我々にはようわかりませんな、殺生丸さま。」
子が不安そうに見上げたのでちらと視線をやった。
とたんに笑顔が戻り、勇気付けられたようになる。
「殺生丸さまはわかってくれたよ。」
「はあ?何もおっしゃられておらんだろうが。」
「嬉しいな。」
さっぱりわけがわからんと妖怪の従者は溜息をつく。
子はきらきらと瞳を輝かせ世界に見入る。
「殺生丸さまや邪見さまと出会ってからだよ、」
「こんなに綺麗だなって思うようになったのって。」
「ふん、何を言っとる。」従者は鼻で笑うが悪い気がしない。
子が幸せそうなのが嬉しいのは主と従者同様である。
この世が彩る様は子が頬を染める様とだぶる。
色づき温かくなるこの感触をどう説明すれば良いか。
遠くを眺めながら妖怪たちは美しき世界を知る。
子に教えられ、染め上げられてゆく全て。
慈しむ、愛しむ、育む世界に
子が耐えていた孤独も苦しみも確かに在るはず。
それなのに出会うことで変わりゆく世界の不思議。
護りゆくのはこの出会い。
命与えたのではなく呼び戻しただけ。
おまえを求めて呼び覚ました。
求めていたのはこの出会い。
この世の全てが彩るは
おまえが我の傍に在ること。
慈しみ愛しむことを
私の命もこの身も想いの流れも
ただひたすらに注ぎ込み
ただひたすらにこの彩に酔う。